軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「海自は緊張感欠いている」!

 野島崎沖で起きたイージス艦「あたご」と漁船衝突事故は、潜水艦「なだしお」の事故を髣髴とさせる。漁船やプレジャーボートが錯綜する東京湾で、母港に戻る途中であった「なだしお」は、敏速な行動が取れない状況下にあった。そこへ、漁船を改造した古い“観光船”が接近してきて乗り上げ、瞬時にして沈没したから多くの犠牲者を出した。メディアは「なだしおの乗員は傍観するだけで救助しなかった」と書き反自衛隊感情を煽った。
 JAL123便の墜落事故でも一部のメディアは「自衛隊の位置特定が遅く救助が遅かった」と書き、事故を起こした会社よりも、救助に献身した自衛隊側を非難した。
 大昔、雫石上空で、F−86FとANAの727が衝突して乗員乗客162名が亡くなったとき、「戦闘機が“民間航空路”に侵入して体当たりした」とメディアは書き、それを信じた?政治家が、「犯人は自衛隊」として処理した。その後、ANAの727が後方から接近して“追突”したことが判明したにもかかわらず、依然として自衛隊側の「過失」とされた。
 最もこの時は、事故調査も始まらないうちに防衛庁長官と空幕長が軽々に辞任したため、責任は自衛隊側にある、という印象が定着してしまった。
 MIG-25が函館空港に“強行着陸”した時も、追尾したファントムのレーダーが「万全」であるかのように解説した軍事ジャーナリストがいた。その後、ファントムのレーダーは低高度捜索に弱点があることが判明して、政府はあわてて早期警戒機・E-2Cを導入した。
 今回も、この事故を契機にイージス艦の“弱点”が公表されるのではないか、と私は恐れる。勿論、米国は、コメントにもあったように、2000年10月12日にミサイル駆逐艦コールがイエメンのアデン港に停泊中、テロリストによる小型ボートが艦の左舷に接近して自爆し、大きな被害を受けたことがあるから、テロとの関連で注目しているだろう。その上日本には、秘密保護法もなく、軍事法廷もないから警察と保安庁が『軍隊』を捜査する「いびつな」国である。「なだしお」事件の時は、現場検証と称して「なだしお」を東京湾上で走行させ、その特性を世界中に暴露したばかりか、レーダー反射板などをつけて「見えやすく改修せよ」とまで言われたのであるから、当然、わが軍事音痴政府の調査状況を気にしていることだろう。 
 軍事に疎く、軍事こそが全ての悪の根源だと思い込んでいるある女性評論家は、今朝もテレビで感情的になって「国民を守るべき自衛隊が、高価な船で国民を殺す・・・」などと発言していたが、事故調査で感情を高ぶらせることは禁物である。
 イージス艦が“万能”であるかのような発言をする軍事ジャーナリストもいるが、そんなジャーナリストに限って軍事専門バカ的発言をするものである。軍の装備は「実戦」でその効果を発揮するように設計されているのであり、一事が万事「高性能」とは限らない。外国で「ピストル」くらいは射撃したことがあるかもしれないが、そんな程度のジャーナリストが国民を惑わせてはいけないのだが、今朝は産経までもが「目視頼み 回避1分前」と一面トップに書き、色々分析を試みている。しかし、地図を開いて考えてみるがよい。野島崎から大島沖へ「さば漁」に向かう漁船団は、東京湾に入港する各種船舶の進路を横切る関係にある。
 しかも今の漁船はFRPで出来ているから、レーダーには映りにくい。つまり、海の「ステルス」なのである。ある漁船船長が「『私のレーダーにイージス艦が映っているのだから、イージス艦のレーダーに我々の船影が映らないわけがない。見張りが不十分だ』と自衛隊側に落ち度があると指摘した」と記事にあるのがその例である。
 友人の船舶関係者から「漁船の清徳丸は船体が硝子繊維強化プラスチック(FRP)で造られています。これが、ステルス爆撃機並みにレーダーには映りません。20年ほど前に、余りにも本船のレーダーに映らないので、レーダーリフレクターを掲げるか、いっそのこと、船体を積層するポリエステル樹脂にレーダーを反射する素材でも混ぜたらどうだと考えたことがあります」とメールが入っていた。 
 雫石事故でも、『戦闘機のほうが旅客機よりも早い』と思い込んだ記者たちによって、間違った印象が国民に植え付けられたが、専門的な高度な知識は別にしても、こと軍事一般となると、装備は全てが『万能』であり、故に軍側が悪いとする論調はいかがなものか。
 数年前、北海道で今回と同じような状況でイスラエル船舶と漁船が衝突したことがあったが、このときも同じような論調がメディアに溢れた。しかし、その後の「審理」の結果、漁船側にも過失があったことが判明したものの、それを報じたのは地元の北海道新聞だけであった、と私のブログにコメントが寄せられていたことを覚えている方もあろう。
 勿論、現時点で2名の乗組員が行方不明である以上、全力で救出すべきことは当然であるが、事故再発防止の観点から見れば、冷静な事故調査が望まれる。

 ところで、産経は「主張」に「海自は緊張感欠いている」と書いたが、以前から私もそう感じていたのは事実である。一連のPCからの情報漏洩事件、イージス情報漏洩事件、対馬海上監視隊隊員の上海旅行とハニートラップ、今回の「しらね」火災事故などなど、自衛隊OBとしては実に情けない事件事故が相次いでいることに「弛んでいる!」とチャンネル桜で叱咤したことさえあった。
 今回の事故は、事故調査が開始されたばかりだからこれ以上語るのは控えるが、上層部に「出世争い」でもあるのではないか?と勘ぐりたくなる。上が上ばかり気にして足下を見ないと、必ず「不祥事」は起きるものである。「こんごう」が、MD試射に成功して米海軍から賞賛されても「九仞の功を一簣に欠く」のでは意味がない。
 ただでさえも「前事務次官の不祥事」で防衛省の評判は地に落ちていることを講演先などで痛感する。せめて「防大時代になってから、海自は弛んだ!」「防大教育はどうなっているのか?」と言われぬように、もっともっと「緊張感」を持って日常勤務に励んで欲しいと思う。
 何よりも私が問題にするのは、“それ”を喜ぶのは「どこのどいつか!」と考えているからであり、2008年危機に備えて自衛隊だけでも常に緊張しておかなければ、この国は持たない、と懸念しているからである。

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