「Half moon」(42)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

今回は蓮と光平の回です。あの後の二人。光平目線です。
こちらはHalf moon         10 11 12 13 14 15 16 17  18  19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39 40 41 の続きです。
それではどうぞ↓

















「―よっ」


光平は店の戸を開けて中を探っている蓮に手を上げた。蓮は光平に気付き、光平のいる

テーブルに向かって歩き出した。お盆時期ということもあり、ビジネス街の居酒屋はいつもの

賑わいはなく、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

蓮は従業員にビールを注文して、光平の前にどかっと座った。


「今日も仕事だったんだろ?光平」

「そっか、蓮は休みか。今盆休みだもんな。もう日が分からなくなってるわ」

「仕事し過ぎだな」


蓮はそう言うと、光平を見て苦笑いした。

お互い、注文のビールがくると、目で合図してぐびぐびと飲み始めた。


「――うまいっ!!夏のビール最高!」


光平が言うと、蓮も”マジ最高!!と叫んだ。そしてお互いにんまりと笑う。

蓮と二人で飲むのは久しぶりだった。

この日、呼びだしたのは光平だ。蓮は内容が分かってるとばかりに、光平が話し出す前に

頭を下げてきた。


「−ごめん。この間は。それから・・・・」

「−ストップ!!もういいから。・・・もう分かったんだ」


蓮は顔を上げて、光平を驚いたように見た。


「こっちこそ・・・ごめんな。何もできなくて。蓮が辛い時にさ」

「いや・・・言わなかったのは俺だし」

「んじゃ、あいこということで!」


そう言うと、光平はにっこりと笑った。


光平は幼馴染の蓮のことは誰よりも付き合いが長い分、理解できているつもりだ。沙穂の家

のことを考えると加害者の蓮が言うはずがない。それに、あの時自分自身も蓮に向き合えな

かった。それなのに、蓮からなぜ言ってくれないのかと。心のどこかで蓮を責めていた。だから

”あいこ”どころじゃない。あの偶然が俺に教えてくれたこと。今はただ・・・蓮の味方でありたい

と。何があっても味方でありたい。


蓮はそんな光平を見て、少し微笑んだ。そしてビールをぐいっと飲んだ後、ぽつりぽつり

と話しだした。


「・・・俺、彼女からずっと逃げてたんだ」

「・・・・・・」


事故は見通しの悪い道路で起こった。赤信号を渡ろうとした子どもを避けようとしてハンドル

を思いきり切った蓮の車は横の壁に激突してしまった。幸い車や人の巻き込みはなかったが、

強い衝撃で頭を打った美穂の意識がなく、病院に入った。光平達が聞いたのはそこで植物人

間になったまま眠り続けているということ。でも実際は違った。脳に損傷を受け、記憶の部分

が欠落してしまったようで、美穂は目覚めた時、小さい子供に戻っていた。


蓮はまるで本を読んでいるかのように感情を出さず、淡々と今の状態を話した。光平はじっと

蓮の話に耳を傾けてあの頃を思い浮かべる。


事故の後、蓮はしばらく仲間と会わなかった。光平達は沙穂と蓮にどう接すればいいのか分か

らず、戸惑ったまま何ヶ月か過ぎた。そんなある日、沙穂と蓮がいつもの定例会にひょんと顔

を出した。まるで何もなかったかのように。何も聞かないで欲しいと訴えるように。そこにこんな

理由が隠されていたなんて・・・・思ってもみなかった。


でも、まだよく分からない沙穂と蓮のわだかまり。だが、それ以上光平は聞くつもりはなかった。

これ以上蓮を苦しめたくなかったのだ。今はまだ、何も終わってないのだから。


「・・・俺の前では我慢しなくていいよ。もう分かったんだし」

「・・・・・・」

「感情、もっと出していいよ」


光平に言われて、蓮はふっと笑った。


「・・・・サンキュ。でも多分、これが俺だから。」


蓮はきっと感情を出す方がしんどいのだろう。淡々と話す方が楽なのだと分かっていた。

それなのに・・・光平は言葉に出してしまった自分が少し恥ずかしくなった。


「それで、久々に病室に行ったら、いないから正直ビビッたよ」

「・・・・・・」


蓮はそう言って苦笑いした。実は見ていて分かった。美穂さんはあの時、蓮を探しに外に出て

行ったんだ。それなら尚更、蓮は自分を責めているだろう。


「まさか、お前から呼び出しくらうなんて夢にも思わなかったしな。なぜか翔太の彼女もいるし」

「うん・・・俺も美穂さんを見てびっくりしたよ・・でも相変わらずきれいだな」

「・・・・そうだな。少女みたいだもんな」


蓮は哀しい目をして言った。光平は胸が痛んだ。


「ところで、彼女・・・何て言ったっけ?」

「え?黒沼さん?相変わらず蓮は名前覚えないよな〜」


あはは〜〜〜っ


「・・・あの後も美穂が彼女に会いたがってて・・・すごく珍しい」

「へぇ・・・・。だって街で美穂さんがナンパしたみたいだからね!」

「マジ!?美穂が??」

「あはは〜な〜んてね。なんかいきなり手を引っ張られたみたい」


光平は目線を下に落とし、ぼそっと言った。


「・・・彼女、きれいだから。心が・・・・。分かるんじゃないかな。美穂さんには」

「・・・・・・」


蓮は光平の表情を冷静に見ていた。


「・・・光平は、最近どう?」

「え?」

「いや、俺ばっかだからさ」

「ははは〜〜っ変な気を使うなよ。蓮らしくない。それに俺ばっかって、別に悩み相談なんか

 しないじゃん!蓮は」

「・・・・・・」


鋭い蓮の視線をさっと光平は逸らして、さっきの話に戻した。


「・・・それでこれからどうすんの?」


光平に聞かれて、蓮はしばらくの沈黙の後、はっきりとした口調で言った。


「これから・・・・彼女と向き合ってみる」

「今まで蓮が向き合えなかったなんて知らなかったけど・・・・どうして急にそうなったの?」


光平はつまみを口に入れながら、気軽に聞いたその質問の蓮の返事に箸が止まった。


「・・・翔太に会ったから」


そして、ばっと顔を上げて蓮を見た。蓮は真面目な表情で続けた。


「あいつ見てたら・・・向き合う気になった」

「・・・・・・・」


光平は蓮をしばらく見つめた後、再びつまみに手を伸ばした。口に入れても何を食べている

か正直分からなかった。なぜだか胸が詰まるほどのショックを受けていた。

そして・・・それ以上、とても聞くことができなかった。



「――それじゃなっ。」

「うん、またな」


蓮と光平は手を振ってそれぞれの帰途を歩き出した。

光平は月明かりに照らされながら、重い足取りでゆっくりと前に進む。かなり飲んだのに、

何故だか、全く酔えなかった。


蓮と言う人間を知っている。その蓮が人を信用する、また人に影響されるというのはとても

珍しいことだと分かっていた。だからこそショックを受けたのだと。それは友達としての

ショックではなく、風早の人間性に嫉妬しているのだと・・・・。

彼女と風早の付き合いの深さは分からない。でも、風早が彼女を大切にしているのは分かる。

俺が入る隙間もないのか・・・・?このことを知ったら蓮は・・・・?


光平は立ち止まって、夜空の月を見上げた。

そしていつも自然に浮かんでくる彼女の笑顔を思い出す。


「・・・・諦めるなんて・・・できない」


光平は拳をぎゅっと強く握りしめて、重い足取りで再び歩き出した。









あとがき↓

ちょっと弱気になった光平で。爽子と会っていると好きな気持ちがどんどん膨れ上がり、”絶対
諦めたくない”なんて思うのですが、蓮と会って、第三者的に自分を見たのでしょう。蓮が心を
許す風早のことを裏切っていいのかと。光平にとって蓮はやっぱり大切な友人なんですね。だ
から爽子の相手が蓮なら諦めていたかも。結局いい人なんですよ〜〜〜。もぅ爽子ちゃんが
かわい過ぎるから罪ですね!!なんちゃって!それではまた遊びに来て下さい。

Half moon 43