「君までもうすぐ」2 


風、爽が高校3年、大学が決まった後の話。たった一日の話です。それなのに

5話ぐらいまで長くなってしまい・・・。


* 久々のデートを楽しむ二人は帰る時間になって駅に行くが、電車が止まっていて・・・。


こちらは、「君までもうすぐ」  の続きです。

以下からどうぞ↓
















*************



――その頃の黒沼家の団らん


「爽子はまだか・・・」

「あなた〜爽子も4月から大学生なのよ〜。」

「だ、だが、まだまだ子どもだ!一人で出かけたんわけじゃないんだしなっ」

「帰るのは9時ぐらいと言ってたでしょ。薬草カフェは爽子のこれから通う薬学部にも
 役に立つからってお父さんも許したくせに・・・」

「だから、俺が一緒に行くと言ったのに・・・ぶつぶつ」


母は思わずくすりと笑った。


(・・・最近は受験で爽子が団欒にいて、楽しそうだったものね・・・)


爽子が風早くんと付き合うようになって、父として愛しの娘を取られたようでショックは

大きかったみたいだけど、相手を見て、正直認めざる得ないというか。風早くんは爽や

かで誠実でとてもいい子だった。爽子のことを安心してまかせられる。何より、爽子が

楽しそうなのが分かっていたから。それはこの人も分かっているはずなんだけど・・・・。


そんなことを心の中で考えていた時、トゥルルルル〜〜〜父の携帯音がなった。


「おっ爽子だ♪」


(本当に分かりやすい人。思わず笑ってしまう。)


母は再び、父の姿にくすりと笑った。しかし―――父の悲劇はここから始まっていた。


「えっ―――」


父の顔が真っ青になる。背後からも分かる驚きの姿。


「あなた?どうしたの」


父が慌ててTVをつける様子を母は呆気にとられて見ていた。


『JR○○線はシステム異常の影響で・・・』


「あらぁ〜大変、爽子の行ってる方向じゃない!」

「・・・・・・」


母がアラ?と呑気な様子で振り返ると、父の背後には暗い影がどんよりと漂っていた。



* * * * *



『・・・だからここから帰れなくなって・・・。』


固まっている父の携帯電話を素早く取り上げ、母が受話器に出た。父は母のとっさの行動

にあんぐりと口を開けた。


「あっ爽子?お母さんよ。TV見たわよ。これは動きそうにないわね。仕方ないから、

 その辺のどこか近くのホテルに泊まったら?明日休みだし」

「な、なに言ってんの〜〜〜母さん!!」


後ろから父の悲鳴におろおろしている爽子をじっと見ていた風早は落ち着いた口調で言った。


「黒沼代わって」


爽子は申し訳なさそうな表情で風早に電話を代わった。


『あっ風早くん?』

「こんばんわ。風早です。すみません、こんなことになって・・・」

『なに言ってるのよ!風早くんは何も悪くないじゃない』


電話口から母のあっけらかんとした声。


「でももっと早く帰ってたらこんなことにならなかったかもしれないし・・・」

『そんなの、久々に会ったのにゆっくりしたいに決まってるわよ。それに電車は

 5時ごろから止まってたみたいよ』

『ーそれでね、爽子にも言ったんだけど、今夜はどこかホテルを探して泊ったらって。』

「えっ!!」 


風早の驚愕した表情を爽子は心配そうな様子で見ていた。

しかし、その後ろで『だめだ!だめだ!!』と叫んでいる父。


その様子を聞いていて、風早は大きなため息をついた。


(・・・そうだよな。そんなことおじさんが許すわけがない。そんな夢みたいな話。)


風早は他の方法を必死で考えた。しかし、どうしても他に思いつかない。タクシーで

帰るとしても莫大なお金になるだろうし。


『俺が迎えに行く!』

『何言ってんのよ!お酒飲んじゃってるから飲酒運転になっちゃうでしょ。車もないし』


しばらくの言い争いと沈黙の後ー


『―風早くん。』

「ハ、ハイ!」


突然受話器から聞こえた父の声に風早はびくっとした。


『私が・・・君と同じ男だから分かるんだ。だからこそ!〜〜分かるね?』

「ハ、ハイ」


そりゃそうだ・・・。こんなかわいい娘を預けられるわけがない。いくら面識があったとし

てもまさに狼に差し出すようなものなのだから。


風早はそろ〜っと爽子に視線を移した。きょとっとした表情で不思議そうに見ている彼女。

風早の心臓が大きく跳ね上がる。


どきん、どきん


(や、やばい/////)


こんな特別な偶然・・・もうないよな。おじさんの気持ちも分かる。けど・・・。

いつも、もっと彼女に近づきたいって思っていたのも本音だ。


『もうここは風早くんに任せる他にないじゃない!ねっ!あなた』


必死に説得している母と父、言い争いは続く。そこで風早は意を決したようにぐっと顔を上

げて、携帯に向かった。


「おじさん!俺を信用してもらえませんか?」

『うう・・・爽子は信用できるが、君は・・・。爽子は私の大事な大事な娘だから・・・。』


(うわぁ・・・おじさん泣いてる?っていうか許してくれたの?)


『あっ風早くん?気にしないで。この人ちょっと異常だから。』


そう言って、電話越しでうふふ〜〜っと笑っている母。

そして最後にこそっと言った母の言葉に風早は耳まで真っ赤にした。


”せっかくのチャンスなんだから頑張って!”


ピッ


風早は電話を切って、そっと恥ずかしそうに爽子に身体を向けた。


「く、黒沼。あのさ・・・」

「は、はい?」


そんなこんなで二人は一晩を過ごせるようになった。降って湧いたような幸運に、風早は

胸の高鳴りを抑えられなかった。


夢のような不思議な夜が始まった。




<つづく>


「君までもうすぐ」  





あとがき↓

はい、ありがちな話ですみません。高校生の二人が一夜を過ごしたら?と妄想しました。
まぁ父や母の反応も二次妄想ですよね。多分これはありえんだろうと。それでは、また
続きを見てもらえたら嬉しいです!