「Half moon」(99)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

ずっと心に重荷を抱えたまま苦しんできた沙穂。気になりがらも聞けずに長い年月が経って
いた仲間達。そして、蓮・・・。それぞれが見守る中、沙穂の告白が始まった。

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それではどうぞ↓































**********



「まず、美穂の病気のことを言うと、多重人格障害なんでいろいろな人格が美穂の中に混在し

 てる。一時は13人ほど現れた。でも今は落ち着いてる。事故の後の美穂も人格の一人だった」


沙穂は今まで隠していた美穂のことを皆の前で全て包み隠さず伝えた。そして事故には触れずに

その後の美穂の状態を丁寧に伝えた。


「だからあの時・・・・爽子ちゃんのところに行った美穂と幼児の美穂とは違う人格。きっと幼児の

 美穂は蓮から言われた現実を受け止められずに出来た人格。私はあれから1年半彼女と向き

 合ってきた。時には全て投げ出したくなった。以前の私なら絶対投げ出してた」

「・・・・・」


店の中に沈黙が走る。皆、沙穂の告白を固唾を飲んで見守った。蓮は真剣な表情で目を逸らさ

ずに沙穂を見つめた。


「美穂が回復に向かう中で、どうしても向かい合わなければならなかった一つの大切な出来事が

 あったの。それを美穂自身が認めることで美穂はやっと一歩踏み出せた。だから、こうして皆の

 前で手紙を読むことができる。この日が来ることをずっと夢見てきたけど、美穂を前にすると自信

 がなくなっていた。だから・・・っどうか・・・・聞いてやってください」


今にも泣き崩れそうな自分を必死で保つように、沙穂はぎゅっと手紙を持つ手に力を込めた。そし

て、沙穂の言葉には重みがあった。それは本気で美穂に向き合ったからこそ、出る重みだった。


「沙穂の友達の皆さんへ。そして・・・蓮へ」


皆、ごくっと再び生唾を飲み込んだ。沙穂はもう一度、大きく深呼吸して手紙を読み始めた。


「・・・みなさんの前で言う勇気のない弱い私を許してください。ずっと心に閉じ込めていた真実に

 向き合うことがどうしてもできずに今日まできました。まだ私の中に他の人物がいます。だから

 今、私である間に告白します。・・・あの事故は・・・私がやったことでした。」


沙穂の言葉に一同唖然となり、重々しい空気が店の中を包み込んだ。


「蓮に別れを告げられてたまらなくて、口論の末、ハンドルを動かしたのは私。でも蓮はそのこと

 を一言も言うことはなかった。蓮は・・・何も悪くないんです。何の罪も背負っていない。このこと

 を言うことにこれだけの時間がかかってしまいごめんなさい。それは私の弱さでした。そして・・・

 蓮。きっとあなたは今も苦しみ続けているのだと思います。でももう、これ以上苦しまないで。

 蓮がずっとこのことを黙っていたのは、自分を責めているからと知ってます。別れることは裏切り

 だと思っていたからですね。でも、大丈夫。時間はかかるだろうけど、蓮のことを思い出にできる

 ように私も頑張ります。蓮がくれた沢山のこと忘れません。だから・・・蓮はこれから自分の道を

 歩いてください。蓮は何も悪くないんだから。私が好き過ぎた・・・それだけなんです。今までのこ

 とを許してもらえると思ってません。だから、もう・・・・会いません。でも、どうしても信じたい。あの

 頃の気持ちは本物だったと。蓮・・・幸せになって。本当に優しい蓮だから。大好きだから・・・心

 から願います。本当にごめんなさい・・・ごめんなさい。そして、爽子ちゃん・・・。私の記憶にはあ

 りませんが、大変なことを私はしてしまったと聞きました。謝っても謝りきれませんが、すみませ

 んでした。直接謝れなくてごめんなさい。爽子ちゃんの彼氏さんだと言う人にも・・・本当にごめん

 なさい。・・・最後になりましたが、沙穂・・・面と向かったら言えないから書かせてください。いつも

 本当にありがとう・・・。そしてごめんなさい。

 私の手紙を最後まで聞いてもらってありがとうございました。      美穂」



し〜〜〜〜〜〜〜ん



誰もが声を出せなかった。どれだけの時間が経過しただろう。次第に昌の堪え切れない泣き声が

店の中に漏れ出した。


「うっ・・・ううぅ・・・っ」


爽子も太陽も涙が止まらなかった。

光平は蓮の肩をぎゅっと抱いた。蓮は俯いたまま、肩を震わせていた。蓮は事故のことを背負う

ことが彼女を裏切った自分の罰だと思っていたのだと。それを思うと喉の奥が焼けそうなほど痛

くなった。


「蓮・・・もう、苦しまないで。そして・・・姉を許してくださいっ・・うぅ」


沙穂は号泣して何度も頭を下げた。


「沙穂・・・事故のことは俺も関係あるんだよ」

「−違う!美穂さんを裏切ることが蓮の罪なんかじゃないっ!!」


光平が叫ぶと、店の中に重い空気が漂った。泣いている光平に蓮は優しく微笑むと、”さんきゅ”

と呟いた。そして、他の皆も蓮を囲んでおいおいと泣いた。それぞれが蓮の今までのつらさを共有

するように気持ちを一つにしていた。蓮は涙でぐしゃぐしゃな沙穂を見ると、優しい目をして頷いた。


風早と爽子はその光景を遠くで眺めると、同じ気持ちで微笑み合った。そして、風早は爽子の手

をぎゅっと握る。


「・・・いい仲間だよな」

「うんっ!」


風早は蓮の心の闇に光がさしたのを感じた。一方通行の想いが分かりあえた時初めて、蓮は楽

になれると分かっていたから。きっとこれからは前を向いて歩ける。


沙穂は泣きながら爽子に視線を向けると、嬉しそうに微笑んだ。爽子はその沙穂の笑顔が心か

ら嬉しかった。この長い年月、苦しんでいたのを知っていたから。


大きな試練を一つ乗り越えた沙穂もまた前を向いて歩いて行ける。爽子はそう思うと、再び大粒

の涙を流して、うん、うんと頷いた。



蓮の顔は今までになく晴れ晴れとしていた。

ずっと抱えて生きてきた苦しみを仲間と全て共有することによって蓮の心の壁は崩れた。同じ想い

を一緒に抱えてもらうことがどれだけ楽になることか蓮はこの時、初めて感じることができたのだ。


蓮は長いトンネルを抜けたような気がした。旅の最後にあった長いトンネル・・・。

そして、そのトンネルは決して一人では抜けることができなかったことを強く感じた。




************




「・・・俺、蓮と会えてよかった」

「何だよ、いきなり」

「いや・・・蓮ってすごい奴だなって・・・」


パーティーの帰り道、後ろを一緒に歩いていた蓮に風早は恥ずかしそうに言った。


「蓮はいつも俺のこと真っ直ぐだとか言うだろ?でも本当に真っ直ぐで不器用で・・・純粋

 なのは蓮じゃん」


蓮は風早の言葉に一瞬驚いた表情を見せると、ふっと笑って言った。


「・・・違うよ。俺、もう少しで感情を失うところだった。そんな時翔太に会ったんだ。無機質

 になりかけてた俺を戻してくれたのは・・・翔太だ。そして・・・」


蓮は前を歩いている人物をちらっと見て心に浮かんだことをあえて、言葉にはしなかった。


「全部投げ出そうとしてたんだから・・・逃げてばっかだった俺に勇気をくれたのも翔太だ」

「・・・そんなことないよ。俺だってあの時、ずっと逃げてたんだから。爽子から」


恥ずかしそうに言う風早に蓮はニヤッと笑って言った。


「後悔してんの?」

「そりゃしてるよ・・・あんな想いは二度としたくないって思ってるよ」

「じゃ、逃げないで言ったら?」

「え・・・・?」


蓮は優しい目をして、ふっと口角を上げた。


「ちゃんと自分の気持ちを伝えないと、また同じこと繰り返すよ。俺に言われることじゃね〜だ

 ろうけどな」

「・・・・・」

「相手を想いすぎるのは翔太のいいところだけど、もっと自分を押していいんじゃないのか?」


図星を指された風早は恥ずかしそうに苦笑いをすると、真面目な顔をして言った。


「前はもっと自分の感情のまま動いてた。でも、爽子を知れば知るほど・・・できなくなってきた」

「・・・どんだけ好きなんだよ」

「言葉にできないくらい・・・」


蓮は風早の素直で正直な瞳を眺めると、そのまま視線を夕暮れの空に向けた。

風早は蓮の横顔を見つめながら蓮の言葉を噛みしめていた。


”自分の気持ち・・・”


ずっと言いたくて言えなかった想い・・・。


「・・・・・」


前を歩いていた光平は、二人の会話をさっきから黙り込んで聞いていた。


ピタッ


すると突然光平は立ち止まった。そして、昌と沙穂と楽しそうに話して歩いている爽子の前

まで来ると、道を塞ぐように立ちはだかった。


「・・・光平?」


昌が光平の行動を眉を顰めて見ていると、光平は爽子の肩をぎゅっと握って言った。


「ね、黒沼さん。俺、ここで黒沼さんにプロポーズしていい?」

「え・・・・??」


光平の行動に一同が騒然となった。風早は呆気に取られたように光平を見ていた。


「俺なら、北海道にいるし、ずっと黒沼さんの側にいられる。どんな男からも守れるし」

「ええ??」

「−ちょっとっ!!」


昌は光平の発言にショックを隠しきれずに思わず止めに入ろうとした時、後ろから風早が昌

と沙穂の間をバッと掻き分けて光平の前までやってくると、シャツの襟元を掴んだ。


「・・・やめろよ」


光平は風早の据わった目を見て、負けじと睨み返して言った。


「だって知らないだろ?風早は。ずっと離れて寂しい想いをしてる黒沼さんの姿。時々携帯を

 見ながら泣いてる姿とかっ!」

「っ!!」

「結局側にいないから分かんねーんだよっ!」

「・・俺だって・・・・俺だってずっと側に居たいけど・・・できないんだよっ!!」

「じゃ、ずっとこのままだね。そのうち俺以外にも変な虫つくかもね」


風早は唇を噛んで光平を睨み続けた。


爽子はそんな二人をおろおろして見ていた。光平はバッと風早の手を離すと爽子の前に立った。


「ね、黒沼さん。俺の方がいいって。結局さ〜婚約って言っても形だけだしね。側に

 いるのは俺。側に居たらこんな風に抱きしめることもできる」

「光平!!」


爽子に触れそうになった光平を見ると、昌はたまらなくなって叫んだ。


バッッ


風早は再び光平をすごい形相で睨むと、爽子に触れている光平の手を乱暴に掴んだ。


「触んなよっ!!」


すると瞳を揺らせていた爽子が凛とした姿で真っ直ぐ光平を見て言った。


「私・・・どんなところに居ても寂しくても風早くんを想っていたいの・・・それが幸せだから」

「・・・・」


風早は爽子の言葉を聞くと、ぎゅっと胸を押さえて、決心するかのように顔を上げた。


「田口・・・俺、言ったよな。絶対もう爽子を傷つけないって・・・」

「だから!それが彼女を傷つけてんじゃねの?十分彼女を泣かせてるって」

「俺だって・・・俺だって爽子の側に居たい。本当はこっちに来て欲しい。今すぐにでも

 一緒になりたいに決まってるだろっ!!」

「・・・風早くん・・・」


はぁはぁ・・・


風早が堪え切れず言った言葉に周りはし〜〜〜んとなった。そして、前の爽子を怖々と見ると、

目に涙をいっぱい溜めて自分を見ていることに気付いた。


「・・・そっちに行っていいんですか?」

「え・・・??」

「私・・・風早くんがいいならずっと・・・一緒に居たいです」


しぃ〜〜〜〜〜んっ


風早は無言のまましばらく動けなくなった。爽子は固まったままの風早を見て、不安そうな顔を

浮かべた後、ハっとするように表情を変えた。自分の言ったことが恥ずかしくなったのだ。


そして真っ赤な顔になっておずおずと言った。


「って・・・だめですよね??」


風早は爽子の顔をしばらく茫然と見つめた後、思いのままに抱きしめた。


がばっ


「きゃっ!!」

「・・・・っだめじゃない・・だめなわけない・・・っ」

「か・・・風早くん・・・皆がっ・・・/////」

「え・・・?」


にやにやにやにや


風早が周りをぐるっと見渡すと、皆にやにやして笑いを堪えていた。そこには同じ顔をしている

光平の姿があった。それを見つけると風早は思いっきり真っ赤になって光平を指差した。


「も・・・もしかしてっ!!おまっ・・・わざと??////」


焦りまくっている風早をよそに光平は空を見て、鼻歌など歌っている。


「ははっ〜本当に風早は彼女のことになると余裕ねー」

「ーっさいな////」


光平は風早をしばらく見つめると想いを込めるように言った。


「・・・幸せにしろよな」

「田口・・・・」


風早は光平の目にまだ爽子への想いを残していることを感じた。そして、光平の優しさに心か

ら情けなさと嬉しさが込み上げてきて、脱力した後、思いっきり笑った。皆の笑いが温かく風早

と爽子を包み込む。そんな時、ふと沙穂が目線を上にして考えるように言った。


「ね・・・それって今の・・プロポーズってこと?」

「えっ!?」


風早は沙穂の言葉にハっとなった。そして真っ青な顔をして”今のなしっ!”と手をぶんぶん

として否定した。


「ははっ・・・翔太は隠しときたい系だからな。色々考えてたんじゃねーの?」

「れ、蓮っ!!////」


わははは〜〜〜〜っ



光平は嬉しそうな二人を優しい目をして眺めていた。じゃれあって激しく動いている6人の影

を見ながら爽子と出会ってからの2年半を思い浮かべる。自分も少しは成長できただろうか。

爽子を好きになって気付けたこと。そして彼女を真っ直ぐ愛する男に出会って、自分もそんな

風に生きたいと、そんな恋愛がしたいと心から思った。これから自分はどんな恋愛をするのだ

ろう・・・。そして、蓮は・・・・?


光平は自然に笑う蓮を見て、心から良かったと思った。


きっとこれからも恋愛や仕事で傷ついたりするんだろうな。でもこの仲間がいる。

絶対助けてくれると信じて疑うことのないこの仲間が・・・。


光平は今までのことを思い出しながら、清々しい表情で夕焼け空を見上げた。
















あとがき↓

うぅ・・・昨日急いでいて、話の切れ目を早く切ってしまっていた。(99)に入れようかと思った
のだけど長くなったので、(98)の最後につけときました。良かったらそこからもう一度見て下
さい。すみませ〜〜ん!!ところで、主人公光平の最後の活躍はいかがでしたか?(´,_ゝ`)プッ
いよいよ明日は最終回です。明日更新できると思います。感謝はまた明日書くとして、次回は
予想通りと思います。今までの話で納得できなかった部分もあると思いますが、次回で終了と
したいと思います。抜けている部分があれば後で修正とかするかも・・・( ̄○ ̄;)!
ついに100話!ありがとうございます!

Half moon 100