After Glow 10

オリキャラ主人公、爽風CP揺らぎなし。爽子は新任の高校の保健の先生、風早は大学を
卒業して家業を継ぐという設定。原作高校卒業後のパラレルです。そしてただいま、風早
アメリカ在住中。


☆”K”と名乗った岸部の相談に乗ろうとした爽子だが・・?そして不審な電話を受けた九条は?


この話は ★ After Glow 1 2 3 4 5 6 7 8 9 の続きです。












After glow 10














「あれ・・??え!?」


気づいた時には目を開けているつもりなのだが視界が真っ暗だった。


(目が・・見えなくなった!?)


爽子はドクンドクンッ・・と異常に脈打つ胸をぎゅっと掴んで真っ暗の中、今まで記憶
を必死に呼び覚ます。


(違う・・さっきまで確か保健室で誰かが訪ねて来て、その人は・・・)


「あっ・・”K”くん!!」


その時、全てはっきりした。爽子はバッと身体を起こして立ち上がろうとすると、手が
後ろで縛られていることに気付いた。それに何だか身体に力も入らない。


(なんでふわふわしているんだろう・・?)


そしてステンレスか鉄の棒が身体に当たった。その冷やっとした感覚に嫌な予感が頭に
過った。目が慣れてくると視界が広がっていく。目が見えてないわけではなく真っ暗の
中に居たのだ。


「たいく、そうこ(体育倉庫)・・・?・・えっ!??」


そして自分の身体に視線を移すと、なんと下着姿のまま体育用具のマットの上にいる。
手を縛られているだけではなく、服も脱がされていた。あまりにも恥ずかしい姿に爽子
は動悸が激しくなり、体中を強張らせる。なぜ自分がここにいるのか?眠ってしまって
いたのか??なぜ服を脱いだのか?・・・?そして彼は・・・?


(一体何が・・・)


放課後、保健室にやってきた”K”くんこと岸部くん。やっと出会えた人に私は黒沼爽子
として向き合おうと思った。未熟な自分だけれど、悩みを打ち明けてくれようとする生
徒に出逢うためにこの仕事を選んだのだ。言わば初めての大仕事。かなり意気込んでい
たのかもしれない。


『先生・・僕、悩みがあるんです』
『はい・・私でよければ・・お話聞かせてください。まず、お茶をどうぞ』


そう言ってハーブティーを差し出すと岸部くんは嬉しそうに笑った。


それから・・・?


なぜか岸部くんの笑顔がぼやけていった。曖昧な視界の中、彼が悩みを打ち明けてく
れている。折角話してくれているのに、ちゃんと聞きたいのに力が入らない。


『どうせ今日も家に帰ったら勉強、勉強。真面目な息子を演じないといけないんだ!
 マジでストレスたまるっつーの。たまには息抜きさせてくれよなー』


演じる・・?


『”どうして九条慧に勝てないのかしら?”・・・母親の口癖なんかうんざりだ。それ
 にあいつの僕を馬鹿にしたような目・・・許せない。あの勝ち誇ったようなっ!!』


九条・・くん?


『しっかし、この養護教員も笑えるよなぁ・・”お悩みBOX”なんて小学生じゃあるま
 いしさ。薄気味悪いだけだしさーこの幽霊女。なんでこんな女に構うのかさっぱり分
 かんねーわ、九条の奴』


あはは〜〜〜っと大笑いしている岸部を最後に爽子の記憶は途切れた。


* *


「き、きしべくぅんっ・・だいろーぶ??(大丈夫)どこかいる〜〜?」


爽子はできる限りの大声で叫んだ。でもなぜか呂律が回らない。今自分の置かれている
状況を把握した時、一番に頭に浮かんだのは岸部の無事だった。何が起こっているのか
分からないが、岸部にも危険が及んでいる可能性がある。何より・・彼の悩みに向き合
うことがまだ出来ていないのだ。


(たとえ・・・)


爽子はおぼろげに残った記憶が脳裏を霞めると表情を暗くしたが、すぐに思いを振り切
るように頭をブンブンッと横に振り、勢いよく立ち上がった。


「たより・・ないけろ・・わたしもここに・・いるからね・・っわぁっ!」


と、立ち上がったつもりが足に力が入らずよろけてしまう。
折角念願の職に就くことが出来て頑張ろうと思った矢先、生徒に迷惑をかけていること
に泣きそうになった。爽子はもどかしいほど感覚がない身体を動かし、必死に叫び続け、
何とか自力で今の状態をどうにかしようともがいていたその時ー


ーガタンッ


真っ暗だった室内に光が差し込む。爽子はいきなりの明るさに目が慣れずに眩しそうに
目を細めた。


(えっ・・?ドアが開いた?)


ドアの外から爽子に向けてライトが照らされていた。そして段々と近づいてくる人影。
その人影がはっきりした姿で目に映りその人物を認識すると爽子はまるで夢から現実に
引き戻されるような感覚に陥った。


「・・くじょー・・くん?」
「ー先生??怪我は!!」


九条くんの顔は今まで見たことがないほど感情的で怒っているように見えた。初めて見
る九条くんの顔にびっくりしたのだけれど・・・


(なんだろう・・不思議なほどホッとして身体の力が抜けていく)


「ーっ先生!?」


その瞬間、爽子はふわっと安心したように微笑むと、九条に倒れ掛かる。咄嗟に爽子を
受け止めた九条は呂律が回らない口調の爽子の言葉を聞いた。


「くじょーくん・・きしべ・・くん、さがして・・」
「岸部?」
「たすけて・・きしべくんを・・」
「先生!!」


バサッ


暖かい温もりとともに私の記憶はまた途切れた。やっぱり九条くんはいい人だ。最初に
出逢った時と同じ目をしていた。あの冷めきった目に戻らないように、この人の力にな
りたい・・・心からそう思った。岸部くんを守り切れなかったこんな頼りない養護教員
だけれども少しだけでもあなたの力になれたら・・・心からそう思った。


* *


九条がこの状況にたどり着いたのはあの電話から1時間と経っていないぐらいだった。
暗闇の体育倉庫に彼女がいた。あの男が言っていたことは本当だった。腕の中でぐった
りとしている彼女に何があったのか・・・幸い、意識がない様子ではなく眠っているよ
うだ。


(え・・?)


九条はその時初めて爽子の姿に唖然となる。体中が一気に熱くなる感覚を覚えた。下着
姿の上に手をロープで縛られている、こんな姿にも気づかないほど必死だった自分自身
にも正直、驚いていた。視線を泳がしながらロープを取ると、自分の上着を掛けた。


(・・まじかよ)


九条は爽子をそっとその場に寝かせると、こみ上げてくる怒りのまま背後の人物に冷酷
な目を向けた。先ほどから青ざめた顔で小刻みに震えている人物は九条の目を見てさら
に震えあがった。


「黒沼に・・何した?」


九条の怒りを含んだ低い声が暗闇に響いた。





After glow 11 

web拍手 by FC2










あとがき↓

サスペンスのようなそうでないような感じになってますが、というか風早はどうなった?
って感じです(笑)