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2010-11-24 博士漂流時代に込めた思い

博士漂流時代で言いたかったこと

 すでにお伝えしてきているが、2010年11月16日、ディスカヴァー・トゥエンティワンより「博士漂流時代」を上梓した。

博士漂流時代  「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

 発売一週間だが、幸いにして好評で、amazonのランキングでも最高700位程度になったこともある。

 ここで、この本を上梓するに至った過程を振り返り、この本に込めた思いを述べたい。

 「ポスドク問題の本を書きませんか」と執筆のお話をいただいたのは、2009年10月だった。

 文量は10万から13万字。ディスカヴァーが新たに立ち上げる科学新書の一つとして出版されるとのことだった。

 是非書きます!と即答。

 ただ、この問題について、10万字を超える量の文章を書くことができるのだろうか、と少し不安になったのは事実。

 また、この問題には、すでに

があり、また、ウェブなどでも散々語られた問題でもあり、どのような切り口で書くべきか、しばし悩んだ。


 そうこうしているうちに、行政刷新会議事業仕分けが、科学界に激震をもたらした。

 このとき思ったのが、誰かを糾弾して金くれ、では社会の支持を得られないということだった。

 残念ながら、このとき目の当たりにしたのは、自分の権利しか主張しない研究者たちだった。ノーベル賞受賞者をはじめとする著名な研究者たちが、科学研究は素晴らしいものである、予算が投入されて当然である、と声高に訴える姿が、はたして一般の人たちに受け入れられるのだろうか、と疑問に思ったのだ。

 もちろん、研究者たちの危機感は共有する。ただ、国に予算がなく、多くの国民が貧困や生活苦に苦しんでいる状況に触れずに、科学は大事だ、支持されて当然だ、と開き直っていいものか、と思ったのだ。

 私自身も、集会を開いたり、特別研究員制度の内定切りがないようにと、いろいろ動いたのだが、その中で、どのような本を書くべきか、だんだんと内容が固まっていった。

 空いた時間を使い、すこしづつ書き続けていった。この問題に少しでも触れている本があれば購入し、情報はエバーノートに集約させていった。

 9月に水月昭道さんが

ホームレス博士 派遣村・ブラック企業化する大学院 (光文社新書)

ホームレス博士 派遣村・ブラック企業化する大学院 (光文社新書)

 を上梓されたときは、方向性が重なってしまったかなとちょっと焦ったが、幸いにも補完するような内容だったので、すこしほっとした。

 春が来て、夏が過ぎ、秋の初めに書き終わった。最後のほうには、思いが溢れてきて、校正で120ページも削る事にさえなってしまったくらいだ。


 さて、肝心の内容について触れたい。

 この本で訴えようと思ったことは、知を大切にする社会、知が社会により広く、深く貢献する社会の実現〜サイコムジャパン以来追求してきた「知を駆動力とする社会」の実現だ。

 ポスドクや博士の就職難が語られる中で、知に挑む若者を馬鹿にする言動を見聞きするようになってきた。就職難は、この厳しい経済事情のなかで、ある程度は仕方ない面はある。しかし、大学院に進み、経済的な見返りを求めず、未知なものを探求する稀有な若者たちを、無能だと見下す風潮をなんとかしたかったのも大きい。

 ただ、経済が傾き、生きる事にさえ事欠く人たちが多くいるなかで、博士を救え、だけでいいのか。

 事業仕分けを考える集会の懇親会の場で見たテレビ。2010年に両親から虐待を受けて亡くなった岡本海渡(かいと)君が暴行を受ける映像。酒を飲みながら仕分けを語る我々との間に横たわるものは何か…

 もちろん、それでも研究は大事だ。けれど、それを言うためには、研究者が社会の声をもっと聞き、社会に関心を持たなければならないのではないか。

 水月さんの「高学歴ワーキングプア」は、この問題を世に知らしめた先駆的な本だ。その功績は大きい。しかし、2010年の今、それと同じことをやってはだめだ。博士の置かれた悲惨さを強調しても、理解は得られない。他にももっと苦労している人がいるからだ。

 だから、なるべく客観的な資料を紹介しようと思った。科学技術政策研究所の膨大な調査は、もっと世の中に知られてもいい。しかし、研究者の間でさえ知られていない。

 ウェブで語られる多くの俗説に対する回答は、科学技術政策研究所の資料のなかにあらかた書かれているのだ。それが埋もれているのはもったいない。

 社会のなかの博士という視点を外すことはできない。次世代に何を残せるかという未来の視点も取り入れなければならない。

 世間で流布する文科省陰謀説にも触れなければならないと思った。

 いつも物語は、判で押したように1991年大学院倍増計画から始まっている。しかし、もしそうなら、1970〜80年代のオーバードクター問題をどう考えるべきなのか。諸外国でもポスドク問題は起きている。

 もちろん文科省政府や大学の責任はないとは言わないが(そのあたりはきっちり批判させていただいた)、歴史や世界の情勢を無視して語ることはできない。

 終身雇用年功序列という「日本型雇用」にも触れないといけないと思った。

 事業仕分けのときに、若手研究者はこんなに悲惨なんですよ、と若手を前面に出しているアピールを見た。確かにそうなのだが、少し考えれば、予算が削られることと若手が切られることはイコールではない。ここに、常勤、非常勤研究者の身分の差が広がっていることを痛感させられた。若手はいわば予算獲得のダシなのではないかとさえ思った。

 だから、雇用の流動化に触れた。このあたりは、意見が分かれるかもしれない。今の状況のまま流動化が起これば、安易な解雇の横行など、負の側面が大きすぎるとは思う。

 sivad氏が言われているように雇用の柔軟化のほうが重要かもしれない。

もちろん、様々な分野で博士の技能が活かせることは素晴らしい。ただ、上から一律に流動性を押しつけるとロクなことにならないのは、この10年でだいたい見えたのではないでしょうか。それは立場の弱いものの雇用不安定化を招くだけだし、個々の仕事の性質を考慮しない。

もともと流動的な職業もありますが、それらは仕事が標準化されており、異動のリスクやコストが低く、報酬が十分高い場合です。

逆にいえばそういう状況をつくれば、強制せずとも自動的に流動化するでしょう。

個人的には、雇用の流動化ではなく柔軟化、で対応すべきだと思います。雇用そのものは維持しつつ、仕事を柔軟に変えていく。

 そのあたりは今後も議論を続けていきたい。

 本の最後に引用したのは、

アフリカにょろり旅 (講談社文庫)

アフリカにょろり旅 (講談社文庫)

の一節。

 ここで言いたかったのは、人には知の営みを大切にする心があるはずた、研究者に向けられる声は、知そのものへの否定ではないはずだということだ。

 最後に、4人の識者の方々とのインタビューを掲載した。この問題はいろいろな見方があり、私の見方も一つの見方でしかないからだ。


 本書にアラがあるのは自覚している。物足りないと思われた方がいるかもしれない。

 sivadさんが言われたように、産業政策が薄いのも自覚している。ベンチャー企業にも踏み込んでいないし、水月昭道さんが言われているように、当事者の声は乏しい。

 是非お読みになった皆さんが突っ込んでいただきたい。

 sivadさんが言われているように、博士、ポスドク問題を問題として語るのはこれで終わりにし、次に進みたいと思う。

 宣伝文にもあるように、本書では、希望を書いたつもりだ。問題が深刻なのは重々承知している。しかし、その先には、博士の能力が様々な場面で発揮される希望の未来があると信じている。

 希望は空から降ってくるものじゃない。一人ひとりが作り出すものだ。

 知によって人々が幸せになる社会に向けて、行動する時だ。本書が、そのきっかけになればうれしい。

 

 あとがきで、本書を苗登明さんにささげたいと書いた。

 苗登明さんは、1995年に過労死された中国出身のポスドクで、私は裁判の証人として法廷で証言させていただいたことがある。

 いつか苗さんに、博士一人ひとりの能力がより広く、生かされる社会になったことを報告したいと思っている。

本書に触れたブログ

目次

第1章 博士崩壊

浮かれ気分でいるときに

「博士が100人いるむら」の衝撃

消えた先輩

東大は出たけれど……

医学部に殺到する博士たち

博士はバカ? 

激変する博士、ポスドク

ポストドクターという職業

長時間労働、薄給、不安定―ポスドクの実態

ポスドクの先の絶望

一生ポスドクはあり?

教員がポスドク化する

バイオの無残

心病む博士

もはや博士を目指さない

高学歴ワーキングプア」の先に……

Column 1 博士とは

第2章 博士はこうして余った

始まりは戦後

余り始めた博士 1970年代

社会問題化する博士浪人

動き出した博士たち

OD問題解決の「秘策」はポスドクにあり

バブル―OD問題の解消

ふたたび大学院生倍増

大学院重点化は東大から

ポスドク1万人計画の誕生

必要だけど余る―ポスドクパラドックス

予測された「博士余り」

科学者に当事者意識はあるか

博士の21世紀

第3期科学技術基本計画 多様なキャリアパスの支援へ

持参金500万円?

博士の完全雇用

博士余りは世界でも

政府に足りないもの

Column 2 研究室という世界

第3章 「博士が使えない」なんて誰が言った?

博士問題への厳しい意見1 博士は優秀じゃない?

博士問題への厳しい意見2 博士のマインドが問題だ

博士問題への厳しい意見3 自己責任

博士問題への厳しい意見4 外国に行けばよい

博士問題への厳しい意見5 もっと困っている人がいる

博士問題への厳しい意見6 博士なんか減らしてしまえ

結局、「適材適所」の問題だ

必要なのは雇用の流動化

不遇の先にあるもの

Column 3 博士の給料

第4章 博士は使わないと損!

活躍させないのは罪

若手研究者の活躍の場を拡大せよ

テニュア・トラックを拡充せよ

独立と自由を与えよ

博士+Xで生きよう

活躍の場は「中間的な科学・技術」

博士の活躍を促すために

Column 4 博士の質

第5章 博士が変える未来

ブダペスト宣言

社会のための科学と博士―科学2・0へ

研究は市民の権利

NPOがつくり出す多様な社会

科学に関わり続けよう

市民の役割

博士が変える未来

付録 博士の就職問題について識者に聞く

橋本昌隆さん「ポスドク問題 文科省と大学の共同謀議」

Vikingjpn氏「ポスドク問題は日本の基礎研究体制の構造的問題」

小林信一さん「このままでは大学院が見捨てられる」

奥井隆雄さん「博士の問題は「専門性」「指向」「能力」に分けて考えよ」

あとがき

orionkawagoeorionkawagoe 2010/11/25 07:48 “余剰”博士に限らず、既得権益層による問題先送り、若手への押しつけがこの国をここまで疲弊させたのではないかと思います。ほんとうに「知によって人々が幸せになる社会に向けて、行動する時」ですね。榎木さんの今後の活躍に期待しています。

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