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誰かの妄想・はてな版

2014-08-01

陸上自衛隊幹部学校元教官の認識に見る徴兵制と1970年における政治状況

1970年代までの自衛隊における有事に役立つ平時防衛力整備の検討

陸上自衛隊幹部学校の元教官である高井三郎氏が以下のようなことを述べています。

 各国とも経済上の制約があり、普段から常時即応可能な完璧な軍備を整えて置く訳には行かない。

したがって、将来、危険な事態に直面した場合、動員により急速膨張が可能な平時軍備を整備するに努めている。

 自衛隊が発足して間のない頃に陸上自衛隊の中央部は、有事に対処可能な防衛力を整備するため、大正時代の山梨・宇垣軍縮戦間期(一次、二次両大戦間)の欧米各国の軍備を研究した。

いみじくも、1957年に定めた国防の基本方針は、民生の安定と愛国心の高揚及び国力国情に応じた効率的な防衛力の斬新的な整備を強調している。  

 筆者は、幹部学校のCGS学生当時、旧軍出身の陸幕防衛担当幕僚、幹部学校教育部長及び教官各位から、ゼ−クトの軍備政策を学び、大いに感ずるところがあった。

1970年代に筆者が学校教官・研究員を務めた頃に、政官界で防衛費の削減ムードが横溢するに及んで、中央部では、有事に対処可能な平時防衛力の在り方が論議されていた。

 このため、筆者は、ゼ−クトの軍備政策を参考にして、平時防衛力の在り方を説く拙文を学校記事に載せるように提案した。

ところが、「防衛事務次官が生み出した基盤的防衛力構想の批判を避けよ」という上層部の意向により、掲載を見合わせた。

 しかしながら、折角の作業成果が、将来、役立つと思い、1984年7月に、その要約版を、友人が発行する、ミニコミ誌にとどめて置いた。

本拙文は、旧作業の趣旨を反映し、新たな西側資料を加味して記述されたものである。

 潜在脅威が増大する情勢とは裏腹に、積年にわたり防衛費が削られて、離島などの警備上、重要な陸上戦力も縮小の危機に直面する国情は、有事に役立つ平時防衛力整備の在り方を見直すべき時期を迎えている。人員の削減を迫られる今思うに、良質隊員の確保及び育成こそ、ゼ−クトから学ぶべき最も重要な教訓事項である。

http://www.jpsn.org/free/rohei_tsubuyaki/2011/0208_zehkuto/0208.html

自衛隊は1954年に発足してから1970年代まで「動員により急速膨張が可能な平時軍備を整備」を検討していたことがわかります。その参考事例として高井氏が挙げているのが「ゼ−クトの軍備政策」ですが、それはベルサイユ体制ドイツでの軍備政策、つまり、第一次大戦に敗北して軍備を著しく制限されたドイツが旧連合国の監視下で第二次世界大戦でのヒトラーによる侵略戦争を可能にするまでに再興させた軍備政策を指しています。

ベルサイユ体制ドイツ軍隊構成

第一次大戦に敗北したドイツは、ベルサイユ条約第163条*1で兵力を保有10万人以下に制限されました。ベルサイユ条約にはその他様々な厳しい制約がつけられていますが、もちろんドイツが将来隣国を脅かす軍事大国として再興させないための措置です。

そのため、全体兵力量の制限以外にも細々とした制限が課されています。

例えば、士官の数は4000人以内、士官、下士官は長期勤務制として大量の予備役を作らせない制限をかけています。また徴兵制を禁止し志願制のみとしています。兵力の急速な拡大を防止するための措置です。

その中でワイマールドイツは抜け道を見出し、第三帝国軍拡の素地を作り出すわけですが、その手段が制限10万人中、士官4000人を除いた9.6万人を下士官6万人、兵士3.6万人という著しく偏った構成にして、下士官将校教育を、兵士に下士官教育を施すと言う方法でした。

階級    人数  構成比
士官     4,000  4.0 
下士官    60,000  60.0 
士官+下士官 64,000  64.0 
兵士     36,000  36.0 
計     100,000 100.0 

要するに、育成に時間のかかる士官・下士官クラスを優先的に確保し、兵士は後から徴兵で賄えばよいという発想で、全兵員の3分の2を士官・下士官の定員としたわけです。1954年に発足した自衛隊はこれらを参考にして日本の軍備を検討したわけです。

比較

1976年度防衛白書では軍隊構成は以下のようになっています*2

階級 現員(充足率)定員 
士官  37,296(98.1)  38,011
准尉  3,697(94.7)  3,903
下士官112,852(99.9) 112,982
兵士  84,075(75.6) 111,150
計  237,920(89.4) 266,046

これを「ゼ−クトの軍備政策」と比較してみると次のようになります。(准尉は下士官に含めた)

階級    独軍人数構成比自衛隊構成比
士官     4,000  4.0  37,296  15.7 
下士官    60,000  60.0 116,549  49.0 
士官+下士官 64,000  64.0 153,845  64.7 
兵士     36,000  36.0  84,075  35.3 
計     100,000 100.0 237,920 100.0 

「ゼ−クトの軍備政策」では士官の人数を明示的に制限されていたため「士官+下士官」としてまとめて考えますが、「士官+下士官」人数と「兵士」人数の構成比をもって比較すると故意か偶然かかなり一致しています。「ゼ−クトの軍備政策」は将来の徴兵制復活が前提条件になっていますから、自衛隊の軍備が「ゼ−クトの軍備政策」をモデルとしているとすれば、当然に将来的に徴兵制を復活させることが前提になっていると考えざるを得ないわけです。

初代防衛庁長官の認識

もちろん自衛隊の軍備が将来徴兵制を布くことを想定していたことが明示的に曝露されているわけではありません。もっとも一般にそう疑わせる言動が政府側から漏れていたのも事実です。例えば自衛隊発足の1954年、木村篤太郎防衛庁長官は以下のように述べています。

(第19回衆議院内閣委員会47号 昭和29年10月27日)

○木村国務大臣 私は徴兵制度を絶対にやらぬとは言わない、私はそうは言いません。徴兵制度をしくのについては憲法を改正しなくてはならぬ、憲法の改正は国民の総意によらなくてはならぬ。従つて今の段階においては徴兵制度はやることはできないのだ。私個人の希望から申しますと、私は常に言つておるのでありますが、日本の青年は一応団体生活をしたい、させたい。団体生活のよさは結局親愛の精神、友愛の精神、助け合いの精神、これが養わるのだ、青年がある期間団体生活をやることは望ましい、自分も若いときはやはり団体生活をやつて来たのだ、これによつて互いに親しみ合い、信頼し合い助け合う精神が盛り上つて来るのだ、日本の青年は一度は団体生活をやれ、この意味においても、徴兵制度は別問題といたしましても、何かの制度をもつて青年に団体生活をさして、友愛の精神を養うことが望ましいのじやないか、こういう気持を持つております。

この時既に“若者を鍛えなおす”的な精神論徴兵制の原型、右翼的徴兵制肯定論が政府側から示されています。この時は憲法徴兵制を禁止しているという前提で語っていますが、この直後の1955年に結党される自民党憲法改正を目的として成立した政党であることを考慮すれば、“憲法上できないからやらない”ではなく“徴兵制を実施できるように憲法改正すべき”という認識であることがわかります。木村防衛庁長官は早晩憲法が改正されるだろうという認識の下、「徴兵制度をしくのについては憲法を改正しなくてはならぬ」と発言したに過ぎません。

日本国憲法硬性憲法であったが故に、1950年代徴兵制まで後退することを抑止することが出来たと言えるでしょう。

1970年国会にて

発足から15年を経て高度経済成長期の恩恵から軍事費増大が進むようになると、政府側は頻繁に徴兵制へ色目を使うようになります。

1970年政府は最初の防衛白書から「徴兵」に関する記述(徴兵は行わないという主旨の記述)を原案から削っています。削ったのは中曽根康弘防衛庁長官です。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○大出委員 (略)

 核という問題につきまして、この防衛白書の中で、核につきましてたいへん方々に心配がある時期にもかかわらず、小型の核兵器は、自衛のため必要最小限度の実力以内のものであって脅威を与えないというようなものであれば、これを保有することは法理論的にはできるのだ、わざわざなぜこれを書かねばならぬわけでございますか、理由を承りたい。片っ方では徴兵なんというものはわざわざ削る。非常に国民的な心配のある核という問題については、わざわざこれを入れる。それは徴兵だって核だって国会で論争してきたのはもう長いのでございますから、いろいろな角度からのやりとりはあった。何でわざわざこれをここへ入れなければならないのか、その理由が私はわからないのでございますけれども、どういう意味でございますか。

○大出委員 (略)私も奉公袋か何かもらって、出征の赤紙をもらって出かけたんですが、徴兵いやなんということがいろいろ一ぱい書いてある。これだけ徴兵いやだいやだと言って大騒ぎさせなければならない理由はない。あなたがことばの端をとらえるなと言ったって、原案徴兵という文字がちゃんと載っていた、それは行なわない、とるところではない、こういう趣旨に書いてあったものをわざわざ削れば、これは世の中はその意図があるのじゃないかということになる。少なくともそういうせんさくは行なわれる。あたりまえです。一体この辺のところはどういうことになっているんですか。

徴兵制を将来にわたって取るつもりがないのであれば、防衛白書原案から徴兵制を否定する文言を削る必要性がありません。将来への含みがあると解されて当然です。実際、「ゼ−クトの軍備政策」を自衛隊が研究しているくらいですから、徴兵制を検討していたのは間違いないでしょうが、自民党政権にしがみつく以上はそのようなことを言って票を失うわけにはいきません。タカ派的言動には賛辞を送るような有権者徴兵となれば忌避感を示すのが普通です。犠牲になるのが自分以外であれば威勢の良い声を歓迎するのが、残念ながら「普通の市民」の姿です。

さて、票にしがみつく自民党議員らしく中曽根防衛庁長官は言い逃れを試みます。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○中曽根国務大臣 徴兵はいたしません。ただ法理論という問題になると、二、三議論があったようです。それで法制局の意見を参考にいたしまして、われわれの自主的判断でそのところは削った、そこのところに置いておくことが適当でない、そう判断したから削ったので、徴兵はしないということは一貫していることであります。

これに即座にツッコミが入ります。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○大出委員 それはほかにもあるんですがね。つまり、徴兵というのは、しないというのと、法理論上できないというのとは違う。徴兵制度というものはとり得ない、とれないというのと、あなたの言う、しないというのは違う。しないのなら、これは政策だから、将来することもある。当然でしょう。(略)どうも学者、学説の中に、多数意見のほうは憲法徴兵はできない、こういうけれども、いいんだという少数意見もあるという段階で、有権解釈がない、だから、ということで待ったがかかったように新聞はものをいっている。そうすると、元凶は法制局なんだ。高辻さん、あなたのほうだ。この委員会でもかつて論争したこともある。もう一ぺんあらためて、世の中が注目しているんだから、はっきりしていただきたい。徴兵制度はとれるならとれる、とれないならとれない。しないんじゃないですよ、とれるのかとれないのか、やれるのかやれないのか。やれないということになれば国民は安心する。長官のように、いたしません、いたしませんじゃ、いたしますと言いかえるかもしらぬ。中曽根流論法で、ひゃっといつか言いかえたということになると、中曽根さんは若いから心配です、先がありますから。そういう意味でひとつはっきりしてください。

1954年の木村防衛庁長官の発言では「徴兵制度をしくのについては憲法を改正しなくてはならぬ」でした。徴兵制憲法上明確にできないと政府は発言していたわけです。しかし、15年経っても憲法改正の見込みが立たなかったためか、法的に“できない”ではなく「徴兵はいたしません」と言い換えはじめました。憲法9条がうやむやにされていったのと同じやり方でうやむやにしようと政府は試みたわけです。これに対して大出俊議員社会党)が的確に突っこみました。

これに対して高辻法制局長官が色々言い訳しつつ、次のように答えます。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○高辻説明員 「日本の防衛」という、いわゆる防衛白書から徴兵制度についての文言が消えたということが一般にいわれておりますが、これは交渉の中での話でございますので、あらためてそのことについて私は申し上げようとは思いません。これはいずれにしても、ただいま防衛庁長官がおっしゃいましたように、防衛庁として削除されたということは間違いのないことであります。(略)いまお尋ねはそういうことではなしに、徴兵制度というものは一体わが日本国憲法のもとでやれるのか、とれるのかとれないのかというお話でございます。(略)一般に兵役といわれる役務の提供は、わが憲法の秩序のもとで申しますと、社会の構成員が社会生活を営むについて、公共の福祉に照らし当然に負担すべきものと社会的に認められるわけでもないのに義務として課される点にその本質があるように思われます。このような徴兵制度は、憲法の条文からいいますとどの条文に当たるか、多少論議の余地がございますが、関係のある条文としては憲法十八条「その意に反する苦役に服させられない。」という規定か、あるいは少なくとも憲法十三条の、国民の個人的存立条件の尊重の原則に反することになるか、そのいずれになるか、私は、多少論議の余地があるかと思いますが、いま申したような徴兵制度、これは憲法の許容するところではないと私どもは考えます。

微妙な言い逃れをしていますので説明しておきますが、つまるところ「公共の福祉に照らし当然に負担すべきものと社会的に認められるわけでもないのに義務として課される」「いま申したような徴兵制度、これは憲法の許容するところではない」と言っているわけです。徴兵制全般ではなく「いま申したような徴兵制度」という限定があり、それは「公共の福祉に照らし当然に負担すべきものと社会的に認められるわけでもないのに義務として課される」ような制度と言っているわけです。

自民党の石破幹事長が言うように「外部からの侵略から国の独立と平和を守ることこそ「最大の公共の福祉」」という解釈になれば、兵役は「公共の福祉に照らし当然に負担すべきものと社会的に認められる」という解釈になり、徴兵制憲法違反であるという判断が崩れることになります。つまり中曽根・石破の合作により、徴兵制が合憲化する危険性があるわけです。

大出議員はさらに突っこみます。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○大出委員 (略)並木さんという方が質問をして、昭和二十八年、十九回国会、佐藤達夫さんが法制局長官の時代ですが、(略)「大体の傾向としては、現憲法のもとではむずかしいという学説の方が、われわれの目に触れ」ております。(略)船田国務大臣が、第二十四回、三十一年三月二十二日の衆議院内閣委員会、ここで「現行憲法において徴兵制を施行するということは、これは憲法の許すところではないと存じます。」と明確に答えている。(略)これはそういう明確な答弁があった。それを何となくまたぼやかし、林さんから結果的にはできないというふうなことを言っているのに、あなたはまた佐藤さんの時代に戻っちゃった、この委員会で。だからそういうことでは困るから、憲法上できないならできないということをやはり明確にしていただかぬと、研究中でございますだけでは困る。いかがですか。国民がこんなに心配していることは最近見たことがない。

これに対する高辻法制局長の答。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○高辻説明員 ただいま御指摘の質疑応答、私は全部承知しております。それから、法制局は大学の研究室と違いますから、(略)徴兵制度というものは一体何であるかという辺から調べまして、いまそういうような一般に徴兵制度といわれるような内容の徴兵制度、それはわが憲法のもとでは許されないということをはっきり申し上げておるわけでございますから、その点御了承願います。

大出議員はここで中曽根防衛庁長官に同じ確認を取って矛を収めますが、最後にもう一度指摘しています。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○大出委員 どうも確たる御答弁がないような気がするんです。私がなぜこの辺をしつこく聞くかというと、昨年の六月十七日、これはあなたの防衛局がつくっておられる例の「憲法上の制約、国民感情等を考慮しないとすれば、」、称して「自前防衛の長期構想」というもの、この中にあるやつはみな抜いてある。この中に徴兵制度もちゃんと書いてある。「徴兵制度、軍時訓練の普及等の措置さえ必要となろう。」と書いてある。そうしたら徴兵検査は切られている。(略)

ここで防衛局1969年時点で、日米安保が解消した場合などを想定して「徴兵制度、軍時訓練の普及等の措置さえ必要」と書いていることが指摘されています。防衛白書ではそれを隠蔽した、という指摘です。1969年時点で安全保障環境によっては、徴兵制が必要であると自衛隊サイドは認識していたわけです。

その後、伊藤惣助丸議員公明党)が再び徴兵制について質問*3政府答弁での徴兵制が限定的なのではないかと指摘します。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○伊藤(惣)委員 先ほど法制局長官が大出委員におっしゃった中で、憲法の十八条さらに十三条に抵触するから、徴兵制は現在の憲法は許容しない、許さないということを述べられました、通説ではとおっしゃいました。それで私は、この徴兵制の問題については、法制局の中にそれに反対する、通説でない説があるようにも聞いているわけであります。もう少し突っ込みますと、憲法の十八条、十三条に抵触しない徴兵制ということであってみれば、それは許されるのかどうかということです。

これに対しても高辻法制局長官は、「そういうものについては」という限定的な留保をつけた上での憲法違反との回答を繰り返します。

(第63回衆議院内閣委員会31号 昭和45年10月28日)

○高辻説明員 (略)その徴兵制度というのは、これはまあ一般に常識的に考えられることでありますが、「国民をして兵役に服する義務を強制的に負わせる国民皆兵制度、即ち、軍隊平時において常設し、これに要する兵を毎年徴集し一定期間訓練して、新陳交代させ、戦時編制の要員として備えるもの」これと同じようなものがございます。(略)そういうものについては、(略)私どもの見解としては、(略)憲法上許容されないと考えるということを断言申し上げたつもりでございます。ただ学説として申し上げれば、(後略)

しかも後略部分で、兵役憲法18条の苦役にはあたらない、などを「少数説」と言いつつ詳細に言及する有様でした。1970年時点で徴兵制に歯止めをかける憲法第18条は骨抜きにされていたわけです。

少なくとも1970年まで自民党政権徴兵制を視野に入れていた

と言っても大過ないでしょう。

自衛隊徴兵制移行を前提として軍備計画を検討し、防衛局日米安保解消の場合という条件付ながら徴兵制の必要性を明言し、自民党政治家は防衛白書から「徴兵は行わない」という記述を削除したわけですから。自民党徴兵制を目論んでいるという疑いは、杞憂などではなくほとんど黒に近い灰色だったわけです。

それを食い止めてきたのが、国会政府側の言質を取り続けた野党議員であり、徴兵制反対の声を挙げる市民であり、容易に改憲できない日本国憲法だったわけです。

軍オタが言うように徴兵制が合理的でないから採用されてこなかったのではなく、軍オタが今も侮辱し続けている徴兵制を懸念する野党市民団体そして憲法によって阻止されてきたわけです。軍オタは徴兵制のない社会という利益を享受しつつ、それを維持してきたものを侮辱し続けています。

彼らは一体何と戦っているのでしょうか。

どうも、徴兵制を“合理的でない”“現実的でない”と否定したがる人はデータに基づかない感情的な反論、根拠の乏しい印象論、あるいは反論しやすいわら人形を想定しているケースが多いので、もう少し冷静になって広範な資料を読んでほしいと思います。

*1http://en.wikisource.org/wiki/Treaty_of_Versailles/Part_V

*2http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/1976/w1976_04011.html

*3:その公明党が今や集団的自衛権行使容認の閣議決定に参加する与党側であるというのは、「平和の党」の平和ボケとしか言いようのない事態ですが・・・

2014-07-31

高齢化とベテランの区別くらいはできた方がいいと思いますよ

現在の自衛隊が、士官5万人、下士官14万人、兵士4万人というアンバランスな構成になっているのは、何度も指摘しましたし、防衛白書読めばすぐにわかる話でもあります。このような構成となっている一つの原因が、戦後自衛隊が発足するにあたって、自衛隊が将来徴兵制に移行することを想定して士官・下士官を充実させる構成をとったという点ですが、それ以外にも理由があります。

ひとつは、自衛隊の職業として雇用安定性です。任期制自衛官は原則2年で除隊になるため、終身雇用の伝統が強い日本では職業としては好まれません。自衛隊入隊希望者も多くは雇用の安定した下士官以上として採用されることを望みます。このため、士官・下士官の定員充足率はほとんど100%近いのに対して、兵士の充足率は60〜70%程度で推移してきました。

任期制自衛官として入隊したものも除隊後の雇用不安から再度任期制自衛官を希望したり、下士官への昇進を望んだりしました。そして士官や下士官という安定した職業についた自衛官は、労働者としては当然のことですが辞めることなく定年まで居座ろうとします。結果として士官・下士官高齢化が進み、定員の空きが少ないため新規採用枠も少なくなり、組織としての新陳代謝が停滞することになります。兵士採用枠も半分が非任期制になり、組織の新陳代謝はますます悪化します。

結果としてこのように指摘されることになります。

自衛隊員の平均年齢は36歳と、欧米の軍隊(平均30歳程度)に比べて高く、年齢構成の見直しも求められている。割愛制度の再開で、部隊の最前線から退いたパイロットの早期退職を進め、人件費圧縮するとともに、自衛官の若返りを図る。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140118/biz14011810010001-n2.htm

確かに自衛隊では1士、2士の充足率は極端に低い。また自衛官の平均年齢も他国の軍隊に比べて高い。これらは筆者も指摘してきた事実であり、この解消が必要であることは筆者も否定しない(グラフ1)。

http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013020600004.html

自衛隊高齢化しているのは、これまでも結構指摘されており、防衛白書あたりを読んでもそのあたりの危機感はわかるはずです。防衛省自身2008年には「防衛力の人的側面についての抜本的改革報告書」などを出しています。

 日本の自衛隊を海外の軍隊と比較して目立っているのは年齢構成の高さである。図録には、防衛省の「防衛力の人的側面についての抜本的改革報告書」から、陸上自衛隊と米国陸軍英国陸軍尉官以上の幹部年齢ピラミッドの比較図をかかげた。

 まず驚くのは、米英では20歳代が最も人数が多いのに対して、日本は50歳代の人数が最も多い点である。

 軍隊は少数の経験を積んだ位の高い将校が大勢いる位の低い青年将校を従え、一般の兵卒を指揮して事に当たるピラミッド型構造が適していると素人目にも思われるが、日本の場合は、高レベル将校は確かに少ないが、長く自衛隊にいる現場の先任将校が沢山いて恐らく大きな力を振るっているのである。これでは風通しが悪く、また軍事費の多くが人件費に消え装備費には多くを割くことができない大変難しい状況になっているのではないかと想像される(兵力削減問題については図録5220参照)。

 報告書ではこう述べている。「米英軍においては、在職期間を制限した退職制度や早期に支給される年金の存在等により、早期に退職するものが相当数存在すると考えられるのに対し、自衛隊においてはそのような制度等はなく、基本的に定年まで勤務する傾向にある...自衛隊のような実力組織においては組織をより精強な状態に維持することが必要であることや、近年、国際平和協力活動などで実際に活動する機会が増加していることを踏まえれば、現状の年齢構成は望ましくない。...自衛隊の年齢構成是正等の観点から、40代での退職のための新たな中途退職制度について検討する必要がある。」

 従来は「実際に活動する機会」が少なかったのでこうした逆ピラミッドが成立してしまったかのような表現は本音なのかも知れない。中途退職制度だけの問題ではなく、退職自衛官の職場が欧米のように民間に多く開かれておらず、それは自衛官自体の能力の問題と退職自衛官を喜んで受け入れる民間企業や学校等が少ないという社会環境の問題が背景にあると考えられる。

(2008年12月21日収録)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5221.html

徴兵制デマ」で「仮に8.5万人を徴兵で賄うとすれば、その費用は13万人いる曹クラスから優先的に早期退職させれば賄えますね」と私が述べたのは上述した自衛隊高齢化という問題を前提としているわけですが、そもそもその程度の知識もないバカには理解できなかったようです。

まあ、防衛白書も新聞もちゃんとした資料にあたることなく、匿名ブロガーの根拠レスの適当な放言を真に受けるような残念オツムでは「高齢化」が「練度が高い」に脳内変換されてしまうのもやむをえないのかも知れませんが。

高齢化」を「練度が高い」「ベテラン」と脳内変換している事例(54歳曹長最強説)

TakamoriTarou web ねた

姨捨山に捨ててこれるなら、いくらでも若者をとる事が出来るだろうけど、練度の高い兵隊を捨ててまでやると言う想定は現実的なのだろうか。 2014/07/30

Red-Comet "13万人いる曹クラスから優先的に早期退職させれば"で読むのをやめた。 2014/07/30

ponkotsupon えっ、わざわざベテランである曹クラスの比率を減らして練度を下げる必要があるの、それこそ無理のある想定なんじゃないの。 2014/07/30

guldeen military government economy blog 考察

「13万人いる曹クラス」・つまりベテランを早期退職させ、そこを徴兵で埋めれば『人件費的には』浮くかもだが、練度は間違いなく下がる。練度の低い集団が返り討ちに遭うのは、W杯サッカーを見るまでも無いが? 2014/07/31

o_toshi "13万人いる曹クラスから優先的に早期退職させれば"何と言うか、経済的徴兵制論もそうだが、この手の発言をする人は「こうすれば徴兵制施行できる」論を展開しているが、いったい何がしたいのか分らん。 2014/07/30

http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/scopedog/20140729/1406649206

こういう人たちは、40歳の下士官200人(経験20年)で構成された中隊1個で、20歳の兵士200人(経験2年)で構成された中隊3個(計600人)を簡単に殲滅できるとか思ってるんでしょうね*1

彼らの脳内では在職年齢=練度、とかの認識みたいですが、だとすれば在職40年近い曹長(54歳)とかラオウ並みに最強なんですかね?

現在(2014年7月31日)公開されている日本戦犯の自供

名前   身分
鈴木 啓久 第117師団
藤田 茂  第59師団
上坂 勝  第53旅団長(第59師団
佐々 真之介第39師団
長島 勤  第54旅団長(第59師団
船木 健次郎第375連隊長(第137師団
鵜野 晋太郎第232連隊 中尉
榊原 秀夫 関東軍防疫給水部林口支部長
富永 順太郎華北交通株式会社本社警務局
城野 宏  戦後、閻錫山軍に参加
相楽 圭二 戦後、閻錫山軍に参加
菊地 修一 戦後、閻錫山軍に参加
永富 博之 宣撫班。戦後、閻錫山軍に参加
住岡 義一 戦後、閻錫山軍に参加
大野 泰治 満州国警務指導官。戦後、閻錫山軍に参加
笠 実   傀儡政府顧問
神野 久吉 大同省公署警察隊首席指揮官
武部 六蔵 満州国総務長官
古海 忠之 満州国官僚
斉藤 美夫 満州国憲兵訓練所長少将
中井 久二 満洲国錦州地方法院審判官
三宅 秀也 奉天省警務庁庁長
横山 光彦 満洲国奉天高等法院審判官
杉原 一策 満洲国司法部刑事司長
佐古 龍祐 満州国鉄道警護総隊総監部科長
原 弘志  満州国鉄道警護総隊総監部警備科長、鉄路警護軍少将参謀長
岐部 与平 満洲国厚生会理事長
今吉 均  黒龍江省警務庁庁長
http://61.135.203.68/rbzf/

陸軍の高級将校の他に華北交通などの鉄道警備部隊、戦後国民政府軍に加担した兵士、満州国などの傀儡政府官僚などの自供が公開されています。罪状は様々で虐殺・強姦・強制連行・生物化学兵器実験など。

じっくり読めばいい史料でしょうね。人民日報日本語版で記事があったものは名前にリンクを張っています。

*1:いずれも隊長・分隊長には士官・下士官を充てると想定。

2014-07-30

徴兵制非合理論の陥穽

徴兵制は合理的ではない”というのは軍オタお気に入りの主張で、特定の政治志向を持った軍オタが主に左派的言説を攻撃する時によく用いられます。

ネット上で群化している徴兵制非合理論者は攻撃的な性向を有しているため、ツイートやコメントなどでの集団攻撃が頻繁に起きています。徴兵制非合理論は攻撃の際の材料として使われるだけで、論として成立しているわけではありません。このため、個々の主張は結構雑なものが多く、“徴兵制は合理的ではない”という主張自体が現実的でないこともしばしばです。

左派だけではありませんが、安倍政権集団的自衛権行使容認を閣議決定したことを契機に徴兵制の懸念が広がっています。集団的自衛権行使容認は自衛隊の任務のあり方を変えるわけですから、自衛隊そのものの組織構成にも影響することになり、結果として徴兵制が必要になるのではないかという懸念が生じるのはもっともな話ですが、徴兵制非合理論者は論理的でない理由で“徴兵制は合理的ではない”という結論に固執しているため、そういった懸念に対して反発しか感じません。このため、無駄に攻撃的・挑発的なコメントをしたり、慇懃無礼に侮辱したりを繰り返します。

では徴兵制非合理論者は、一般に広がる徴兵制の懸念について答えることができているのでしょうか?

とても出来ているとは言えませんね。

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2014-07-29

ハーグ条約初の運用

まずは日本から母親が連れ去った子どもを日本に返還するよう命令が出たようです。

文面からは日本人と外国人の国際結婚ではなく、日本人同士の夫婦らしいです。

ハーグ条約>7歳児 日本に戻すよう初の返還命令

毎日新聞 7月29日(火)11時58分配信

 国境を越えて連れ去られた子の扱いを取り決めたハーグ条約に基づき、母親とともに英国に滞在していた日本人の子を日本に戻すよう、英国裁判所が命じていたことが関係者への取材で分かった。日本では、今年4月に同条約が発効。外務省によると、日本の子の返還命令が出されたのは初めて。

 関係者によると、日本へ戻すよう命じられたのは別居中だった日本人夫婦の7歳の子。母親が今年3月末、子を連れて英国に渡り、5月になっても戻ってこなかったため、父親が同条約に基づいて子の返還を求めていた。父親からの返還の援助申請に対し、英国政府が5月末に援助を決定。ロンドン裁判所が今月22日、「出国後に母親が父親と約束した期間を超え、5月以降も子を英国に滞在させていることは、ハーグ条約上は違法な状態に当たる」と判断。今月30日に子を日本へ戻すよう命じた。日本の家裁では現在、母親側から離婚調停と、どちらが子を養う「監護親」となるかを決める審判が申し立てられている。

 父親側の代理人の本多広高弁護士は「日本でハーグ条約が発効していなければ、母親の意向で今後の子の扱いが決まっていたと思われる。子を速やかに元の国に戻した上で、話し合いや裁判が進められることになり、適切な判断が出されたと評価している」と話す。

 一方、母親は関係者を通じ「子を英国に連れて行ったのは仕事上の都合であり、違法に連れ去る意図は全くなく、今回の司法判断にかかわらず、7月末に子をいったん帰国させることを決めていた。子は4月以降、通っていたイギリスの学校を気にいっていた」と語った。【伊藤一郎】

 ◇ハーグ条約

 「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」の通称。国境を越えて一方の親に連れ出された16歳未満の子の扱いを規定する。主に国際結婚の破綻ケースが想定されているが、同じ国籍の夫婦にも適用される。残された方の親が子の返還を求めた場合、相手国の裁判所が元の国に戻すかどうか判断する。また、海外に連れ出された子との面会を求めた場合、相手国の支援を受けられる。今年5月時点の加盟国は92カ国。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140729-00000033-mai-soci

子ども(7歳)は3月末に母親によって連れ去られ、5月に父親がハーグ条約に基づく返還を要求し、英国政府は5月末には援助を決定し、7月22日英国裁判所が判断を下し、7月30日には子どもを日本に帰国させるように命令しています。日本の裁判所での調停や審判の流れに比べるとわずか3ヶ月での決定は極めて早いと言え、ほぼ児童虐待事案と同様の迅速な対応をしていることがわかります。

母親側は「違法に連れ去る意図は全くなく、今回の司法判断にかかわらず、7月末に子をいったん帰国させることを決めていた」と言っていますが、さすがに苦しい言い訳です。しかも「いったん帰国」なので「子は4月以降、通っていたイギリスの学校を気にいっていた」ことを理由になし崩しに親権を奪取して父親から引き離す意図だったと思われて当然の状況です。

もっとも国境を越えた連れ去りは防止できても、問題は「日本の家裁では現在、母親側から離婚調停と、どちらが子を養う「監護親」となるかを決める審判が申し立てられている」の部分です。

母親が子どもの身柄を抑えた状態で、日本で監護者指定の審判*1をやれば、母親が圧倒的に有利であり、結局は子どもは父親から引き離される可能性が高いといえる状況です。

父親側は当然、連れ去りをやるような母親の監護者不適格という線で責めるでしょうが、見通しはあまり明るくありません。その後の親権の帰趨はおそらく報道されることはないでしょうが、いずれにしても子どもが双方の親と交流できるような結末を迎えて欲しいものです。

通州事件に関する簡単な説明

通州事件とは、1937年7月29日から30日にかけて通州及び順義*2で起きた冀東防共自治政府所属保安隊の駐留日本軍に対する反乱に巻き込まれた日本人・朝鮮人民間人に対する虐殺事件を指します。中国側では、通州・順義での保安隊反乱全体を通州起義、あるいは「反正」と呼び、傀儡政府軍隊であった冀東保安隊が正統な政府である国民政府側として決起したというニュアンスで語られます。

盧溝橋事件から3週間経過しており反乱そのものに計画性はあったと考えられますが、当日の経過を見る限り民間人虐殺は計画的ではなく無計画で衝動的に生じた事件と言えるでしょう。反乱のきっかけとして語られることの多い7月27日の日本軍機による保安隊誤爆事件ですが、計画実行を促す効果はあったと思われるものの誤爆事件だけが単独で動機となったわけではないでしょう。

一方で、右翼論者がよく言うように、計画的な日本人虐殺事件と語るのも事件経過から見て誤っていると言わざるをえません。まして虐殺事件の原因を民族性に求めて中国人差別を正当化するかのごとき論説は、民族差別以外の何者でもなく忌避されるべき主張です。

民間人虐殺の第一の責任は保安隊にありますが、日本当局側にも責任があります。冀東保安隊反乱全般について言えば、日本軍側の手際の悪さはかなり問題があると言えます。

通州、冀東政府を含む華北一帯での中国人住民の対日感情を著しく悪化させたのは、1931年満州事変から華北分離工作へと続く一連の日本の侵略政策が原因です。現地の既存産業を著しく妨害した冀東密貿易や幣制改革の妨害など、住民の生活を直撃するような経済事案もありました。また、通州に集まった日本の民間人・軍属の中には大陸で一山当てようとしてやってきた性質の悪い者が多く、アヘン密売や女衒なども少なくありませんでした。中国住民の目に映る日本人とは、軍人でなければアヘン業者や売春宿の主人であったわけで対日感情が良くなる要因はほとんど皆無と言っていいでしょう。これらが冀東保安隊の反乱の動機となっていったのは想像に難くありません。

反乱直前(7月27日)の誤爆に関しては日本当局者が謝罪しているものの、中国側が事件を起こした場合に日本が要求する当事者の処罰などが誤爆した犯人に適用されるわけでもなく、感情的に治まるようなものだとは言えません。時間をかければ緩和できたかも知れませんが北平攻撃の真っ最中では望むべくもありませんでした。そのような状況を考慮すれば、日本当局者の対応は不十分だったとも言えます。また、この時点で冀東保安隊側に反乱の計画があったはずですが、その徴候に気付くこともできなかったのも失態と言えるでしょう。

反乱が起こって以降については、通州に駐留していた日本軍部隊の責任も少なくありません。数で優る保安隊相手に防戦したこと自体はそれなりに評価できます*3が、29日深夜には戦闘終了し通州城から保安隊が退去しているにも関わらず、居留民保護のための行動を取ったのは30日の夜が明けてからです。6時間以上も通州城内の居留民の様子を確かめようとしなかったのは、居留民保護の責任がある日本軍としては大問題と言えるでしょう。

さらに、通州城外の日本軍の動きもお粗末で、7月29日中に航空偵察で通州城内での異変に気付いているはずですが、地上からの救援命令は30日深夜1時(旅団命令)と朝8時(軍命令)になってからです。7月28日から30日にかけて、日本軍は北平・天津などで攻勢を取っており、ために通州での異変は放っておかれた感が強いと言えます。航空偵察での異変確認は7月29日12時、民間人虐殺は同日14時以降、日本軍主力は通州から眼と鼻の先の北平周辺に展開していました。航空偵察と同時に一個小隊程度の偵察隊派遣や少なくとも連絡員を派遣することくらいはできたでしょうし、その場合民間人が犠牲になる前に間に合った可能性もあります。ですが、実際に部隊派遣命令が出たのは、北平周辺の戦闘が収束した7月30日になってから、既に多くの居留民が殺害された後でした。しかも、実際に救援部隊が通州に到着したのは7月30日16時になってからです。その救援部隊の支那歩兵第2連隊は冀東保安隊を完全に取り逃がしています。冀東保安隊は北平北部で別の部隊によって捕捉され撃滅されました。

つまり、通州事件に際して日本軍は初動から後手後手にまわり、ろくな対応ができず、救援隊は遅れた挙句に保安隊を取り逃がすという失態を演じています。通州守備隊は自分たちだけ営舎に篭り、居留民をろくに守ることすらできませんでした。特務機関を置いていながら、冀東保安隊による大規模な反乱の予兆すら掴めないというのも日本軍の諜報能力の未熟を物語っています。

日本軍の対応で鮮やかだったのは、事件を“中国人部隊”の仕業として発表し、日本国内における批判の矛先を日本軍から中国軍へと反らした点と、それを大々的に宣伝に利用し、日中戦争に邁進する軍への国民の支持を得た手腕くらいです。

通州事件は形式上、冀東防共自治政府の失態であり冀東政府は1937年12月に日本政府に対して賠償を行っています。

なお、通州事件以前の華北において日本軍は既に民間人虐殺を繰り返しており、天津爆撃なども含めて国際的な非難を浴びています。日本は通州事件を対抗プロパガンダに利用することになります。このため、歴史的には、通州事件は日本が中国侵略を正当化するプロパガンダに利用した事件という流れで記憶されることになります。

戦後の戦犯裁判南京大虐殺に代表される残虐行為を告発された日本側は、対抗言論として通州事件を再び利用することになります。独立後も戦記物では通州事件が頻繁に取り上げられ続け、日本社会の加害者意識の忘却と被害者意識の植え付けに利用されました。

そしても今もなお日本の極右勢力によってプロパガンダに利用されています。


通州事件に関してはいくつも記事を書いていますので、詳細に知りたい人は以下参考にしてください。

通州事件関連エントリー

徴兵制デマ

徴兵制は金がかかるからできないっていういつものデマ。

JSF @obiekt_JP 2014-07-26 20:05:04

くじ引き徴兵制の場合、日本の20歳の人口は120万、男だけで60万、徴兵期間を2年とすると120万人が対象となるけど、自衛隊の総数24万(陸自17万人)のうち陸自の半分を徴兵でまかなうとしたら8万5千。若者男性の14分の1。2014-07-26 20:13:34

http://togetter.com/li/698145

で、人件費がかかるっていうお決まりの流れですが。

仮に8.5万人を徴兵で賄うとすれば、その費用は13万人いる曹クラスから優先的に早期退職させれば賄えますね(例えば曹4.5万人リストラ、士4万人は総入れ替え的に。)。むしろ年齢が高い分給料も高い人たちが減るので差分が生じるくらいでしょう。問題になるのは退職後の再雇用の世話くらいなものですが。

現状の24万人はそのままでプラス8.5万人という発想自体が貧困だなと。そもそも今現在、兵卒クラスは4万人しかいないので、8.5万人という想定も謎です。

安全保障環境が変わって24万人プラス8.5万人いるということなら、そもそも防衛予算から見直す必要がある話で、予算上無理ならそれに見合った防衛計画に練り直すだけということに過ぎません。

名無しロサ・カニーナ @type_69 1日前

自衛隊員一人当たりにかかっている経費は給与込みの平均で2012年で、陸自が1200万、海自空自は1400万くらいと記憶しています。ちなみに冷水しか出ないシャワー、隙間風だらけの営舎、各種消耗品は自弁、が当たり前でこの額です。さて徴兵にかかる金額はいくらくらいでしょう?

http://togetter.com/li/698145

防衛計画で必要な人員分の費用で変わりませんね。防衛上必要な人員以上徴兵することにどんな軍事的意味があるんですかね?

徴兵制非合理論者に見られる特徴ですが、徴兵制=現状戦力+全員徴兵 と勝手な前提を立てる傾向があり、その上で金がかかるとか色々主張するんですよね。もしこの手の人たちが言いがかりをつけてきた場合は、まず「勝手な前提」を見抜くようにしましょう。彼らの狙いは「勝手な前提」で構築した自分たちに有利なフィールドに引きずりこんで、相手を追い詰め罵倒することですから、気をつけるべきです。


首相国会徴兵制憲法違反と言っているから大丈夫?

JSF @obiekt_JP 2014-07-26 20:59:57

@echi_ta @gc_cic 今の首相国会徴兵制憲法違反と明言してますけど。あと若者を鍛え直す目的なら一部だけ徴兵しても意味ないですよ、でもすべて根こそぎ徴兵すると数兆円かかりますよ、お金出せるんですか、出せないでしょうという話です。2014-07-26 20:59:36

http://togetter.com/li/698145

自民党幹事長である石破議員は「徴兵制憲法違反ではない」*4といった趣旨の発言をしていますし、内閣が変わったら閣議決定憲法解釈が変わる可能性が、つい最近示されたばかりですから、何の保証にもならないでしょうね。まあ、“政府は嘘つかない”っていう素朴な信仰も大事だな、とは思いますよ。


将校下士官不足ガー

これはちょっと新しいタイプ。

名無しロサ・カニーナ @type_69 1日前

ちなみに徴兵制導入するのはいいとして、その兵隊を指揮する下士官将校はどう充当するの? という視点が誰からも出てこないあたり、日華事変から太平洋戦争にかけての下士官将校不足で陸軍が物凄い苦労した事が完全に忘れ去られてしまっているのだなあ、と、感慨深くあったりします。

名無しロサ・カニーナ @type_69 1日前

ちなみにこの下士官将校不足というのはとてつもない深刻な問題で、太平洋戦争開始時に、頭号師団明治以来の連隊ですら、少尉で小隊長、中尉で中隊長、大尉で大隊長連隊長だけ大佐、みたいなのが当たり前のようにありました。日華事変から太平洋戦争の間の軍拡で、それほど指揮官不足が発生していたのです。

名無しロサ・カニーナ @type_69 1日前

ちなみに本来ならば、連隊長が大佐で大隊長が少佐、中隊長が大尉で小隊長が少尉、というのが普通です。上の書き込みのような偏在は、恩給貰えない事前提の予備士官をかき集めまくってもこの有様でした。しかも徴兵制ですから満期除隊があるわけで、戦争のまっただ中なのに無理矢理召集期間伸ばした3年兵4年兵が除隊するとかあって、連隊の戦力がごっそり低下するとか当たり前に起きたりしています。

名無しロサ・カニーナ @type_69 1日前

なにしろ日華事変は終りが見えなかっただけに、徴兵された兵隊士気もかなり低く、戦争によるストレス憂さ晴らしに現地で略奪強姦やりまくったわけで、支那派遣軍総司令部が頭を抱えたりするほどの大問題になりました。慰安婦問題の端緒はここら辺にあったのですね。

名無しロサ・カニーナ @type_69 1日前

で、兵隊のその手の行儀の悪さをとがめて軍規軍律を維持するための下士官将校は若く経験の不足したジャクばかりで数も足りず、憲兵も正規の教育を受けた者が足りず補助憲兵なんて代物を使う有様。軍隊としての体をなしていない有様になるのは割りと当たり前でした。それでも1945年まで戦い抜いたのですから、当時の日本はかなり無茶をしていたわけです。

名無しロサ・カニーナ @type_69 1日前

というわけで、徴兵制復活云々を言う人間は、まったく太平洋戦争について知らないし勉強をしていない、という事を自ら語っているわけですね。そんな人間が平和云々を口にするのは、個人的には「もっとがんばりましょう」のスタンプを押してあげたいくらいです。

http://togetter.com/li/698145

徴兵制導入するのはいいとして、その兵隊を指揮する下士官将校はどう充当するの? という視点が誰からも出てこない」とか言ってますけど、現在の自衛隊将校*54.8万人、下士官13.9万人で、将校下士官も、3.8万人しかいない兵隊よりも多いんですよね*6兵隊が4万人もいない状況で「兵隊を指揮する下士官将校」が足りないんですか?兵隊1人指揮するのに、将校1人下士官3人でまだ不足?

ちなみに「日華事変は終りが見えなかっただけに、徴兵された兵隊士気もかなり低く、戦争によるストレス憂さ晴らしに現地で略奪強姦やりまくった」件に関しては、「徴兵された」ではなく「召集された」の間違いではないでしょうかね。徴兵され現役で投入された1〜2年兵あたりは士気モラルも高い方だと思いますよ。現地召集された3年兵以降とか、戦争後半に徴兵された兵隊は別でしょうが。

名無しロサ・カニーナのような人間が徴兵制云々を口にするのは、個人的には「もっとがんばりましょう」のスタンプを押してあげたいくらいです。

*1:監護者に指定されれば、ほぼ自動的親権者となります。

*2:順義でも反乱が起きたことに関しては「盧溝橋事件」と「中国抗日戦争史」の双方で確認しました。

*3:とは言え、100名程度の部隊がおり少ないとは言えませんが。

*4http://blogos.com/article/90486/

*5:准尉含む

*6http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140722/1406049872

2014-07-28

冷戦末期から兵員数を半分に減らした上で徴兵制を廃止したドイツと一貫して兵員数を変えていない日本では事情が異なる

ドイツなどを挙げて徴兵制は廃止する傾向にあるから、日本でも徴兵制はありえないという主張がありますが状況がまるで違うので比較できるものではありません。

冷戦末期の1990年におけるドイツ連邦軍兵士数は約52万人でした。徴兵制でなければ到底確保不可能な人数です。これが2011年には22万人にまで減りさらに18.5万人にまで減っていきます。冷戦末期の3分の1近くまで削減された状況で徴兵制の廃止が決まっています*1。志願制でも人数確保できるという見通しがあれば、軍事的に徴兵制は必要ありません。

社会的・政治的には、市民の参加する徴兵制軍隊の暴走を抑止する役割がありますから、一概に軍事的理由だけで決まるわけではありませんが*2安全保障環境というものが徴兵制の有無の重要な要因になることは間違いありません。

徴兵制が非合理的だという主張は間違いだらけであり、何度も指摘済みですのでここでは省略します。

興味ある方は下記記事を読んでください。

徴兵制って別に軍事的合理性がないわけじゃないと思いますが。

徴兵制に関すること

「なぜ徴兵制が現実的ではないのか?」といって挙げている内容が現実的でない件

さて。

翻って日本の自衛隊ですが、兵員数は1990年以前から一貫して22〜25万人程度で若干漸減傾向で推移しています。兵員構成のアンバランスや兵員の高齢化という問題があるものの、現状傾向を維持するなら別に徴兵制を導入する必要性は薄いと言っても大過ないでしょう*3。しかし、徴兵制非合理論者が見落としている、というかあえて避けているのが安全保障環境の変化です。

もちろん、中国ロシア北朝鮮との関係が改善して日本周辺の安全保障環境が改善されるのであれば、自衛隊は現状のままか削減しても問題ありません。しかし、徴兵制非合理論者の多くは、日本周辺の安全保障環境が悪化していると散々主張してきた人たちです。不思議なことに、この手の人たちは、日本周辺の安全保障環境の変化が与える徴兵制の必要性への影響については一切語りません。

周辺国の脅威が増加した場合や自国軍の役割が拡大した場合に必要な軍備の変化について検討を避ける人たち

ある意味「平和ボケ」とも言えます。

中国北朝鮮の脅威を実態以上に煽ってきた人たちは、もう少し自身の言動に責任を持つべきです。私は過去数十年にわたって年5兆円規模の予算で装備を拡充してきた自衛隊は、現状拡張している中国軍対峙できないほど弱体だとは思っていませんし、軍隊規模として見る限り中国北朝鮮が脅威だとも思っていません。ですが、中国北朝鮮を脅威だと言い募ってきた人たちはつまり、今の自衛隊では駄目だと言っているわけですから、何らかの軍拡が必要だと言っているに等しいわけです。

22〜25万人規模の自衛隊で人数的に足りるのか、足りないのか、人数を減らして装備を更新するか、人数そのままで装備を更新するか、人数が足りないとすれば不足分は志願制で賄えるのか、賄えないのか、それらについて冷静に先入観なしに語るべきでしょう。

もっとも、日本が個別的自衛権のみ認める状態であれば、兵員数よりも海空装備の充実の方が防衛上の有意義でしょうね。ただ、その場合は無駄な陸自要員はリストラして予算の圧迫を軽減すべきですが、そういった主張も徴兵制非合理論者界隈からはほとんど聞きません。

重要なのは集団的自衛権容認によって自衛隊の任務の性質が変わる点です。海外派兵の可能性が飛躍的に高まりますし、湾岸地域の警備駐屯など陸自要員が多数必要な任務もありえます。集団的自衛権容認への賛否はともかく、現に戦闘が行われていない地域に広範囲に駐屯する場合、陸自要員が大量に必要になることくらいは理解できるでしょう。

そういった場合に、22〜25万人規模の自衛隊で人数的に足りるのか、足りないのか、人数を減らして装備を更新するか、人数そのままで装備を更新するか、人数が足りないとすれば不足分は志願制で賄えるのか、賄えないのか、それらについても冷静に先入観なしに語るべきでしょう。

現在の自衛隊には兵卒クラスは4万人足らずであり、任期制自衛官に限定すればわずか1.7万人程度です。3万人程度の駐屯を“日本を守ってくれる大事な同盟国”から求められた場合、30代・40代の下士官クラスばかり送り込むのか、下士官・兵同数で送り込むのか、日本国内の兵卒をほとんど空にして兵を送り込むのか、一体どう考えているのでしょうか。

どうも徴兵制非合理論者は、徴兵制否定という先入観だけで論理を後付けでこじつけているように見えてなりませんね。

ちなみに自衛隊の士官・下士官・兵の比率の年次推移については以下にまとめていますので、先入観だけ反論する前に読んでおくことをお勧めします。

低い充足率に合せるように定員を減らすも現員も減ってしまう“いたちごっこ”

と言っても理解できないでしょうけどね。自分の頭で考えられない人は周りのネガコメ見て安心してDisるということを平気でやります*4が、周りのネガコメも何も考えていないので、集合無知としか言いようがなかったりするわけですが。

*1:「ドイツおよびスウェーデンの防衛産業政策に関する調査ミッション報告」2012 年2 月22 日(社)日本経済団体連合会 防衛生産委員会

*2ドイツ軍の役割が国防から海外派遣にシフトしている点も徴兵制から志願制にする理由の一つと言えます。つまり、国防は国民の義務だが海外での武力行使までは義務ではない、という考え方です。海外派遣が主目的の軍隊を義務兵役で賄うのはおかしい、どうしても必要ならば志願兵で、という考え方ですね。

*3:厳密に言うと、兵員数を大胆に減らすか新陳代謝を図るかして構成のバランスをとる必要はあり、場合によっては徴兵しないと賄えない可能性はあります。

*4:自分の頭で考えられない例:「hima-ari なるほどなーと納得しかけたけど、ブコメ見て即刻手のひらクルーした。そういや太平洋戦争ってめっちゃ外征してたね。戦線延ばす気が無いなら兵卒ばっか居てもしゃーない。 2014/07/20」http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/scopedog/20140718/1405705378