白燐弾は焼夷兵器ではないの?(その1)

ちょっと真面目に。

白燐弾が焼夷兵器制限条約で規制されていない事と、この条約の意義について : 週刊オブイェクト
を見てみよう。


白燐煙の危険性

JSFさん、グローバル・セキュリティのサイトから、次のように抜き出して「白燐の燃焼で発生する煙は強い毒性のガスなどでは無いことが理解され」と語ってます。

Casualties from WP smoke have not occurred in combat operations.
「WP(白燐)煙からの死傷者は戦闘で生じていません.」

There are no reported deaths resulting from exposure to phosphorus smokes.
「白燐煙に晒された状態が原因だと報告された死亡例はありません.」

Generally, treatment of WP smoke irritation is unnecessary. Spontaneous recovery is rapid.
「一般に,WP(白燐)煙焦燥の治療は不必要です.自発的回復は迅速です.」

http://obiekt.seesaa.net/article/113362000.html

しかし、白燐弾の危険性を否定するには不十分な引用ですね。
White Phosphorus (WP)
このサイトには、白燐の性質が書かれており、概説の他に「焼夷効果」「発煙効果」「非軍事用途」「歴史」「健康被害」に分けて説明されており、JSF氏が引用したのは「発煙効果」の部分です。

White Phosphorus (WP) - Smoke
(略)
Most smokes are not hazardous in concentrations which are useful for obscuring purposes. However, any smoke can be hazardous to health if the concentration is sufficient or if the exposure is long enough. Medical personnel should be prepared to treat potential reactions to military smokes once such smokes have been introduced to the battlefield. Exposure to heavy smoke concentrations for extended periods (particularly if near the source of emission) may cause illness or even death.

Casualties from WP smoke have not occurred in combat operations. At room temperature, white phosphorus is somewhat volatile and may produce a toxic inhalational injury. In moist air, the phosphorus pentoxide produces phosphoric acid. This acid, depending on concentration and duration of exposure, may produce a variety of topically irritative injuries. Irritation of the eyes and irritation of the mucous membranes are the most commonly seen injuries. These complaints remit spontaneously with the soldier's removal from the exposure site. With intense exposures, a very explosive cough may occur, which renders gas mask adjustment difficult. There are no reported deaths resulting from exposure to phosphorus smokes. Generally, treatment of WP smoke irritation is unnecessary. Spontaneous recovery is rapid.

White phosphorus fume can cause severe eye irritation with blepharospasm, photophobia, and lacrimation. Irritation of the eyes and irritation of the mucous membranes are the most commonly seen injuries. These complaints remit spontaneously with the soldier's removal from the exposure site. The WP smoke irritates the eyes and nose in moderate concentrations. With intense exposures, a very explosive cough may occur, which renders gas mask adjustment difficult. There are no reported deaths resulting from exposure to phosphorus smokes.

http://www.globalsecurity.org/military/systems/munitions/wp.htm

サクッと訳してみます。

ほとんどの煙は、隠蔽目的で使用されるような濃度では危険ではない。しかし、どのような煙でも濃度が充分な場合、あるいは、曝露時間が充分長い場合は、健康被害を発生しうる。医療関係者は、一度でも戦場で使われたことのある軍用煙幕に対する治療できるようにするべきだ。高い煙幕濃度に長時間(特に煙幕発生源附近で)曝露された場合、重症かあるいは死を引き起こす可能性がある。

戦闘時に白燐の煙による死傷者がでたことはない。白燐は室温で多少揮発し、その毒性により呼吸障害を引き起こす可能性がある。湿気の高い空気中で、酸化リンからリン酸を生じる。濃度と曝露時間によるが、リン酸は様ざまな種類の刺激性の痛みを引き起こす。目や粘膜への刺激が最も典型的な症状である。これらの訴えは、兵士たちを曝露箇所から移動させれば自然に解消する。過剰な曝露が、激しい咳を引き起こし、ガスマスクの調整を困難にするかも知れない。燐煙の曝露による死亡報告はない。一般的に、白燐煙による傷害への対策は、特に必要ではなく、速やかに自然治癒する。

白燐ヒュームは目に対して眼瞼痙攣、羞明、流涙などの重篤な傷害を引き起こす。目や粘膜に対する傷害が最もよく知られている障害である。これらの訴えは、兵士たちを曝露箇所から移動させれば自然に解消する。過剰な曝露が、激しい咳を引き起こし、ガスマスクの調整を困難にするかも知れない。燐煙の曝露による死亡報告はない。(註:この部分、前段落と同文で繰り返しになっているのだが、単語がfumeではなくsmokeになっているのでひょっとしたら誤記かも?)

まず、医療関係者(軍医や衛生兵かな?)に対して煙幕による健康被害の準備をするように促している点などから考えて、これらの記述が兵士を対象としていることは明白でしょう。
つまり、これらの記述の前提条件には、白燐煙幕弾を打ち込まれた民間人については含まれていないと考えるべきで、死亡報告がないという説明も兵士達についてのことと思います。
そして、基本的には自軍による攻撃時の煙幕展張を想定しているように読めます。
煙幕展張後に歩兵が乗り込んでいっても特に問題はない、と、そういう記述ですね。

要約すると、煙幕として漂っている白煙自体は濃度も低くそれほど危険ではないが、目や喉に害があるので症状が現れたら白煙のない場所に移動して休ませれば特に治療を必要とせずに回復する。しかし、白煙の濃度が高い発生源付近や、長時間白煙に曝露された場合は、重症化することがあり死の危険もある。また、白燐ヒュームは重篤な障害を起こす危険性がある。と。


こんな感じでしょうか。「白燐の燃焼で発生する煙は強い毒性のガスなどでは無い」と言うのとはかなりニュアンスが異なります。それに死傷者の報告がないことを強調していますが、白燐煙の危険性や性質は産業医療の見地から既知なものである上、訓練や装備・医療体制の整った軍隊による作戦・訓練であるので、その最中に死傷者が出ないのはそれほど不思議な話ではないでしょう。

ところが、そういった訓練や装備もなく、白燐被害に対応した医療体制もない民間人にとってはそうではありませんね。煙が充満していても、逃げ遅れた家族がいれば助けに行くでしょう。ばら撒かれた白燐により火災が発生すればなおさらです。また、火を消すために水をかけることもあるでしょう。そういう人たちに「Exposure to heavy smoke concentrations for extended periods (particularly if near the source of emission) may cause illness or even death. 」という認識があるとは思えません。逃げ遅れた人を助けようとして二次災害を引き起こす危険性は通常の火事よりも遥かに高いでしょう。

”高濃度が危険だと言うのならどんな煙も危険だろwww”というのは信者の中でよく使われる屁理屈ですが、以下のようなリスクがどのような煙にでもあるでしょうか?

CDC提供の白燐情報

HEALTH HAZARD INFORMATION

Routes of exposure
(...)

Effects of overexposure
1.Short-time Exposure : The vapors of burning phosphorus (yellow) are irritating to the nose, throat, and lungs. Severe breathing difficulties may occur. The onset of these difficulties may be delayed for several hours. Phosphorus (yellow) on contact with the skin may ignite and produce sever skin burns with blistering. Phosphorus (yellow) is especially hazardous to the eyes and may produce severe damage. When phosphorus (yellow) is swallowed, after a delay of a few hours, nausea, vomiting, and abdominal pain may occur. The vomit may smell like garlic and glow in the dark. After 24 to 36 hours, the symptoms may go away. In a few 2 or 3 days. the nausea, vomiting, and abdominal pain may reappear with diarrhea and a yellow color to the skin. Death may occur.

http://www.cdc.gov/niosh/pdfs/0507.pdf

テキトー

過剰曝露の影響

1.短時間の曝露: 燃焼中の黄燐の蒸気は、鼻、喉、および肺に害を与える。重篤な呼吸困難が起こることもある。これらの症状は数時間遅れて発現することがある。皮膚に付着した黄燐は、発火し水ぶくれの伴う重篤な火傷を引き起こすことがある。黄燐は特に、目に危険であり、重篤な障害を引き起こすことがある。黄燐を飲み込んだ場合、数時間後に、吐き気、嘔吐、腹痛の症状が起こることがある。嘔吐物はにんにくのような臭いがし、暗闇の中では光ることがある。 24〜36時間後に症状は消えることがあるが、2、3日間は、吐き気、嘔吐、腹痛が下痢を伴って再発することがあり、また皮膚が黄色くなることがある。死に至ることがある。

総合火力演習

白軍オタの皆さんが、”白燐弾の煙が有毒なら富士の総合火力演習で観客がたくさん死んでるはずwww”とか言ってますが、自衛隊総合火力演習白燐弾を使用していると公式に表明しているのでしょうか?ざっくり探したんですけど、そういう記述は見当たりません。調べ方が足りてないかもですが。

それとは別にこういうコメントを見つけました。

(コメント欄)
Commented by maximam357 さん
(略)
確かに陸自でもWP弾は84mm無反動砲の弾薬や発煙手榴弾として使用しております。(一応OB、予備自衛官です 笑)そして時に「武器」ではなく「化学火工品」の扱いになっている事も確かにあります。が…実態は明らかに対人兵器のなかでもかなり「凶悪」な部類に入るといっても差し支えないと思います。あれは他の「煙幕弾」とは本質的に異なるものですから。

WP弾を演習場で用いるときに特に気をつけなければならないのは「山火事」です。又、WP手榴弾の仕様は雨天時・積雪時には規則で厳禁となって居ます。此れはなぜかと言うと…「残留した黄燐が水分に触れて即座には発火せず、後で乾燥した後燃焼を初め、火災が発生する」からです。

これは人体に触れたときも同じ事が言え、当初は発火せず皮膚に付着した黄燐が後にじわじわと時限装置の様に火傷を発生させ、ひどい症状に至る事も有るわけです。WPの悪質さは即ちこの点に有ると言えます。

民間人の住宅が密集する地域、子供や病人が居る地域で不用意に用いればどうなるかは火を見るより明らかですね。武装し、対化学戦防護を行った戦闘員であれば対処できるとしても、無防備な市民の頭の上にこれが降り注ぎ、又「後で時限発火装置として彼方此方で住宅火災を引き起こす」…只の「煙幕弾」の筈がありません(苦笑)

総合火力演習で観客に被るのは「普通の煙幕」か、或いは「想定でWP弾と言う事にしたただの白色煙幕」と言うのが普通でしょう(苦笑)陸幕がそんな事を許可するはずがありませんから。(略)

http://gujin.iza.ne.jp/blog/entry/873200

実際、酸化りんが、猛毒ガスとまでいかずとも、毒性のあるガスだというのは確かなのでmaximam357さんの「陸幕がそんな事を許可するはずがありません」というのは説得力を感じます。それこそ野党議員の格好の攻撃材料になってるようにも思いますし。

あと、10年前の記憶で曖昧なんですけど、かつて総合火力演習を見学したとき、最後に煙幕を張って若干その煙が観客席に来たように思いますが、その際、マッチをすった時に出るあのツンとくるにおいはなかったような気がします。いや、ほんとに記憶が曖昧なんですけどね。

マッチをすった瞬間、一瞬だけ出る白い煙が酸化りんだと認識してますが、あれってマッチ箱の側壁に使っている赤燐がマッチをすった時にマッチの頭薬に極微量くっついて発生する煙ですよね?
マッチの世界|マッチの雑学

なんかマッチ棒の先の頭薬にりんが使っているものと勘違いして、

コメント123
>>119

アホか手前。

ただの白リンに水ぶっ掛けて有毒ガスになるんだったらマッチを水で消しても人が殺せるな。

そういうことだ。

Posted by 名無しT72神信者 at 2009年01月22日 20:24:15

http://obiekt.seesaa.net/article/112955335.html

こんなこと言ってるバカもいますけどね。