民進党議員自らが自党を“何でも反対”とか“対案を示さない”とか主張する理由について若干の考察

第193回通常国会での内閣提出法案の衆議院での審議状況に関する雑感」、「“何でも反対の野党”よりも“何でも賛成の野党”の方が凋落著しかったりする」つながり。
少し前の産経記事ですが。

民進・前原誠司元外相「何でも反対とみられているから支持率が上がらない」

 民進党前原誠司元外相は4日、報道各社の世論調査で、同党の支持率が低迷している現状について「(有権者から)何でも反対しているようにみえていることが、支持率が上がらない大きな要因だ」と分析した。党が配信したネットの動画番組で語った。
 前原氏は「国家、国民のプラスになることには堂々と対案を示し、(与党との)修正協議にも応じ、よりいいものをまとめる。そういう所も見せた方がいい」とも指摘した。

http://www.sankei.com/politics/news/170404/plt1704040036-n1.html

こういう民進党批判する民進党議員って、ぱっと思いつく限りでは、前原氏の他に細野氏、長島氏(離党)あたりが出てきますね。
もちろん自党の問題点を改善するためであれば批判も当然なんですが、問題なのは、“何でも反対”とか“対案を示さない”とかが都市伝説に近いデマだということです。

“何でも反対”?

これは単純に事実に反しています。実際には民進党は政府提出法案の8割で賛成しています。政府提出法案のたった2割に反対したら“何でも反対”扱いとかレッテルとしか言いようがありません。無論、これは報道の仕方にも問題があります。与野党の対決法案ばかりがクローズアップされる傾向があるからです。
本来なら報道機関自身が個々の事案について意見を表明して、与野党全会一致であっても問題ありと判断すれば報じるべきですし、与野党対決法案についてはどちらを支持するか、双方とも支持しないならどうあるべきかを事実の報道と共に意見を表明するべきだと思いますが、報道機関は意見を言うな的な空気にすっかり同調しているようでは期待できないでしょうね。
ともあれ、報道機関が意見を言わなくなると当然与野党一致の法案などは報じられる価値も少なくスルーされることが多くなります(天皇生前退位法案くらいならニュースバリューありと判断されますが)。結果として与野党対立部分だけが報じられるわけで、視聴者の印象としては野党が常に反対しているように見えてしまうわけですね。
言うまでも無く報道だけの問題でもなく、視聴者のリテラシーの問題でもあるんですけどね。

“対案を示さない”?

これも多くの場合、事実に反します。もちろん、必要がないという理由で反対する場合もありますから、必ずしも対案が示されるわけではありませんが、“現状に問題があることは理解するがその法案には反対”という場合に対案が示されることは少なくありません。
2015年の戦争法案審議においても、民主党(当時)はグレーゾーン事態に対する対案を海上警備法案という形でちゃんと示していました。
これも報道機関はほとんど報じることなく、“対案を示さない”はレッテルはそのまま放置されたわけです。

なぜ民進党議員自ら事実に反したことを公言するのか?

党内の権力争いに党外からの批判を利用するためでしょうね。
曰く、現在の執行部は“何でも反対”で“対案を示さない”から党勢が回復しない、執行部を代えるべきだ、と。
元々が寄り合い所帯の民進党はどうしてもこのあたりが弱点になります。安倍自民のように異論を許さない強権的な党政が良いとも思いませんが、執行部をひっきりなしに背後から刺そうとするのはさすがにどうかとは思います。

【極右のリベラル偽装】アイケンベリーが言ってるリベラルとは国際協調主義のことなので「保守革命」なるものを対置させるのはおかしいんだよね。

おかしいのは池田信夫氏の平常運転ではありますけどね。

リベラルな安倍首相に対抗する「保守革命」が必要だ --- 池田 信夫

6/25(日) 17:44配信 アゴ
“【Vlog】都議選SP:長島昭久議員と政界大展望!(https://youtu.be/tMwlU2j7aRU)”
今週のVloghttps://youtu.be/tMwlU2j7aRU)で、民進党を離党した長島昭久氏が「安倍首相が安保法制の審議で民進党を左へ追い詰めたので、共産党と区別がつかなくなった」と嘆いていた。首相の政策は世界的にみると左派で、アイケンベリー(https://www.foreignaffairsj.co.jp/theme/201705_ikenberry/)はこう書いている。
“リベラルな国際秩序を存続させるには、この秩序をいまも支持する世界の指導者と有権者たちが、その試みを強化する必要があり、その多くは、日本の安倍晋三とドイツのアンゲラ・メルケルという、リベラルな戦後秩序を支持する2人の指導者の肩にかかっている。”

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170625-00010015-agora-pol

前国会(193)で政府提出法案の8割に賛成した民進党と3割しか賛成しなかった共産党の区別がつかないなら、長島氏は現実の認識能力に異常を来たしているとしか思えませんねぇ。
それはさておき、池田氏が嬉しそうに取り上げているアイケンベリーの記事ですが、ここに「リベラルな戦後秩序を支持する2人の指導者」の一人に安倍首相が挙げられています。
池田氏の論考は一昔前にネットで流行った“自民は世界的に見て中道左派”といった極右正当化・左派罵倒を目的とした自称中立に過ぎません。アイケンベリーの“安倍はリベラル”発言は、池田氏自称中立に都合が良いので引いている感じです。

アイケンベリーの記事は国際政治に関する内容で、国内政治に関しては特に言及していません。同記事中で安倍政権に関する内容は下記のみです。

The Plot Against American Foreign Policy

Can the Liberal Order Survive?
By G. John Ikenberry
(略)
The United States’ friends and allies need to make it tough for Trump to pursue an “America first” agenda. They need to show that they are indispensable partners, increasing their military spending and taking the lead on issues such as climate change, nuclear proliferation, trade cooperation, and sustainable development. Abe and Merkel, the new leaders of the free world, will have to sustain liberal internationalism for as long as Trump is in office. Abe should keep promoting liberal trade agreements, modeled on the TPP, and Merkel, as the leader of the country that perhaps most embodies the virtues and accomplishments of the postwar liberal order, is uniquely positioned to speak as the moral voice of the liberal democratic world. U.S. allies also need to engage in what the Japanese call gaiatsu—“foreign pressure.” The French government had the right idea when it proposed placing a surtax on U.S. goods if the Trump administration pulled out of the Paris climate agreement. The United States needs allies in part because they will push back when it goes off track.
(略)

https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2017-04-17/plot-against-american-foreign-policy

ここでアイケンベリーが、安倍首相に求めているのは“keep promoting liberal trade agreements, modeled on the TPP”という内容だけです。自由主義陣営全体に対しては、軍事費をもっと増やし、核不拡散や気候変動対策、貿易協力を先導して米国にとって不可欠のパートナーであることを示すべきだと言ってます。リベラリズム的な視点による国際政治の話であることは明白ですね。
池田氏が言及しない興味深い内容もあります。“U.S. allies also need to engage in what the Japanese call gaiatsu—“foreign pressure.””という一文です。安倍政権が国際社会に対して軍事的関与をできるように外圧をかけるべき、との示唆にも取れます。日本の国内政治においては外圧を利用することが少なくなく、現に秘密保護法も戦争法も共謀罪法も外圧を利用する形で強行されていますね。
いずれにせよ、アイケンベリーの言う“安倍はリベラル”と言うのは、こういう国際政治の文脈における限定的な意味において、でしかありません。

これを文字通り“安倍はリベラル”と解釈したら頭が悪すぎます。
ところが池田氏はそれをやらかし、国内政治的に安倍は右ではないと主張するわけです。

戦後日本の外交は伝統的に国際協調主義

日本国憲法自身が国際協調主義を具現化しており、占領下の非武装時代もその後の軽武装時代もずっと国際協調主義を採ってきたと言えるでしょう。それはもちろん、孤立主義を採れるような軍事力の担保が無かった点や米ソ冷戦下のアジアでの最前線に近いという地政学的な視点*1、あるいは産業構造という点から国際協調主義こそが自国に有利だったという判断があるわけですが。
だからと言って、日本の政治勢力はリベラルしかいないのかと言えば、そんなわけもなく保守と革新それぞれの国際協調主義があったというのが正しいでしょう。
ごく単純に言うと、日本保守のいう国際協調主義では軍事力の使用が肯定されるのに対し、日本革新のいう国際協調主義では軍事力の使用は否定されるという点です。前者の軍事力使用も国連中心主義によるものとそうでないものがあります。

日本の左派は当然、国際協調主義を否定したりはしませんが紛争地域に軍事力で介入しようという動きには反対します。戦争を否定する日本国憲法の考え方から言えば当然ですね。
これに対して右派は国際協調主義を名目として軍事力での介入を正当化しようとします。日本国憲法を蔑ろにするという方向なわけですが、このうち国連協調主義に基づく軍事力での国際貢献を主張するのが国連中心主義で、PKOとかはこの路線です。これは国連決議に基づく軍事力行使は許される、という考え方で軍事力介入を正当化する右派の主張としてもまず抑制的な方です。
今の安倍政権の路線は、国連決議など無視して米国などの同盟国との共同作戦なら軍事力行使も許されるという考え方です。

アイケンベリーは米国視点での国際協調主義を語っていますので、上記のような日本左派の限定的な国際協調主義、右派国連中心主義の国連決議という制約下での国際協調主義、安倍政権の制約のない国際協調主義を並べて、安倍政権の方針を歓迎するのはわからない話ではありません。
もっとも、米国はこれまで米国の味方となる国に軍事援助したにも関わらずその国が反米に舵を切ったという経験を少なからず持っているはずですが、日本に対してそういった警戒心が働かないという点に、この考え方の穴があるんですけどね。

TPPはリベラル?

単純に貿易自由化という側面だけを見るならば国際協調主義とは言えるでしょうが、そう単純な話でもありません。だいたい貿易自由化を掲げる国家指導者は珍しくありません。韓国・朴政権や台湾・馬政権などもそうでしたし、フィリピンのドゥテルテ政権も発足当初TPPに賛同していました。だからといって彼らをリベラルだという人はあまりいないでしょう。
国内的に見れば、貿易自由化によって圧迫される産業従事者をどう保護するのかという問題が起こりますので、その対処法が保守・リベラルで異なることが往々にしてあります。
TPPを対外政策として見ても単純な経済協定という側面以外に中国包囲網の一環としての位置づけが強く強調されていましたので、この点でもTPPを単純に国際協調主義の産物とは言えません。
アイケンベリーの記事は、トランプアメリカが孤立主義を指向することのブレーキとしてドイツや日本の国際協調主義に期待するという文脈であって、安倍首相の政治性向をしてリベラルと評価しているものとは読めません。

*1:朝鮮戦争でもベトナム戦争でも日本は最前線ではなく、後方だったため旗幟鮮明にする必要がなく、国際協調主義という名目で両陣営から距離をとることができた。

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