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森の内 森の外

2019-01-07 森林美学ドイツの起伏

 森林美学第3版まで第一次世界大戦前に発刊されている。大戦後、メーラーの恒続林思想が出版され、ナチス民族主義思想に利用された。恒続林思想の中に森林美学が織り込まれていたために、恒続林思想とともにナチスの思想として利用されることになったことになる。戦後、ナチス思想排斥によって、恒続林思想はドイツ林学の中から姿を消した。

 第一次世界大戦前にはマルクス思想を根底におく社会民主党労働者階級の支持によって、ドイツ帝国連邦議会では第1党を占めるまでとなった。森林美学には、労働者階級に森林美の享受が配慮される文言がある。ナチスマルクス主義対立するものであり、ナチスユダヤ人排斥とともに、マルクス主義の思想を徹底的に排除し、ドイツ国内にはマルクス著作は完全に排斥され、姿を消した。マルクス著作が保存されたのは、ソ連においてであった。マルクス著作の復活は第二次世界大戦後を待たなくてはならない。森林美学の社会的意識はナチスによって、排除されるものであるとともに、第二次世界大戦後もマルクスの復活の一方で、ナチスに利用された著書として、排斥された。この二重の封印によって、ドイツ国内では100年の歳月、森林美学は見失われたのである。

 第二次世界大戦後、シレジア地域はポーランドの領土となり、ナチス遺跡アウシュビッツとともにフォン・ザーリッシュの森林経営地ポステルもポーランドの地ポステリンとなった。

2018-08-26 森林美学基礎理念の応用

 森林美学の第2編は森林美学の基礎理念の応用となっています。さらに第2編はA:森林造成と森林経済、B:森林の装飾とされています。Aで林業経営と森林施業における森林美の発揮、Bで森林デザインによる森林美の向上が取り上げられています。応用のAが森林施業に美を主張する森林美学の眼目があると考えられます。

 第2編A応用の第1章で広く土地利用と生活空間への森林の配置計画と配置の必要が必要性が主張され、森林を中心としたランドスケープ計画が示されていると言えます。森林が原初の時代に土地の被覆であった状態から、農耕文明とともに農地が切り開かれ、集落が成立し、近代文明とともに都市部の土地利用が拡大することによって、土地利用と生活環境のバランスのための社会的計画(農地開発計画都市計画ランドスケープ計画)を必要としました。とくに、自然的環境を多く残した森林も林業のための土地利用の一部ではあるのですが、個々の住民の生活に必要となる自然として、最低限必要な配置、面積を指摘しています。これは前書きに記す郷土保護運動への賛同と重なり、森林のための土地利用にランドスケープ計画となる意義を含むことを指摘するものです。

 森林をランドスケープ計画の対象とする意義として、社会の基盤となる労働者、地域住民のレクリエーションの場としての効果を指摘しています。一方、応用編の次章からは、森林経営者、森林管理技術者美的配慮への指摘が取り上げられ、ランドスケープの方法、技術へと展開しています。このランドスケープの方法は林業経営の経済的な目的にも矛盾するものではない点で、施業林の「森林芸術」であり、その作品の製作者は森林経営者、森林管理技術者であることが、指摘されています。作品は、森林の有する自然美の助長、向上によって生じる芸術美となります。自然美の助長には、森林の自然科学の知見が必要となります。当時の森林諸科学の進展が基礎となりました。森林の芸術美は自然科学によって自然美としての作品を創造することになります。また、森林施業は自然美を向上させる天然林施業へと近づき、それだけに人工林から遊離していきます。

 第1編のランドスケープ計画は、各種の土地利用を包含し、森林芸術はその一部となります。畑地の耕作芸術、草地芸術などが含まれます。森林は人為的な土地利用であるとともに、自然環境となる風景要素にもなる点が、草原景観と近接し、他の人為的な土地利用と相違しています。森林は自然環境を構成する自然の生態系包含しいるといえますが、植生地理、生態学の進展は、ザーリッシュの時代以降に生じました。

2018-08-13 森林美学の基礎理念は風景原論

森林美学第1部の表題は森林美学の基礎理念です。

 ザーリッシュの森林美学のモットーはゲーテのヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代から、技能を芸術に高める言説を取り出したものです。森林経営の技能から森林に美をもたらす芸術へと高揚することが森林美学理念であり、森林の育成管理に技能を持つ森林官が森林芸術の実践者となる可能性を持つことになります。森林芸術によって人々は森林の自然に一層の喜びが得られます。

 その森林芸術(文中・クラウゼ、和訳・喜屋武氏)は、土地美化芸術の一部ですが、クック先生は土地美化芸術をランドスケープ芸術(伊藤太一氏和訳)と英訳し、人々の生活環境の全体的な眺めとなる風景に連結します。ザーリッシュは文中、イギリスピクチャレスクの先導者、ギルピンの言を借り、また、ドイツに根付いた風景式庭園の完成者、ピュックレル・ムスコウを尊重し、国土美化運動の流れ(赤坂氏)を汲んでいます。ドイツの近代的な風景の認識は、ゲーテに依拠し、また、ゲーテルソーの影響を受けています。(大澤先生)

 上記用語論議が基礎理念編A序章の第1章です。ちなみに、garden art を造園芸術としました。第1章ではさらに森林芸術の意義が記述され、林学の初期から連綿と林業経済的目的とともに森林美に関心が持たれていたおり、その森林美学の歴史が述べられています。さらに、一般論としての真善美における美の意義を論じ、善となる有用性との関係を論じています。当時、自然諸科学の進歩が林学に導入された時代(黒田)である点で、真は科学的な林学であり、有用性は林業を主眼とする経済性と考えられます。林学の発展に経済性の重視が顕著となり、薪炭林など共同体の森林利用が排斥されていった背景もあると考えられます。これらの社会性の軽視とともに森林のレクリエーション利用が無視されていく傾向に対する危機感が森林美の認識の重要性を強調する必要があったことが考えられます。

 基礎理念編Bの表題は自然美となっており、ザーリッシュの風景原論が述べられています。第1章自然美と芸術美、第2章ランドスケープの色彩理論、第3章岩石、第4章樹木、第5章芳香と声が取り上げられています。人間が創造する芸術美こそ美に価し、美学の対象となるするヘーゲルの考えに対して、自然美があってこそ芸術美であり、自然美は芸術美の先生であると自身の考えを述べています。そこで、森林は自然美の展示場となります。色彩理論は風景の眺めが光線による大気を透した外界の視覚像が色彩によって知覚されます。第5章で嗅覚と聴覚によって芳香と声の知覚が述べられます。すなわち、5官の感覚器官を通じて風景の知覚がなされていること、その対象となる風景要素は色彩に充ちた地上の姿を現す大気と光線であり、大地を象徴する岩石と水であり、その大地を被覆する多様な植生が自然の風景要素です。その上層となる樹木の多様さが第4章樹木でとりあげられ、森林環境への美的意識が風景原論の基礎によって知覚されてくることを明らかにしているといえます。この風景意識はドイツではゲーテを先駆として明らかにされてきたことが、文中の各所の引用によって示されています。

2018-07-17 森林美学の発刊

 ザーリッシュの森林美学が発刊された。

とうとうなのか? やっとなのか? ついになのか?

私も5人の監修者の一人であった点からは、他の4人の監修者の方々と海青社の社長と編集者のご努力に感謝したい。森林美学創始者のザーリッシュの名文への敬意とともに、それを現代に蘇らせた英訳者のW.L.クック先生とドリス・ヴェーラウ氏の御蔭である。また、英訳からの美学の和訳には序文に書いたドイツ文学哲学の深い素養が必要とされ、喜屋武、大澤、岡崎諸氏のお力によってドイツ語原文からの訳を入れることができた。

多くの訳者による素読の訳は、全体の文脈が理解されるこによって、直訳で意味が通じるようになった。最後の校正はさらに用語文脈が的確なものになったと感じられる。

 森林美学翻訳の意義

1世紀前に出版された森林美学の翻訳にどのような意義があるのだろうか?

現在の問題に通用するとクック先生は説いている。現代のランドスケープにも森林が土地利用の一部として配置される必要があることをザーリッシュが指摘している点は現代にも共通した問題である。天然林、天然更新の価値を認める点も現代の喫緊な点である。

美学者K美学者K 2018/07/30 01:23 ご刊行、誠におめでとうございます。重要なお仕事だと思います。ほとんどお手伝いすることができなかったので恐縮しきりです。

2018-04-19 散歩者の夢想

 ルソーの著から期待する散歩の風景を見出すことができる。それは、最初の散歩で、まるで国木田独歩武蔵野を思い起こさせた。孤独なる散歩は独歩の名前と関係するのであろうか?しかし、その散歩は帰途の大変な事故に遭遇して悪夢に化してしまった。また、後の章の散歩では、湖の孤島で孤島で暮らした幸福な思い出の夢想が語られる。