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2006-03-05 正体みたり。

じろり。

自民党PTの「アンケート結果詐称疑惑?」をもう一度ガッチリと検証しておく。

久しぶりにジェンダーフリー関連の話題について。「ジェンダーフリー」でググるとアレな結果になる状態をどうかと思い、エイヤーと「ジェンダーフリーとは」というまとめを作ってから約5ヶ月が経ちました。おかげさまで好評です。ありがとーございます。しばらく時間が経過したので、いくつか項目を増やそうと思っていまして、今日はその補足第一弾。



以前、「ジェンフリバッシングのために「約3500の実例」とか言っちゃうのは恥ずかしいからやめましょう。」というエントリーで、自民党の一部の人、要するに山谷えり子さんとか安倍晋三さんとかが「全国から3520件もの行き過ぎたジェンダーフリーや性教育の実例が寄せられた」とかほざいていることの間違いを指摘しました。簡単に言うと、「3520件の全てが実例じゃなくて、単に回答数でしょ。人の教育を心配する前に、自分たちの国語能力を心配すれば? べ、別にあんたのために言ってるんじゃないからねっ!(ツンデレ)」という指摘です。で、そのときは次のように書きました。



どのような意見が何割で…という計算をしようかとも思ったけれど、このエントリーは別に数を値切ることが目的じゃあないのでやめました。むしろ、これら様々な意見が集まったにもかかわらず、自らの都合の良いところだけを利用とするその手続きを明らかにしたかったので、とりあえずこれにて終了。



ところが『正論』とかを読んでも未だに「3520件の実例」とかほざき続けているので、もう一歩踏み込んで検証しておく。値切るとかでなく(なんのためにだ)、一度事柄を明らかにしておくことが重要だと思うので。



今回踏み込む内容は主に二点。一点目は、アンケート自体のバイアスを再度検証すること。アンケート項目をみればそのバイアスは一目瞭然なんですが、具体的にどう問題なのか踏み込んでおく。二点目は「3520件」の内訳をしっかり数えておくこと。3520件の回答のうち、どういう意見が何件寄せられたのかをガッチリ見ておく。なお、本当はもう一点、先日紹介した「性教育:過剰な68件、見直し指導−−文科省調査」の文部科学省の調査内容にも踏み込みたいのですが、長くなりすぎるのでこれは次の機会にします。



さて、まずは「自民党の調査票」について。以前触れたときは、当時つくる会会長だった八木秀次さんとかのア本(呆れる内容の本@斎藤美奈子)を議員さんにあらかじめ読ませてからアンケートの協力させるのってどうなの、というツッコミをしました。もうちょっと多くのリンクをいただけるとおもったら、予想外に反応が薄かったのでなぜだろうと思っていたら、id:mizututaさんに「大爆笑を通り越して、さすがにアレ過ぎて引いてしまいました。」と指摘される。なるほど。



さて、そのアンケートで聞かれていた質問項目は以下のようなもの。


A.過激な性教育について

1.コンドームなど避妊具の使い方実習

(*全国各地の小学生の父母から悲鳴があがっています)


2.性交シーン、出産のビデオやアニメ、図解資料などの使用

(*気分が悪くなった子どもたちの声が届いています)


3.性器つき人形などを用いての実習

(*東京都が一部調査したところ80の小学校からセックス人形が見つかりました)


4.ピル(WHOで10代の服用は禁止)の服用をすすめるような教育

(*3年前、全国の中学3年生にピルを薦める小冊子130万部が印刷されました)


5.中絶の勧めともいえるような表現や性の自己決定権を教える

(*3年前、“日本では中絶が許されている”という記述の小冊子が、全国の中学3年生用に130万部印刷されていました)


B.ジェンダーフリー教育について

1.体育や水泳などの着替えは男女同室か(*高校でも着替えを同室でしている学校があります)


2.身体検査は男女一緒か


3.林間学校や修学旅行などで男女同室か

(*一部調査したところ、仙台市122校中33校、山形市36校中19校、沼津市16校中9校が同室)


4.男女混合騎馬戦などを行っているか

(*北海道教育委員会の調査では、小学校の70〜80%、中学校の25〜30%が混合だった)


5.ジェンダー、ジェンダーフリー教育という言葉を使っているか

(*“子育てはジェンダーフリーで”と書かれた冊子【文部科学省嘱託事業作成】がこの春まで、薦められていました)


6.男らしさ、女らしさを否定する教育をしているか

(*幼稚園、保育園から“ひな祭り”が中止になったという声が全国から届いています)


C.家庭科教育の問題について

1.これまで家族のかたちを否定、軽視し、現行法から除外される婚姻形態(事実婚同性婚)など多様な家族観を教えている


2.非婚の母、シングルマザーなど、その生き方を推奨するような表現をしている


3.離婚の勧めともとりかねない内容を教えている


これら質問に、それぞれ5つの選択肢が並んでおり、「(1)ない(2)ないと思われるが、正確には把握していない(3)おそらくあると思う(4)過去にあったが現在はない(5)ある」の(1)〜(5)の中から選択するようになっている。ポイントは、質問事項の後についている「*」から始まる注釈と、選択肢のアンバランスさ。


この選択肢は、右に行けば行くほど「そういう実例がある」という答えになっていて、要するに「自民党が望む答え」になっている。自民党としては極力右側の選択肢を選んでほしいわけで、だからこそ「*」部に書かれているような誘導尋問を書き加えている。「*」部があることで(1)は選ぶことはとても難しくなる。なぜなら、「こういう例が実際あるんだよ」ってあらかじめ言うことで、「自分はなかったけど、実際はあるかもしれない=(2)」「自分はなかったけど、自民党がいうならおそらくあるとおもう=(3)」と思わせられるからだ。



この手のアンケートの回答項目は、例えば「(1)そう思う(2)どちらかといえばそう思う(3)どちらともいえない(4)どちらかといえば違う(5)違う」など、出来る限りシンメトリーにするのが普通。ところが自民党の質問ではそうはなっていない。もし「実態」を調査したいのであれば、(2)と(4)のような曖昧な印象を答えさせるような選択肢は不要。もちろん、「*」部のような先入観を持たせる但し書きは不要です。



ただ、この選択肢を利用した言説は今のところ見当たらない。この選択肢を用いたアンケート結果のもっとも(自民党にとって)効率的な使い方は、「ない、と答えたのはわずか○%!」みたいなあおり文句だったと思う。もちろん無作為抽出アンケートとは違って、「自民党のHPに掲載されている、こういう質問に、自発的に答える人」のみが対象なので、そういう煽りが通用しないことが分かっているんだろう。「こんな例があったよ!」と報告する人と、わざわざ「ない」と答えるために報告する人と、コミットの度合いが違うのは明らかだし、そこまでやるとさすがに怪しまれるから。



そんなこんなで現状のように「3520もの実例が!」とかいう形で使っているのですが、3520件の全てが実例ではないことは既に指摘しました。ただし、「実例」とか言わず、例えば「3520もの声や反響をいただきました」とか言いながら相変わらずのことを繰り返すことも考えられるし、実際に行われている場面もすでにあると思う。



そこで本日二番目の指摘。「3520件」の内訳をしっかり数えておく。結構時間がかかりましたので、とりあえず自民党の中の人はchikiにはてなポイントでバイト代を払ってください…というのは冗談ですが。なお、一人で数えたので多少数字にはブレがあると思いますが、ブレがあったとしても50とか100とか大胆にブレることはないかと思います。ごまかしてもchikiにはなんのメリットもないですし。



さて、紹介したソースを見ていただいた方にはお分かりのとおり、さきほどのアンケートには(1)〜(5)の選択肢のほかに自由記述欄があって、(4)と(5)を答えた人、つまり実例があると答えた人はそれを具体的に記述するようになっている。で、自民党の「ニュースページ」をみると、「冊子「過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する県別事例集」を各議員に示した」「約3500の実例の中から主なものを県別にまとめた」と書いてあるのですが、「県別事例集」の内容を見ていると、自民党への批判的コメントや「なかったよ〜」というコメントもそのまま掲載していること、あるいは本件とまったく関係のないようなコメントも掲載されている(テレビのタレントがだらしないとかなんとか)ことから、(4)と(5)に限らず自由記述してくれた人の意見を全部掲載したものだと思われる。



では、実際に「県別事例集」に何件のコメントが掲載されているかというと、1214件だった。注意すべきは、同じ人が複数回答した場合のコメントも件数に含まれていること。「身体検査は男女一緒か」で記入した人が「男女混合騎馬戦などを行っているか」でも記入した場合、両方掲載されるというわけだ。



で、じゃあ結局実例は1214件だったのかというとそうでもない。もっと少ない。以下にひと目で分かる表を作ってみたので、ごらんください。



◆性教育についての回答◆

なかった37
幼稚園実体験1
幼稚園伝聞・推定0
小学校実体験80
小学校伝聞・推定8
中学校実体験38
中学校伝聞・推定3
高校実体験21
高校伝聞・推定1
時期不明実体験85
時期不明伝聞・推定12
学外実体験2
学外伝聞・推定0


まずは性教育について。「子どもから聞いた」などのコメントは「実体験」に含め、「テレビで聞いた」「あるらしい」などのコメントは「伝聞・推定」に含めました。注意してほしいのは「実体験」というのが「過激な性教育の実例」のことを表すわけではないこと。例えば「小学校/実体験/80」というのは、「小学校で実際にこういう性教育がありました」と答えられていたものが80件というだけで、それらが全て過激なものであるかは別。「性教育に関する授業参観があった」「人形を使って性交を見せた」「恥ずかしかったが今思うと適切な時期」「NHKのビデオを見た」などなど、うちではこうですよ、みたいに自分が体験したものを答えたものは全て「実体験」に含めています。もちろん、「男女の机がくっついています」とか「学校では一切教えるな」という意見も含まれているため、回答者が「過激」と思っていることが客観的に「過激」であるかも別問題。


また、性教育に関するトピックは一応上図にいれたので、例えば「中学校/実体験/38」の中には「中絶を知らずにお産をした中学生が去年は二人いた」というようなものも入っているし「ピルを飲むと肌がきれいになると教えていた」というものも含まれている。また、例えば「時期不明/実体験/85」のなかには「生まれたばかりの赤ちゃんの人形を使って育児の授業」「出産ビデオを見たが過激なものではない」というようなものが含まれている。


次に、ジェンダーフリーについて。



◆ジェンダーフリーについての回答◆

なかった32
幼稚園実体験1
幼稚園伝聞・推定0
小学校実体験8
小学校伝聞・推定2
中学校実体験7
中学校伝聞・推定3
高校実体験4
高校伝聞・推定0
時期不明実体験25
時期不明伝聞・推定10
学外(議会など)-28

これも、「子どもから聞いた」などのコメントは「実体験」に含め、「テレビで聞いた」「あるらしい」「『新・国民の油断』で読んだ」(笑)などのコメントは「伝聞・推定」に含めました。で、この項目の中では、直接「ジェンダーフリー教育」と語られていないもの、例えば「多様な性を肯定していた」とか「離婚も選択肢のひとつと教えていた」「同性愛を肯定していた」というような、「自民党的にはこれはジェンダーフリーに含めたいんだろうな」的なものも含めた。例えば「幼稚園/実体験/1」に含まれているのは「幼稚園の卒園アルバムは男女とも全部ピンク」というようなもので、それがなぜなのか理由が書かれていないものも一応含めた。



なお、上の図に含めたもので結構多かったものが「家庭科の教科書でシングルマザーを奨励(推奨)している」というもの。これが微妙なのは、例えば「シングルマザーを差別しないようにしましょう」というのと「シングルマザーになりましょう」というもので「推奨」「奨励」にあたるのは普通後者だと思うんだけれど、ジェンダーフリーバッシングをする人は肯定したり保障を促したりするだけで「奨励だ!」と表現することがよくあることだ。



例えば「ジェンダーフリーとは」というまとめに「「シングルマザーの保障をします」「そのような生き方も肯定します」とは言っていますが、そう言うとシングルマザーって増えるんでしょうか?」って書いたら、反ジェンダーフリー系掲示板にて「「保障がある」ということがシングルマザー推奨そのもの。メキシコがこの言葉の法律でシングルマザーが増えて国が乱れた」とかいうコメントをしていた人がいた。あっはっは。へそでティーが沸く。



仮にその程度の主張も全てジェンダーフリー教育の実例に含めたとしてもわずかに50件程度。3520件には程遠いことが分かる。



続いて、男女混合着替えについて。


◆男女混合着替えについての回答◆

なかった28
あった実体験212
あった伝聞・推定10


混合着替えが行われていると答えたコメントはかなり多かった。具体的に数えなかったけれど、一番多かったのは「小学校低学年までは混合着替え」というもの。また、「普段は同室着替えだが、プールのときは更衣室」「服の下に家を出るときから体育着を着ていく」というものも多かった。



また、着替えに関しては、設備がないからカーテンで仕切るなどの努力をしているという答えや、設備があるけど生徒が面倒臭がって使わないというものも多くある。一方、「改善を訴えたが聞き届けられなかった」「かつてはあったが今は改善された」というものも数多くあった。ちなみにジェンダーフリーの方針で混合着替えがされた、というものはもちろんゼロで、唯一、「混合着替え」をしていた学校の校長先生が「ジェンダーフリーに熱心」であるという情報が1件あったけれど、関連性は記述なし。



なお、chikiも学生時代はずっと混合着替えだった。ジェンダーフリーという言葉が生まれる前からね。で、「混合名簿=男女すっぽんぽん=破廉恥!」と想像するのは、そう想像するあなたが破廉恥と言われるのでやめましょう(笑)。chikiも体操着を着て登校していたし、小学校にはプールの更衣室なんてなかったけどタオルで隠しながら着替えていたっけ。




◆その他の回答◆

混合体育・騎馬戦65
混合体育・騎馬戦はなかった5
男女混合名簿(名前順)10
男女同室宿9
メディア規制など38
その他現状報告57
自民党への意見304
分類不能なもの数十件


この「事例集」で一番多かったのが、「自民党への意見」にあたるもの。その多くが「本当にこんなことがあるのなら、改善してください」というものや、今の若者の性風俗や性教育状況を憂い、自分の性教育観をとうとうと語るもの。要するに、自民党のアンケートによって不安に煽られた人が、不安の解消を自民党に訴えるというものが多くあった。一方、「性教育は必要」というものや、アンケート自体への批判もあった。



「混合騎馬戦」「混合着替え」「同室宿泊」がジェンダーフリーの名の下に行われたという報告はゼロ。騎馬戦は、騎馬自体が男女混合のものより、騎馬は男女別で試合は男女混合というものが多くあった。それにも賛成意見、反対意見があり、それとは別に「生徒の人数が少ない」というものが「地方」の回答に多く見られた。「混合名簿」は、「うちは混合名簿です」と答えたものを含めた。



「その他現状報告」には、「看護学生のときに出産のビデオをみて感動」というものや、こんな講演会を聞いてきましたというものを含めた。「メディア規制など」というのは、テレビ番組やアニメ、エロ本自販機、インターネット、コンビニの雑誌棚などを憂うものを含めた。中でも、規制を呼びかけるものが多くみられた。「分類不能なもの」は「中学校の校門で、PTAと名乗る父兄がコンドームを配布していた」というようなもの、あるいは数え逃したもの。50件以上はありません。



さて、ここまでの分析から、分かることを要約してみます。



「3520件の回答」のうち、すんごくうがった見方をして「実例」にカウントしたとしても1214件。しかし、1214件のうちのほとんどは、自民党が想定していたような「過激な性教育」や「行き過ぎたジェンダーフリー」の例ではなかった。それでも意地をはって伝聞情報やソフトケースも「実例」にするとかいう暴挙に出たとしても、性教育では最高で250件程度、ジェンダーフリーでは最高で50件程度。なお、ジェンダーフリーと混合着替えその他の事例の因果関係が「実例」としてあげられたケースは0件。混合着替えと性教育の関連も0件。



自民党の中の人は、本当にアンケート結果を見たのだろうか。もちろん、最初っから結論と用途がはっきりしているアンケートだから、見る必要もないのかもしれない。見て見ぬふりをしているのかも。


だったらせっかくなので、自民党の中の人たちにもこのエントリーを貼ったメールを送ってみようかな。一方の民主党に送って追求させることも手だけれど、メールの使い方が下手そうなのでやめておいたほうがいいのか悩みどころ。なお、性教育に関して「最高で250件」といったけれど、次の機会に振れるであろう文部科学省の調査で学校総数32,431校を調べて苦情が155校だったことを考えると、やはり250件の実例ということも出来ないのではないかと。というわけで次の機会につづきます。




※最初は1224件と書いていましたが、数えなおしたところ1214件の誤りでしたので、訂正しました。(2006.3.31)