フランクフルター陰謀論(笑)。

「フランクフルト学派の検索結果がアレゲすぎなんですが。」を読んで、ネタの宝庫『新・国民の油断』のことを思い出したので、やめりゃあいいのに再読してみた。再読したのはこんな感じの部分。


八木 宮台氏あたりがさかんに、学問的な粉飾を凝らしながらそんなことを言っていました。しかし、先ほど紹介したJ・S・ミルの自己決定に関する文章も、宮台氏は、子供には認められないという箇所は隠して使っていません。「性教協」の関係者も「自己決定」ということは言いますが、子供には自己決定させてはいけないというミルの警告の部分は隠しています。自分たちに都合のいい部分だけ、つまみ食いしているのです。


 西尾 宮台氏が日本の歴史に傷を負わせた罪は大きいですね。


 八木 宮台氏と山本直英氏ら八人が共著を出しています。その「〈性の自己決定〉原論」(紀伊國屋書店、平成十年)という本の中で山本氏は、「誰もが「いつ、どこで、誰と」セックスをするかは、自分の判断で決める」と述べています。
 同様のことを別の本では、「いつ誰とどんな状況で性交するかはまったくその人の生き方であって、人から指示されたり規制されることのない主体性にかかっている」(「性教育ノススメ−−−”下半身症候群”からの脱出」大月書店、平成六年)と述べています。


 西尾 ちょっと待ってください。それはまさに、援助交際のすすめにもなりますね。


 八木 そうです。この論に従うと、性交は「自己決定」ですから、誰にも迷惑をかけなければ、小学生でも中学生でも高校生でもセックスしていいということになります。しかし、その責任については自分で取りなさいよ、ということですから非常に残酷なことです。


 西尾 性交の年齢のことは何も言わないのですか?


 八木 言っていません。山本氏は、性教協の機関誌「ヒューマン・セクシャリティ」の創刊号で、「エロスコンミューンというものを実現するために性教育をするのだ」という趣旨のことを言っています。「エロスコンミューン」とは原始共産制のことです。こう述べています。
 「人類が二一世紀にかけるユートピアは「エロスコンミューン」の実現にある。この実現をもって、人間が近代社会で希求してきた自由・平等の理念はほぼ実現する。太古の昔、エロスは抑圧されず、管理されず、自然体でありえたが、今やもろもろの制度と、人間の下半身の中に閉じ込められている。こういう社会では、エロスの発現はえてして非社会的か反社会的なトラブルとなる。(中略)エロスとは「すべての人間の根底にある、人とのゆるぎない性的ふれあい」であり、コンミューンとは「管理や抑圧や統治されることから自らを解放する、自覚的な個人と個人の共同体」のことである」と。
 「エロスコンミューン」、性に関して制度や道徳や親や教師や社会といった他からの管理・抑圧・統治がなく、もっぱら自らの決定(性的自己決定)による「自然体」の社会の実現、そのために「科学的性教育」を行うということです。「フリーセックス社会の実現」のための性教育と言い換えてもいいと思います。


 西尾 フランクフルト学派だ。


 八木 そうです。山本氏はヴィルヘルム・ライヒを論理的根拠にしています。
 山本氏はまた、「男と女とは、たとえ結婚に結びつかなくても、婚前でも、婚外でも、たとえ親子の不倫でも、師弟でも、まさに階級や身分や制度を超えて愛し合うことが可能なのである」(「性教育ノススメ」)とも述べています。「親子の不倫でも」というのはまさに近親相姦のススメです。一夫一婦制など、伝統的な夫婦や家庭のあり方も否定しています。


 西尾 それも山本直英氏ですか。どこの出版社から何年に出ていますか。


 八木 大月書店、言わずと知れた共産党系の出版社で、平成六年に出ています。この性道徳、伝統破壊の考え方がいま、教育界に一気に押し寄せているのです。


性教育の背後に共産主義


 西尾 それで、だいたいわかります。ベルリンの壁崩壊の後ですね。


 八木 ベルリンの壁崩壊後に、全共闘系や共産党系の活動家は、その生き残りを賭けて性教育ジェンダーフリーのほうに走ったということです。


 西尾 一つの流れは環境問題、緑の党の方向へ行ったでしょう。もう一つが過剰な性教育に走ったということですね。


 八木 彼らは共産党系の出版社から悪びれずに堂々と本を出し、それを学校現場の教師たちに次々に読ませていくのです。公立の図書館などには、彼らの本が山ほどあります。一つの市町村に一冊というのではなく、各図書館に置いてあります。
 公立図書館には児童室がありますが、そこには山本氏をはじめ性教協のメンバーが書いた性教育の本がたくさん置かれているのです。「おちんちんの話」(子どもの未来社、平成十二年)など、子供向けに絵本の形で、セックスを図解入りで教えています。


 西尾 児童ポルノの発行を大人に禁止するなら、児童向けの絵本のポルノ発行を禁止すべきですね。


 八木 彼らは「性的自立」が人間の自立としては最高位の形態だと言います。精神的自立などよりも上位に性的自立を位置づけています。
 「性的自立」とは何かと言えば、性の自己決定、つまりフリーセックスということなのです。世の中の性道徳や性秩序を全部飛び越えて、自分の意志を優先するという主張です。
 だから他人の奥さんであろうが、自分の母親であろうが、自分の娘であろうが、先生であろうがなんでもいい。相手とのあいだに了解があれば誰とでもセックスしていいんだ、というのです。
 山本氏が依拠していたライヒの著作を読んでみると、ライヒが「性の解放」や「性の自立」を説くのは、「結婚までは純潔を守らなければならないという考え方はブルジョアが発明したものだ」というところから来ているようです。


 西尾 共産主義ですね。


 八木 そうです。共産主義です。ライヒフロイトの弟子で助手をしていましたが決別します。彼はドイツ共産党左派でしたが、あまりに過激だったので、ドイツ共産党からも除名されます。その後、北欧を経てアメリカに亡命し、結局、気が狂ってアメリカの刑務所で獄死するという人生でした。
 こういう人物の主張が、回り回って子供たちが手にする教材となっているのです。一般の人たちは思想的な背景までは気がつかないものですから、まんまと騙されて、予算までついて、教育委員会がその種の性教育の旗振り役になっている状況です。


これはすばらしい「新しい歴史」ですね。最近、保守系の論者の口から「共産主義者が隠れ蓑としてフェミニズムフランクフルト学派*1を名乗っている」という歴史観がなんかまことしやかに語られている場面をなんかよく見るんですが(田中英道つくる会の元会長)さんの「日本のメディアを支配する隠れマルクス主義 フランクフルト学派とは」とか。これについては仲正昌樹さんが『情況』で簡単な反論を掲載していましたので、興味あればどうぞ)。うーん、「歴史」を本当に大事にするなら、もう少しちゃんと調べてからの批判を読みたい。なんで「西尾 フランクフルト学派だ」なのか、なんで「八木 そうです」なのかがさっぱり分からないのは、chikiが日教組に洗脳されているからですね、多分。笑ったのはそのやり取りの後に「西尾 共産主義ですね」「八木 そうです」というやりとりがあること。このやりとりを見る限り、「共産主義」の次は「フランクフルト学派」をラベリングしようねー、というネームコーリングの反復にしか見えないんだけれど。


というわけで「「フランクフルト学派とは」、というまとめサイトだれか作ってくれないかなあ」というid:boiledemaさんの意見に賛成。というか、既に良質の解説サイトみたいなのがあれば、誰か教えてください(あとid:boiledemaさん。こっそりイニシャルTが誰なのかメールしてくれないでしょうか:笑)。


ちなみに「宮台はミルをつまみ食いしている」という八木さんの批判に対する宮台さんのレスを紹介しておこうかと。

ちなみに、八木秀次西尾幹二の『新・国民の油断』(PHP研究所、二〇〇五年)を読んで驚きました。J・Sミルは自己決定権について語った直後に子供には適応できないと断っているのに、宮台の議論はそれを見落としていると八木が言います。文章理解に必要な基礎学力がないのです。自己決定権は子どもにはないというミルの議論を、「自由と尊厳のシステム理論」を使って検討し、条件つきで適用できると結論するのが私の論文です。
すなわち、今日の学問的水準から見て、第一に「性の自己決定権」は万人にあるとするほかないこと。とはいえ第二に、法理学における附従契約の論理同様に、権利の実質的行使可能性を保護する観点から統治権力が権利行使の無効を宣言し得ること。具体的には第三に、自由(権利行使の自由)は最低限の尊厳(自己価値の承認)を要件とするので、尊厳保護の観点から統治権力が自由を制約し得ること。これらをオーソドックスに展開しています。
実質的には私の結論は、成人に許容されえる売買春が青少年には禁止されるほかないという「ミル的な話」になるのですが、「ミル的な話」を今日支えるには私が展開したような法理以外にあり得ない、という議論をしたのです。普通の読解力があればわかるように書いてありますから、私に対する幼稚な批判によって、法学の専門家であるとは到底いえないような八木秀次のオツムの程度がモロに露呈してしまいました(笑)。
バックラッシュ!』(双風舎、二〇〇六、p.38)


というわけで、陰謀論はほどほどにしましょう。



付記:関連ネタをみつけたのでリンク。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061015/1160883587
フランクフルター最強。刃牙*2は次から「フランクフルター刃牙」を名乗るといいと思う。

*1:時々これに、カルスタ、ポスコロ、ポモが加わる。

*2:グラップラー刃牙