訃報

猛暑が続く日本列島、世間一般では夏休みが始まったこの日、昼頃にニュースサイトを見ていたら、松本龍環境大臣の訃報が目に飛び込んできた。全く想定していなかったので、しばし呆然とし、同時にいろいろな思い出が頭の中を駆け巡って、目が潤んだ。
松本龍さん、愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約COP10の開催を一ヶ月後に控えた2010年9月17日に環境大臣に就任され、その後COP10の成功を目指して奔走・尽力され、交渉に当たる事務方を精神面でしっかりと支え、COP10を見事成功に導いた功労者だ。
COP10を一ヶ月後に控えたこのタイミングで大臣が変わるらしい・・・速報によれば松本龍議員が環境大臣になるらしい、知らないなぁ、血液型はB型か…さて吉と出るか凶と出るか。そんな話を今から8年ほど前の2010年9月17日金曜日の午前にしていたことはよく覚えている。その後、休日のレクを経て、国連のハイレベル会合に出るために、9月20日から一緒にニューヨークに出張に出かけた。そんなこともあって、僕の名前も覚えていてくれ、ともにCOP10の成功に向けて血眼になってできる限りのことをやったという思いがある。
2010年10月の生物多様性条約COP10。当時近年稀に見る成功を収めたとされた会議だけど、前年末のUNFCCCのコペンハーゲンの悲劇の後で、途上国と先進国との対立構造が全く解けない状況で突入せざるを得なかった状況にあったCOP10も同じくコケるのではないかとの予想が強く、マルチ(多数国間)の国際環境条約にはもはや望みなどないのではないかという雰囲気が充満し、参加国に悲壮感や絶望感が蔓延する中で、さらに環境関連条約を取りまとめる役割を担う某国連機関の長がCOP10は失敗すると見越してCOP10最終日を前に先に帰国してしまうような状況の中で、最後まで諦めずに全くぶれない態度で交渉を後押しし続け、その結果(実質的な内容はいろいろ議論はあるのでそれはともかくとしても)合意が危ぶまれていた名古屋議定書や2011−2020の戦略計画を見事合意に導き、それはCOP10の成功だけのみならず、まだマルチの国際環境条約には希望があることを示すことにつながっていて、そんな世界をあっと驚かせた功績は、今もなんら霞むことなく輝いていると思う。
その後、次の要職において大きな批判を浴びたこともよく知っている。そして、今もそのイメージで語られてしまうことが多いと思う。僕自身、その批判を浴びることになった要職をヘッドとする組織にその直後に着任することになり、復興に向けて3年近くひたすら走り続けることになっただけに、その批判の気持ちもよくわかる。そんな松本さんだけど、よく覚えているのは、COP10が終わった一週間後に僕はとあることで手を骨折したのだけど、その数日後、松本大臣が僕の包帯を巻いた手を見て「⚪︎⚪︎(苗字)、なんだその手は、どうしたんだ」と声をかけてこられ、骨折しました、と答えたところ、「何で骨折したんだ」とさらに訊かれ、それに対し「COP10は骨の折れる仕事だったので本当に骨が折れてしまいました」と答えたところ、そうか、とにっこり笑ってくれ、それ以上何も追求されなかったこと。僕が知っている松本大臣は、そんな優しい、おおらかな方だった。それは、環境大臣を辞められてから何度かお会いした時にもなんら変わらないものだった。そして、何よりCOP10の時の松本大臣のぶれずに動じずに後押ししてくれたあの力強さは忘れられるものではない。
最後にお会いしたのは昨年7月。その時は大変お元気だったので、それだけに今日のこのニュースは衝撃的で、とても悲しかった。
松本龍さん、お疲れさまでした。今はただ、ご冥福をお祈り申し上げるばかりです。

休日 La Mauricie National Park kayak-camping 三日目

よく寝た。6時過ぎにようやく目がさめる。まだ外は暗い。6時半前にようやくテントから抜け出して、熊除けポールに吊るしておいた食料・調理器具を回収して、お湯を沸かし、朝ごはんを食べる。夜明けの湖畔が美しい。青空も見えている。

撤収を済ませ、8時過ぎにようやく出発。

今日はスタート地点に向かってまっすぐと向かう予定。朝一の湖面は鏡のように穏やかだった。靄の中を漕いで行く。ポーテージを伴うカナダでのカヤック旅も今日でいよいよ終わりかぁ…と感慨に耽りながら漕いで行く。
8:50にLac Dauphinaisの終点にたどり着く。二つのビーバーダムとその間の浅い部分を越えて、Lac Dubonへ。キツツキがいて、トントントンッ、トントトトントンッ、という音が響く。

9:05にLac Dubonの上陸地点に到着。ここからLac Gironまで1kmのポーテージ。9:30にLac Gironに到着。天気はすっかり良くなって、逆光の中をまぶしさを堪えながら漕いで行く。
10:00にLac Gironの上陸地点に到着。少々のんびりしてから出発して、500m歩いてLac Soumireにまで戻ってきた。10:20なり。5分で荷物をカヤックに積み込んで出発。

気温が上がって暖かい。一昨日の凍りついてツルツルと滑った木道が嘘のようだ。ゆったりと、惜しみながら、漕いで行く。今日はカワウソは見当たらなかった。梢の先に小型の猛禽類を発見して眺める。ハネビロノスリ(Broad-winged Hawk)というらしい。あとで調べたら、この公園では割とメジャーな猛禽類のようだ。


10:45、無事湖の入口に到着。

桟橋で荷物・カヤックを引き上げ、靴を替え、カヤックを洗い、荷物を詰め込み、荷物を背負って、カヤックを担いであと500m歩く。
11:05、無事駐車場に到着。僕の運転してきた車のほかは3台ほどが停まっていた。カヤックを畳み、荷物を片付ける。途中巨大なゴミ回収車がやってきて、人が中に10人ぐらい入れそうな巨大なゴミ箱をがっちりと掴んで車の上に持ち上げ、中のゴミを回収する様子に度肝を抜かれた。紅葉は一昨日よりもさらに進んでいる気がした。
11時半を過ぎて出発。車を運転して国立公園の中を駆け抜ける。たくさんのバイクとすれ違った。
途中、Le Passageの展望台に立ち寄った。眼下にはLac Wapizagonkeが広がる。先週と違ってすっかりと色づいた森。およそ1年ほど前に初めてこのモリシー国立公園にきた時にも立ち寄った場所だ。かつてカヌー・カヤックで旅した森と湖を眺める。

懐かしい思い出の数々。そしてそのおかげで、初めて見たときと今とでは、全然違った光景に見える。このモリシー国立公園は明日からしばらくの間閉鎖される。冬の間はこの展望台には車で来ることができないので、おそらくはこれが最後だろう。ちょっぴりセンチメンタルなひととき。
その後は一途モントリオールを目指して運転した。渋滞が始まる前無事帰宅。モントリオールは暑くて、ベランダの温度計は26℃を指していた。

今回のカヤック旅をまとめた動画はこちら(YouTube、13分)

8月初めに続いて訪れた、Lac Soumire〜Lac des Cinqでのカヤックキャンピング。初日・二日目は寒く、雨にも降られて、夜空は眺めることができなかったけど、美しい紅葉の森を堪能でき、カワウソ(初日)・ムース(二日目)・ハネビロノスリ(三日目)といった動物たちにも出会うことができた。またこの三日間は、二日目に最奥のLac des CingからLac Dauphinaisに戻ってから何人かの方に会ったぐらいで、初日・三日目は誰にも会わず、本当に静かな湖と紅葉の森を堪能できたとても素敵な旅だった。三日間の総距離は40km程だと思う(うち5kmはポーテージ)。

湖自体にさほど難易度はない。ただ、奥深くに入っていくことになるので、何かあったときに対処できる装備は必要。またポーテージが必要なので、一度に全部の荷物を背負ってカヤックを担いで行けるか、二度必要なのかで所要時間は変わってくる。さらに焚き火禁止エリアなので、ストイックに過ごすか、ガスバーナーをガンガン焚くか、もしくは僕のように小さなバーベキューコンロを持ち込んで温まるか(はたまた国立公園のルールを無視して焚き火をするか)はともかくとして、寒い季節には少し気をつけた方が良い場所だ。8月の時のように、1泊2日でも行ける場所だけど、せっかくであれば二泊三日ぐらいした方が、のんびりと堪能できて楽しいと思う。もちろん天気さえ良ければですけれども。

休日 La Mauricie National Park kayak-camping 二日目

夜半から雨が降り始めた。テントの布地を叩く雨音が響く。何度か目が覚め、うつらうつらとしながらまた眠りについた。
7時を過ぎてようやく起きる。雨、降り続く。

湖面いっぱいに広がる数々の水紋。湿気が肌寒さを倍増させる。ポールに吊るしておいた食料品・調理器具を回収して朝ごはん。オートミールとパンと紅茶のシンプルなメニューだ。湖ではハシグロアビの親子がゆっくりと湖面を横切っていく。寒いことを除けば、雨に濡れてしっとりとした色合いになった紅葉の森もまた美しかった。

9時頃から雨脚が強くなって、タープの下でひたすら本を読んでいた。じっとしているのでダウンジャケットを着込んでいるのに寒い。雨、昼頃には無事上がってくれるかなーと考えながら時を過ごす。
11時を過ぎて雨脚が弱まったので、撤収作業を開始した。カヤックのコックピットには結構水が溜まっていた。一晩で随分と降ったものだ。
やがて雨が止んで、11:45にようやく出発。

まずはLac des Cinqの一番西側へと向かう。この西端には、Matawin Riverにつながる5.4kmのポーテージルートがある。この場所を訪れることはこれが最初で最後だろうなぁと感慨に浸りながらパドルを漕いだ。
西端から、時計回りに湖の岸際を漕いで行く。昨日対岸に見えた管理用の小屋の横を通り過ぎ(案の定誰もいなかった。煙突のついた綺麗な小屋です)、キャンプサイトNo.2を通り過ぎ(誰もいなかった)、進んで行く。湖の中央部にあるキャンプサイトNo.3を12:45に通り過ぎて、湖の東側を回り始める。こちらの東側は(全部ではないけれど)夏に訪れた場所だ。夏に来た時は何故か普段全く思い出さない安室奈美恵の曲が頭の中をヘヴィーローテーションしていたことを思い出した。変わらず美しい森が続く。

No.4のキャンプサイトを過ぎて(ここは前回来ていない)、さらに東側へと向かう。島の間を通り抜けるとこの湖の東側の最果ての湾に入る。アオサギが何かを狙っている。

細い水路を伝って隣の湖までカヤックで行けないかと考えていたのだけど、浅過ぎた。諦めて、最後に湾の南側を回って、湖の入口に戻ろうとそちらへと向かう。
と、その東の湾の一番南の湿原に、大きな塊があることに気がついた。距離約600m。13:25。岩だろうか、と思いながらズームカメラで覗くと…動いた!まさか!はやる気持ちを落ち着けて、じっくりと見る。間違いない、ムースだ!

パドルをあまり高く上げないように気をつけながら、静かに近づいていく。水中で水草を食んでいたムースは、距離300mぐらいで僕に気がついたのか、こちらをじっくりと眺め始める。

距離100mになると、ゆっくりと岸辺に向かって歩き始め、岸に上がってじっとこちらを見ている。ツノを見るに、まだ若い、おそらく2歳のオスのムースだった。最終的な距離は60mぐらい。やがて、ムースは再びゆっくりと歩き始め、森の中へと去っていった。

感動…ムースを見るのは先々週に続いて二回目だけど、夏の間ずっと見たくて森と湖をまわってきた。そして最後の最後、最奥の湖の最奥の場所の一つで、出会えたことに感謝。

さて、ムースに出会って大満足の中、湖の中央部にある入り口へと向かう。色鮮やかな紅葉の森がより一層鮮やかに見え始めた。嬉しかった。
14:05に上陸。誰にも会わなかった、紅葉を独占できた、ムースも見ることができた美しい湖。名残惜しいけど、Lac des Cinqとはここでさようなら。400mポーテージしてLac Dauphinaisに戻る。
14:35にLac Dauphinaisを出発。この先で初めて一隻のカヌーに出会う。あわよくば三日間誰にも出会わないだろうかと期待していたのだけど、残念ながらそうはならなかった。

湖面のカゲロウを眺めつつ、今宵のキャンプサイトLac DauphinaisのNo.2のサイトを目指して漕いで行く。

焚き火の香りがするなぁと思いながら進んでいくと、No.3のキャンプサイトにカヌーが3隻泊まっていて、奥にはテント、そして大きな焚き火の様子が見えた。(焚き火禁止のルールは守らないという)期待を裏切らない光景に苦笑する。
キャンプサイトNo.2には15:25に到着した。上陸地点は細かいシルトが堆積していて歩きづらい。このLac Dauphinaisのキャンプサイトは3箇所あるけど、この一点で、No.3、No.1の方がいいと思う。ここからの眺めは素晴らしいのだけど。

幸いこのサイトで今晩泊まるのは僕一人だけだった。タープ、テントを張って、折りたたみ椅子に座って一息つく。

サイトの周りにはたくさんのリスがいて、けたたましく鳴きながら辺りを駆け巡っていた。

ワインを飲みながらシンプルな晩御飯をいただく。ネイチャーストーブを組み立て、残っていた木炭に火をつけて、温まる。小さな贅沢。夜になっても雲は残っていて星空は眺められなかった。20時前に早々と就寝。

休日 La Mauricie National Park kayak-camping 初日

朝6時頃起きて、準備を済ませて7時前に家を出た。感謝祭の休暇を含めた三連休(10月10日−12日)に、前の週に引き続きモントリオールの北東方向に車で2時間の距離にあるモリシー国立公園に行くことにした。他の候補はオンタリオ州アルゴンキン州立公園があったのだけど、ここからだと500km離れていて少々遠くて諦めた。狙いは紅葉を愛でることと、ポーテージ(カヌー・カヤックを担いで歩くこと)をすること。そう、日本だと川の堰堤や小滝などの障害物を避けるためにポーテージすることはあっても、湖から湖へとポーテージしながら旅できるようなフィールドはない(と思う)。せっかくポーテージのコツもつかんだので、それを再度やっておきたかった。コースは8月初めと同じ、Lac Soumireから入って、Lac Giron、Lac Dubon、Lac Dauphinaisを越えて、Lac des Cinqに至り、戻ってくるもの。ただ8月との違いは一泊二日から二泊三日と長くなったこと、寒くて人が非常に少ないであろうこと、紅葉であること、など。長くなった分、前回まわれなかったLac des Cinqの西側も回りたいし、また東側の最果て部分も訪れたいと思っていた。

9時前に国立公園の入口の受付に到着。既に受付は開いていて、手続きを済ませる。対応してくれたレンジャーの方は、おぉー、この場所に(この時期に)行くんですか、ほとんど人いないですよ、大丈夫ですか?くれぐれも気をつけてください、と言われ、装備面でいろいろ確認された他、明日は雨であること(パソコン画面で最新の天気予報を見せてくれた)や、クロクマの活動が活発な時期なので、食料品や調理器具はもちろんのこと、歯磨き粉等、とにかく匂いのするもの全部ポールにぶら下げてください、と念を押された。この公園に来るのは11回目で、この湖に行くのは2回目なんですよ、と話をし、先週クロクマに会った話をして、さらに指摘された装備を全部持っている旨を話したところ、あなたなら大丈夫ですね、良い旅を!と太鼓判を押され、ちょっと嬉しくなりながら建物の外に出た。
車で30分弱でLac Soumireの入口の駐車場に到着した。木々は先週よりもずっと色づいている。

駐車場には他には一台も停まっていない。レンジャーの方も驚いていたから、寒い中、明日の天気が悪くなると知ってこの場所に行くのは余程物好きということなのだろう。寒くて、木の階段部分は凍りついていて滑りやすくなっていた。強い風が吹く中、カヤックを組み立て、荷物をザックに詰める。9:45。さてと、と一息気合を入れてから、ザックとカヤックを担いで、500m離れたLac Soumireに向かう。
先週の反省を踏まえ、今回新たな装備としてネオプレインゴム製のカヌー・カヤック用の長靴がある。100ドルするので高いなーと思っていたのだけど、先週の水の冷たさを考えると背に腹は代えられない痛感し、モントリオールのMECに行くと、サイズは限られたものの安売りしていて60ドルで手に入れることができた。また、8月に来た際にはポーテージポイントにはヒルがたくさんいて、足を入れているのがやや気持ち悪かったのだけど、今回は水温が低いことに加えて、長靴なので、この点も安心だった。
さて、カヤックに荷物を詰め込み、出発の準備を済ませる。このカヤックはインフレータブルなので、見た目のボリュームほどには荷物は入らない。備忘録も含めて荷物の構成を書いておくと、先端部分にはエアポンプ、その手前にガスストーブや鍋等の調理器具や食料等が詰まった30リットルの防水バッグ、その防水バッグの上に空の折りたたんだ70リットルのポーテージバッグ(歩くときはこれに他の防水バッグを詰めて背負っている)、座席の下には2m×1m×1mmの超薄手の銀マット、座席のすぐ後ろには靴や行動食やiPadを入れた小さな薄手のザック、その後ろ側にはテントやタープ、着替えや寝袋や折りたたみ椅子やハンモックを入れた35リットルの三角錐型の防水バッグが入っている。またカヤックの上には前方にロープとコックピット内の水を取るためのスポンジと防寒用のネオプレインの手袋を、後方にはファーストエイドキットやヘッドランプ、トイレットペーパー、雨具、刃物、水筒、非常時の衛星通信機器などすぐに出せるようにしておきたい物を入れた10リットルのオレンジ色の防水バッグに加え、スリングとカラビナ、ビルジポンプ、パドルフロート、予備パドルがくくりつけられている。さらに身につけたライフジャケットには、財布・鍵等の貴重品、携帯電話、GPS、笛、ナイフ、カヤック先端のGoProを操作するためのリモコン、防水カメラが収まっていて、さらに小さな防水のポシェットには、日焼け止めやムヒ、地図、クマスプレー、双眼鏡等が収まっている。そして首には愛用の防滴のズームカメラ(Fujifilm FinePix S1)をぶら下げているという出で立ちだ。

さて、出発10:15。さすがに水は冷たい。安全を祈願してから漕ぎ出す。向かい風だけどそれほどきつくはない。紅葉の森が美しい。夏に一度訪れた場所とは言え、また違った表情の湖はとても素敵だ。
岸際の動きに気がついてよく見ると、三頭のカワウソを見つけることができた。うち一頭は大きな魚を捕られたばかりらしく、その魚を咥えて弄びながらのんびりとくつろいでいる。また他の2頭はじゃれ合っていた。

が、僕に気がつくと速やかに湖に潜って、その後三頭揃って泳ぎ始める。一頭は魚を飲み込もうと必死なのだけど、大き過ぎて飲み込めず、苦労している。カワウソ達は激しく息をしながら、こちらを睨みながら、泳ぐ、潜るを繰り返していた。

そう睨むなよ、こちらは会えて嬉しかったよ、お邪魔したね、じゃあね、と呟いてから、さらに先へと進んだ。
10:35に上陸。

カヤックの中から荷物を引っ張り出してポーテージバッグに詰め込む。正確には、まず30リットルと35リットルの防水バッグを70リットルのポーテージバッグに詰め込み、10リットルの防水バッグをポーテージバッグの背面にくくりつける。その後30リットルの薄手のザックを最初に腹側に背負ってから、ポーテージバッグを背負う。その上で、パドルとシーソック(コックピット部分以外に水が入らないようにするための靴下型の巨大な防水袋)を後部荷室に詰めたカヤックを担いでポーテージを開始する。お腹側のザックを先に背負う(腰ベルトもきちんと留めるのがコツ)のは、逆だとポーテージ中にずれ落ち始めて歩きにくくなるのでこれを避けるためであり、10リットルの防水バッグをポーテージバッグの背面につける(上面ではない)のは、ポーテージバッグの背が高くなるとカヤックと干渉して担ぎにくくなるためだ。慣れると5分ちょっとでこのアレンジが終わる。
さて、隣のLac Gironまで500m歩く。クロクマを警戒して今回はクマ鈴を持ってきたので、チリンチリンという澄んだ鈴の音が森の中に響く。10:50にLac Gironに到着。夏よりも水位が随分と下がっていて驚いた。カヤックに荷物を詰め込んで、11:00に出発。
最初の部分は水中に隠れ倒木もあるので要注意。向かい風の中を漕ぐ。11:20に上陸。

この先は、Lac Dubonまで1kmのポーテージ。11:45過ぎにLac Dubonに到着。喉が渇いて水筒の水をごくりと飲む。再度カヤックに荷物を詰め込んで12時前に漕ぎ出した。
Lac DubonとLac Dauphinaisの間は、ポーテージするほどではないのだけど、ビーバーダムが二つあって、そこはカヤックと荷物を担ぐ必要がある。さらにそのビーバーダムに囲まれた30mほどの区間は今回は非常に非常に浅くて、カヤックの底がつかえ(夏はもう少し深かったのですが)、水中の泥に足を取られながらごりごりと押しながら何とか進んだ。ここはたった30mだけどいっそのことポーテージした方が楽だったかもしれない。
12:20にLac Dauphinaisを出発。

最初は浅い区間が続くので慎重に進む。そう僕のカヤックはインフレータブルなので、ダメージを受けないように浅いところは気を使い続けている。
広いところに出ると向かい風がきつくなった。岸からあまり離れないところを漕いで行く。色づいた森が美しい。

遠くの湿原で何かが動いた気がするとすぐにカメラを構える。ムースに出会いたいのだけど、なかなか姿を現してはくれない。さらに広いところに出て、向かい風の方向に波打つ湖を横切って反対側の岸際にたどり着く。対岸に夏にキャンプしたテントサイトが見える。さらに進んでいくと向かい風が収まって、快適なパドリングを楽しめた。全てが美しい。
13:30に上陸。

この先Lac des Cinqまで400mポーテージ。
Lac des Cinqの水位も随分と下がっていた。14時に出発。誰もいない大きな大きな湖を一人で漕いで行く。どこまでもたおやかに広がる紅葉の森。自然と文部省唱歌の「もみじ」を口ずさんでいた。湖の西側へと向かう。広い湖だ。ここを独占している(今日はここまで誰一人出会っていない!)という満足感が素晴らしい。

風は冷たかった。岸から離れ過ぎずに進んで行く。

14:45に今宵泊まるLac des CinqのNo.1のキャンプサイトに到着。対岸には管理用の小屋があるが人は誰もいないようだ。荷物を出してテント・タープを張る。

明日は午前中いっぱい雨の予報なので、おそらくは明日のお昼まではここに滞在するのだろう。このエリアは焚き火禁止エリアだけど、案の定、キャンプサイトの中央には大きな大きな焚き火の跡が残っていた。僕は焚き火が大好きだし、たとえ禁止されている場所でも非常時に焚き火をすることは仕方がないと思っている。でも、全くルールを守ろうとしないのは、やっぱりちょっとひいてしまう。北米大陸バックカントリーエリアではルールが守られているイメージが強かったのだけど、これがカナダケベック州の現実で、そんなイメージは今や綺麗さっぱり無くなっている。
カヤックキャンプサイトの近くに運び上げ、折りたたみ椅子に座って一息ついた。止まっているととにかく寒い。焚き火がこの上なく恋しくなる。ハンモックを吊るして横になったのだけど、足先が冷えきっていて、かなり辛い。気温は4℃ぐらいだろうか。テントの中から寝袋を引っ張り出して、寝袋に包まってハンモックの上に横になる。本を読みつつ、時々湖を眺めつつ、ハンモックに寝そべりつつ、ダラダラと過ごす。
17時半を過ぎて、晩御飯の準備に取り掛かる。と言っても、大してやることもないのだけど。冷えた体にビールが効いた(かなり寒くなった)。焚き火の代わりに今回はユニフレームのネイチャーストーブと木炭を持ってきていて、火をつける。

木炭を使うのは、外来種を持ち込まないため(公園外から薪を持ち込むことは禁止されている(焚き火をする際には公園内での薪の購入が求められている))。このネイチャーストーブは、この標準サイズとラージサイズの2つを持っているけど、軽量コンパクトで、でもそれなりに楽しめる大きさがあって、簡単に火がついて、真っ白になるまで燃やし尽くしてくれ(わずかに残った灰は持ち帰る)、焦げた跡等を何も残さないかなり優れものだ。僕はこれは何かと問われれば、バーベキューコンロだと答えている。木炭から発せられる遠赤外線がとてつもなく暖かい。冷え切った指先がポカポカと温まる。サーモンナゲットやターキーをいただきながら、暮れ行く湖面を眺めながら、静かなひとときを過ごす。
夜、水際を眺めると、小魚とたくさんの小さなザリガニを発見した。空には雲がどんよりとかかっていて星空は見えない。向き抜ける湿度の高い風が肌寒くて、20時過ぎには、早々にテントに入って、シュラフに包まり、眠りについた。

休日 La Mauricie National Park Hiking & Kayak-camping 二日目

夜半、2時半頃に目が覚めた。森の中から、何かの鳴き声、そして小さくない動物の足音が聞こえてきた。すっかり目が覚めてしまい、風の音に混じって聞こえるそれらの音に耳をすませる。テントの外に出ると、すっかりと霧に包まれていて星空は何も見えなかった。ヘッドランプの明かりに浮かび上がる、湖面から押し寄せる白い霧が、どこか雪女的な静けさと不気味さを醸ししだしていて、熾火に薪を足して、火を焚き、心を落ち着かせている自分がいた。それにしても寒い。
再びテントに入って、次に起きると6時半を回っていた。外は明るくなっている。湖面には霧が立ち込め、ハシグロアビ(Loon)の声が響く。
焚き火を再開して、暖まり、朝食を作った。その後撤収。濡れたカヌー用の靴に足を入れるのが辛い。かなり寒い。これからの季節、長靴タイプのカヌー用の靴が必要だとつくづく思った。
9:20に撤収完了・出発。朝の湖面に漕ぎ出す。

寒いのでネオプレインゴム製の手袋をつけた。泊まったキャンプサイトのすぐ裏の流れ込みにいく。

奥にあったビーバーダムに積み上げられた木の齧られたビーバーの歯跡が印象的。

その後出発地点に向かって漕いで行くと、カヤックのすぐ横にハシグロアビが浮かび上がってきてびっくりした。

寒さのためか、昨日よりは少し紅葉が進んだ気がする。

のんびりと漕いで、10:20には出発地点に戻ってきた。

湖岸にはカワアイサカナダガンの群れ。

ハイシーズンと比較して、随分と静かなワピッザゴンク湖。
その後は撤収して、11:15に車に乗って出発。国立公園の反対側に向かってドライブを楽しむ。そしてモントリオールへ。そのまま直接家には向かわず、アウトドアショップのMECに寄って、来週以降に使うことになる長靴タイプのカヌーシューズを探す。98ドルのところを、季節外れのため60ドルに値下がりしていて、サイズも(やや小さいが)合ったものがあって、無事それを購入した。

昨日歩いたLe Passageを出発地点とするVieux-Brûlisの13kmのトレイルは、さほど展望ポイントがある場所ではないので、地味といえば地味だけど、静かなトレイルとも言えると思う。高低差もそれほどないので、慣れた人ならサクッと歩けると思う。写真は撮れなかったけど、クロクマに会えたのはかなり嬉しかった。
Lac WapizagonkeのカヌーキャンピングのサイトNo.10はかなり素敵。唯一難点を言えば、対岸の森がキャンプ場で、対岸にはそのキャンプ場の小さなビーチが見えるので、混んだ季節なら、人がいるなぁーと思ってしまうかもしれない。でも今回は対岸にもキャンプサイトにも誰も現れず、静かなところだった。
楽しみにしていた紅葉自体はまだ少し早かった。ただ、特に二日目の朝はものすごく寒くて(おそらく氷点下に届いたと思う)、手の先、足の先が凍えきり、秋を通り越して冬の気配を感じたひとときでもあった。