昆虫博士 苦戦

10日前にあずけたチェロの調製と弓の毛替え(一部修理)が完了したので工房に引き取りに行った。

弓2本の毛替えは、いつもながらパーフェクト。弓本体(とくにフロッグの金具)のダメージは皆無で、毛量、毛質、左右のバランスなど私の好みどおり。値段が高い方の上質毛を指定したから、音質はしっとり。弾き心地も上々。弓自体が若返って、伸びやかに歌い出すような雰囲気になる。

アウクス(シンフォニア)はドライカーボンの実力を試すために購入したので、ほとんど使ってないが、それでも経年変化で毛質は劣化する。増税前に思い切って交換したものの、今後も使う予定はほとんどないだろう。今までの乾いた無機質な音が、しっとりした柔らかい音に変化。カーボン弓に音色を期待するのは無謀と思っていたが、これなら普通に使えそう。アウクスは新品で買ったのだが、音質が悪かったのは最初に張ってあった毛質が良くなかったのかもしれない。 カーボン弓の毛を注意深く交換すると音質が良くなるとどこかで読んだことがあるが、そのとおりのようだ。

もう1本のドイツ弓は、毛替えと同時に銀線・革の巻き直しもやってもらった。数十年以上前の弓らしく、銀線に緩みが出ていた。銀線が微妙にずれて動くから、指のかかりが悪くて弾きにくかった。銀線を巻き直す場合は革も外すため、わたし好みの牛革で太巻きの長巻にしてもらった。新たに巻いた銀線の仕上がりは見事だった(以前、銀線の巻き直しを勧められた某有名工房で、不揃いに巻き直されたことがある)。革も希望通りのドンピシャ。毛量はいつものように1割増量指定でお願いした。こちらの弓も音質が若返って、しなやかでしっとり。持った感触も良好。何も文句をいうことはない。

いままでいろいろな工房で毛替えをしてきたが、どこもイマイチなので困っていた(弓のテイストが悪くなるとか、半月リングにダメージを受けるケースが多くて、毛替えをしないまま放置していた)。チェロ仲間のY夫人の紹介で知った工房(往年の名バイオリニストの名前を店名にしている)は、毛替えに関しては名人といえる水準のようだ。ようやく安心して任せられる店が見つかったので、毛が古くなっていた弓を次々に任せてしまった。


で、チェロの方だが、預けたのはジャーマン2号(1985年製)。剥がれが数箇所あってその修理と、ニスのリタッチ。それと店主のお勧めに従った魂柱交換。

ニスの修理は3箇所を依頼。スクロールの中心のニスが片側だけ剥がれて薄くなっていたのを、左右対称になるよう色を重ねて塗ってもらった。これは見事に色が揃っていた。

テールピース下の2箇所のこすり傷は、補修したニスが若干盛り上がっていた(かさぶた状態)。いままでこの手の修理を依頼してきた別の工房だと、かさぶたを作らずに、修理面を平滑にならして完璧に傷を消してしまうのだが、今度の工房はそこまではしないようだ。ニス塗りのレベルを試すつもりで依頼してみたが、どこでも得意・不得意はある。しょうがない(古くからの付き合いがある別工房は、ニスの修理は抜群に上手なのに、毛替えは惜しいことにイマイチ)。

問題は、新品を装着してもらった魂柱。工房に行って最初に音出しをしたら、マッシブというのか、芯が強くて凝縮した音が出た。音の味が非常に濃い。なかなかいい状態だったので感心したが、少し詰まる感じもあった。そこを若干ほぐしてもらえるかと伝えると、魂柱の位置を微妙な間隔で変え始めた。

しかし、A線が暴れ出した上に、全体的にとげとげしさが目立ってきてダメ。A線をおとなしくさせると、同時にC線の低音も不甲斐なくなり、またダメ。魂柱を新造し、以前より音量が出るようになったので、このチェロが本来持っている癖=素直でニュートラルな発音(単調な音といってもよい)というよりも、ちょっと屈折した含みのあるキャラが目立ってきたみたい。

次にボアダルモニの柘植テールピースにつないであるテールコード(ありふれたナイロン)の長さが最短になっているのでこれを長くしてみた。テールコードを短くするとテールピースがナット側に下がる。すると駒からテールピースまでの弦長が長くなって、音が硬めになる。短くしたのはわたしで、以前の魂柱がついていた時は、音の輪郭が甘めでメリハリが弱かったため、テールコードを短くして音に締まりを与えたのだった。いくらかテールコードを長くし、駒〜テールピース間の弦長を短くすると、音質はソフトになる。

やってみたが、音が寝ぼけ気味でダメ。結局、最初に音出しした時が一番良かったという結論になった。最初の位置に魂柱を戻してもらった(テールコードの長さも最初の状態に復元)。これで音が戻るはずなのだが、依然、A線がバリバリと暴れる傾向が目立つ。

しょうがないので店主はA線をラーセンからヤーガーに交換してみた。柔らかい音になるはずだが、これもダメ。相変わらずギラギラと粗っぽい。ウ〜〜ムと店主が考えこんでしまう。魂柱の位置が元に戻らないのだろうか。パーツをいじると馴染むまで音が粗くなるのでは?と尋ねたが、そんなことはないと店主。結局1時間以上が経過し、次の予約の客が来てしまった(ヴィオラ弓の選定をしに来られた男性だった)。

で、結局、再度お預けとなり、魂柱を作り直すこととなった。少し長めに切って、ゆったりと立ててみるという。これで3本目(=魂柱交換したチェロが3本目)となる魂柱交換を勧めたた以上、わたしが納得する音が出るまでやってくれるそうだ。魂柱は構造がシンプルな分、長さと立位置の微調製に時間がかかる。引き取りは来週の金曜日。どうなるやら?



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