良いモノはそれなりに高い

都心の某老舗デパートの美術部に立ち寄り、ベテラン店員さんと雑談した際に、ちょっと面白い話を聞いた。

彼は定年を迎えた後もシニア社員として美術部に残っている凄腕の営業マンだが、珍しくプライベートな話を聞かせてくれた。実業家だったお父上がかなりの資産家だったそうで(戦後の預金封鎖で一度は全財産がパア〜になり、一から出直して再度資産を築いた由)、美術品のコレクションもしていたという。出入りの骨董商が持ち込む品は値切りもせず、言い値で次々に買い上げていたという。何故そうしたかというと、気持よく買ってくれる顧客は骨董商も大事にする。良い品物が入荷すれば優先的に紹介するようになる。10個買う内、1個でも良い品が混ざっていればそれで満足すべしというのが、お父上の哲学だったという。良いものはそれなりの値が付くわけで、そこを値切って買おうとすると売り手から敬遠され情報が集まらなくなる。業者は別のコレクターのところに品物を持って行ってしまう。最終的に損するのは誰なのか?

お父上はこんな事も話していたという。買う時は人より高い値段をつければよい品物が集まるし、売る時は人より安くすれば買い手が付いて売れてゆく。高いお金を出して買ったものは大事にするが、安かったものは(たとえそれがいいものであったとしても)所詮は安モノ扱いでゾンザイになってくる。同じ品を他人より安く買いたいと思うのが人情だが、それをやっていてはいいモノは買いそびれる。多少高くてもその値段で買う習慣を持っていれば、結局は得することになる・・・云々。

ベテラン店員さんは、今の日本では「もったいない」とか「節約」という言葉が美徳のように思われる風潮がはびこってしまい、高額商品が売りづらくなったとぼやいていた。お金を持っている人は多いが、貯めこむだけで使わないから経済が回らないと。東京23区内の固定資産税が高過ぎるのも問題で、都心に300坪とか400坪の敷地がある屋敷を構えてきた人たちが、この頃は家を売却してマンションに入居するケースが多いのだという。かつては敷地内に土蔵があり、そこにたくさんの骨董品類を収納出来たが、マンションではそうもいかない。高価な美術品をたくさん持っていると相続で子供に迷惑がかかるからと考えて、そういう品物を買わなくなる。売却された敷地は分割されて小さな家がいくつか建つわけで、そういう世帯が家具調度品に使う金額はたかが知れている。大きな敷地がそのまま相続され、新築でもされれば、建設工事関係やデパートにもお金が落ちるのにぃ・・・と。
芸術や文化活動を支えてきた富裕層の購買意欲が縮小する一方なので、余裕のある人にはドンドンお金を使ってもらいたいが、そういうマインドは冷えきってしまい、消費不況が続いているのが昨今の状況だとも。アベノミクスの恩恵は老舗デパートの売り場には充分に届いていないような感触のお話だった。

楽器の購入や調整でも同じことはいえるだろう。「予算はないけれども、どうにか良い音を・・・」といわれても無理という話が以下に出ている。
http://sasakivn.com/blog/?p=4247

関連記事。“お金持ち=幸せ”は本当なのか? 「日本人は、世界一、お金のことを知らない」
http://ddnavi.com/news/239344/


にほんブログ村 クラシックブログ チェロへ
にほんブログ村

にほんブログ村 クラシックブログ ヴァイオリンへ
にほんブログ村