大森健次郎『二十歳の原点』(1973)

(89分・35mm・カラー)黒澤明に師事し、大作『地震列島』(1980年)の監督として知られる大森健次郎のデビュー作。二十歳で自殺した女子大学生・高野悦子の日記をもとに、若者の全共闘運動後の喪失感と生きることへの焦燥、揺れ動く恋心が描かれている。
’73(東京映画)(監)大森健次郎(原)高野悦子(脚)重森孝子、森谷司郎(撮)中井朝一(美)樋口幸男(音)小野崎孝輔(出)角ゆり子、大門正明地井武男鈴木瑞穂、福田妙子、高林由紀子丹波義隆、富川徹夫、川島育恵、津田京子

作中時間は昭和44年。全共闘運動もたけなわ。立命館大学の女子大生、高野悦子の心情が描かれる。当時の京都のロケも生々しく、また主人公の描き方も真相に迫っているのではないかと思わされた。興味深い内容だった。
角ゆり子さんがなかなか繊細な演技で良かった。内省の深さと情緒不安定のバランスが絶妙。下宿の本棚にはアナーキズムの本とか歴史の本とかボーボワールなんかが並んでいる。先は見えないけれどとりあえずいま権力=大学当局に闘いを挑まなければならない、という切迫感が、自身の情緒不安定さとシンクロするのですなぁ(授業料不払闘争)。自分の切迫感は学生運動に連ならなければならない、しかしその切迫感は親には分かってもらえない、親を裏切らなければならない忸怩たる思い、そして学生運動だって何か先の展望を約束するわけではない。結果、学生運動にも、親にも、恋人関係にも、深いコミットを見出せず、アノミーに陥り、自殺へと追いやられる。
二十歳の原点』は新潮文庫に入ったりして有名だが、なぜこんなに有名になったのか不思議な気がする。自殺したからといって深い考えや決意があったわけではなく、なんとなく無気力に感じる状況があったということだと思う。時代状況を伝えているのだろう、たぶん。関連HP