ブームを生み出すPR戦略の基本

殿村(2016)は「ひこにゃん」「うどん県」「今年の漢字」「佐世保バーガー」などのPRに関わった経験をもとに、ブームをつくるPRのありかたについて解説している。殿村が目指しているのは、PR活動を通じて「ひとつの『文化』をつくり上げていく」ことである。また、文化と歴史をつくる(プロデュース)するために、「人が自ら動く」すなわち個人が主体的に動いてくれるように働きかける「個人へ向けたPR]が理想だとしている。これは、一過性の社会現象であるブームを生み出すことではなく、個人へのアプローチによって個人にとっての「マイブーム」を生み出し、マイブームが多く集まって、ムーブメントに高まっていくという「ムーブメント思考」が基本となる。PRで作り上げた価値観や概念自体がひとりでに動いて「文化」となっていくのが最高の展開だと殿村はいう。


では、ムーブメントを生み出すPRのポイントは何だろうか。殿村によれば、PRは、メディアとの連動によって、個人に向けて発信するものである。そのために、訴えかける対象を具体化(見える化)することが求められる。つまり、伝えるべきターゲットを明確化し、その相手に確実に届く言葉を選ぶということである。誰に向けて情報を発信するか(ターゲット)のみならず、誰が発表するか、どこで発表するかも大切である。


また、PRで大切なのが、選び続けられる条件としての「信頼」と「共感」(心に響くストーリー)をつくりあげることである。また「物語消費」の重要性も念頭においておく必要がある。物語消費とは、消費者は商品自体を消費するのではなく、商品を通じ、それがつくられた背景や設定、世界観というものを消費しているという考え方である。この考え方に従えば、PRでは、例えば、「その商品がどのようにつくられたか」という背景(ストーリー)や理念を表現する企業からのメッセージを伝えるということになる。多くの人が自ら動くようなPRを実現するためには、平均的国民の感性を持ち続けるように努力することも大切である。例えば、殿村は、ファッション感覚、スーパーマーケットの商品価格、テレビドラマを重視しているという。


さらに大事なのが、言葉の選び方である。言葉の選び方で、商品の持つイメージが大きく変わりうる。よって、言葉は短くてインパクトの強い言葉であること(例えば、「婚活カットご縁来い」)が望ましい。これに関連するのが、効果的なプレスリリースを書くことである。そのためには、「この情報を知ってもらいたい!」という根本的な目的意識を強く持ち続けることが大切である。また、プレスリリースで選ぶ言葉に「ニュース性」はあるかを自問したほうがよい。知ってもらいたいことを、「いま伝えるべき、一言」で表現するようにするわけである。「これを見て!」といったように、ビジュアル性によって訴求することも大切である。要するに、効果的なプレスリリースの秘訣は、「心に刺さるタイトルとビジュアル」を中心に、それに伴う物語を簡潔な文章で綴ることだと殿村は説明する。プレスリリース後のフォローも大切で、具体的には、プレスリリース発信の後に活字メディアであれば記事化、放送メディアであれば番組化に向けた企画案の提示が必要になると殿村はいう。