日本史Aと世界史Aをマスターして「超したたか」に生きる

佐藤(2015)は「新明解国語辞典三省堂)」の「したたか」の意味を次のように紹介している。「逆境に立たされてもくじけることなく、いかなる手段や奇計と思われる策を弄してでも危機や困難を乗り越えよう(非難や世間の思惑などを気にせず、自己の利益や立場を守ろう)とする強い生命力・精神力を備えているととらえられる様子」。その他「強くて、容易には屈しないさま(明鏡国語辞典)」などの定義も紹介している。そして、これからの時代を生き残るためには、このような「したたかさ」が大切だと主張する。つまり、われわれ1人ひとりが強くなり、試練に遭遇することがあっても、容易に屈せず、しっかりした知的羅針盤(視座)を持つことの重要性を説くのである。では、どのようにして「したたかさ」を身に着ければよいのか。


佐藤は、物事に対する自分なりの視座を持つために最低限必要な要素として、(1)基礎教養を身につける(歴史、哲学、思想、宗教、文学、経済、数学など)、(2)情報収集、(3)基礎教養と収集した情報の運用、(4)内在的論理を探る、の4つを挙げる。そのうち、最も重要なのが、他者の存在を前提とした作業である「内在的論理を探る」ことであり、1〜3はそのための前提条件だという。また、いくつかの基本的な思考パターンすなわち「思考の鋳型」を鍛える必要があるともいう。3,4の基礎教養と収集した情報の運用力を向上させ、内在的論理を探ることを技術として身につけることにより、思考の鋳型が鍛えられるというのである。そして、鍛えた「思考の鋳型」で、物事を自分なりに考え、解釈する訓練を重ねていると、やがて「他人には見えないもの」が見えるようになる、つまり、したたかになるというわけである。


佐藤は、基礎教養の中でも、歴史、とりわけ近現代史の有用性を説く。イギリスの歴史教科書を例として取り上げているが、主に実業高校の授業で使われている日本の歴史教科書「日本史A」と「世界史A」を読み込むことの有用性も主張している。「日本史A」と「世界史A」は、自国に都合のよい記述が抑えられ、価値中立的な知識が身につくようになっている。例えば、「日本史A」にはビジネスパーソンにとっての必要な知識が満載で、それらがバランス良く詰め込まれているという。日本の近現代史を中心に日本が世界とどのようにつながってきたのかを重視して書かれており、読み物として面白いという。実際、現代のビジネスパーソンには国際感覚が求められており、その根幹を作る必須の基礎教養は、国民国家の輪郭が明確になり、相争い、ときに協調してきた流れが記述されている近現代史である。どのような歴史の積み重ねを経たうえで、いまの自分が立っているのかを認識することは「お前はどう考えているのか」を絶えず問われる国際的なビジネスの場では欠かせない。その意味で「日本史A」「世界史A」を読み込むことが有効なのだと佐藤はいうのである。


「日本史A」と「世界史A」をしっかり読み、ビジネスパーソンに必要な基礎教養を身につけた上で、その知識を他の知識と結び付けて活用する訓練をすることで、「思考の鋳型」が鍛えられるというわけである。また佐藤は、「要約」と「敷衍」の重要性を指摘する。例えば、テキストを丸暗記する。そうしたうえで、キーワードに基づいて記憶を再現する。その方法の1つが、要約することである。そしてもう1つが敷衍であり、記憶した事項をより詳しく説明するわけである。あるいは別の言葉で言い換えてみる。記憶した内容を他人に説明するつもりで行うとよいと佐藤は助言する。