向田邦子「阿修羅のごとく」  太田光  いしだあゆみ

ドラマは基本的に大河の歴史ものくらいしか見ない(今の「西郷どん」は、鶴瓶下手な演技をはじめとして、鴎外の言う「歴史離れ」がヒド過ぎるので敬遠しているのは何度か記した)。
そんなボクが初めてみた「阿修羅のごとく」には圧倒されてしまった(放送された頃に評判だったのは知っていたけど、ドラマには興味がなかったので見なかった)。
一昨日からBSプレミアムで朝と深夜(再放送)しているのだけれど、急ぎの仕事のために横目で見ていた程度ながら実に良くできているので感心すること頻り。
ボクの知識内で比べると、「13人の優しい日本人」などの三谷幸喜を想起させられた緻密さ・デキの良さ。
4人姉妹ということで周知の「細雪」を強く意識したことは明らかだろうし、4人が生き生きと造型されている点では谷崎を遥かに超えている。
テレビ・ドラマのせいもあるものの、向田の人間認識によるものだろうけど、何よりも人間は下半身も具えて生きていることが、必要以上と思えるほど強調されているのが面白い。
70歳の父親に40歳の隠し妻と隠し子がいるのが分かり(父親のタネではないことは判明)、母親に知られぬように姉妹がテンテコ舞いするのが笑えるが、それぞれの設定が実に上手い。
タネ明かしはされているのか不明ながら、スリラー・タッチでくり返されるメロディがトルコの行進曲なのだけれど、これが実に効果的!


毎回、終了後に太田光山本むつみというシナリオ・ライターの対談が付されるのだけれど、太田の言うことはけっこう常識的レベル。
むかし太田がNHKの連続講座の形で向田邦子論をやっていたけれど、その時もドラマを見たくなるほどの面白さが伝わってこなかった。
向田論の本まで出しているそうだけど、際立ったものとも思えないと察せられる。
太田はお笑いの才は素晴らしいと思うけど、ドラマを分析して言葉にする能力は並みのレベルでしかないようだ。
ともあれ向田のシナリオ(や小説)を改めて読もうという気になってきた。
以前ヒグラシでオピッツが小説を取り上げてくれた時も、発表はともかく作品の方にそれ程の魅力を感じなかったけど、この「阿修羅のごとく」は細部が充実していて上出来の作品だ。
いしだあゆみを筆頭に、役者たちがそれぞれの味を出していて脱帽の演技。
今夜(0時45分から)の最終回の再放送はジックリ見る余裕があるのでワクワク。