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Secret Sekret

※November 26(Wed), 2008 こわいはなし

[] ある家族そのこども

「芝生。

 パパとママねえ、離婚することになったの。」

それは幼稚園の春の運動会の後だった。

あたしちゃんとおぼえてる。

そのときマックのソフトクリームが、べちゃっと床に落ちちゃったから。

でもあたし、もうオトナだったから、平気な顔をして見せた。

「そうなんだ」

それで、芝生はどっちにする?と、今度はパパが聞いてきた。

はぁん、そういうことか。

今日珍しくパパがいると思ったら、そんなことを聞くためだったのか。

あたしはもうずっと前から知っていた。

パパには好きな女の人がいて、その人はパパより7つも年上だってことも、ママよりずっと不美人だってことも。

なぜって、パパがあたしにこっそり教えたんだもん。

あたし、もう年長さんで大人になりかけてたから、ママにはちゃんと黙っていたの。

だって、パパとママは、娘のあたしから見てもお似合いの、美男美女だったんだもん。

3人で並んで歩くと、みんなが羨ましそうに振り向いたわ。

写真を撮られて、雑誌に載ったことも何度もあるのよ。

あたしも今ではモデルのお仕事してるんだもの、親のスキャンダルに巻き込まれるなんて、冗談じゃないわ。

「もう決まったことなの?」

あたしは一応、二人に尋ねた。

パパとママは、もう顔を見合わせることなんてしなかった。

あたしだけを見て、うん、と頷いた。

「あたし、……ママについてく。」


 

ママは背も高くて眼も大きくて髪も長くて、誰のママよりきれいだった。

だから、パパなんかと別れても、すてきな人が現れると思ってた。

あたしは想像した。

「芝生、新しいパパよ。」

そして紹介してくれた新しいパパは、とってもハンサムでかっこよくてやさしくて、テニスとか出来て、ギターも弾けて、馬にも乗れて、オーロラを見たこともあって、世界一周とかしてて、あたしを一目見るなり、

「ぼくの本当の花嫁は君だ!」

なんて言って、あたしに恋するのよ。

それであたしは言うの、

「ダメよお父さん、ママが帰ってくるぅ!」

そうよきっときっと、そんなラブストーリーがあたしを待っているんだわ。

そう思って、

そう思って期待していたのに。

ママったら。


 

「芝生、会わせたい人がいるんだけど。」

よそ行きのワンピースを着たママが、あたしに向かって恥ずかしそうに言うの。

あたし、いよいよだわって、すごくどきどきしちゃった。

一番お気に入りのブラウスとスカートで、ママと一緒にレストランに入ったの。

そしたら現れたのは、あたしの思った王子様じゃなかった。

聞けば、ママより5つ、年下というけれど、どう見ても同い年か、もっと上だった。

人間、顔じゃないのよ、と、幼稚園の先生も言っていた。

あたしはもう小学一年生になっていて、もう十分オトナだったから、顔に異議を唱えるのはやめることにした。

ヤサシソウダヨネ、と、小さい声で言ってみた。

ママはそれを聞いて安心したのか、もうひとつ、爆弾発言をした。

「来年には、芝生はおねえさんになるのよ。

 弟か妹ができるの。」

――へえ。そうなんだ。

……

じゃないわよ。

何でこんなブサイクな男の子どもなんか作ってんのよ!!

冗談じゃないわよ!!

あたしは怒りのあまり、テーブルクロスを引き摺り落とそうかと思ったほどだった。

でも、あたしは小学一年生の大人だもの。

秋になっていい夫婦の日、とかいう日に、ママは結婚した。

あたしは新しいお父さんの養女になった。

「同い年だけど、茜ちゃんのほうがすこしおねえさんなのよね」

新しい家には、既に先客がいたのだ。

お父さんになった人の娘は、階段の上からあたしを見下ろして言った。

「あたし4月生まれなの。

 あんたは早生まれなんだってね。何月?」

なんて横柄な女なの?!

しかも、子連れ同士の再婚だったの??

あたしのショックはかなり大きく、その場で叫んだわ。

「あたし、パパのところに行く!!」

 

 

パパの新しい奥さんは、結構気さくな人だった。

いつもげらげら笑ってた。ママとはそこが違ってた。

ママより背も低くて小さくて、眼も細くてファッションセンスもいまいちだったけど、笑うとあったかい感じがした。

ときどき、認めたくないけど、かわいい顔をして笑った。

パパも楽しそうだった。

それがとっても、くやしかった。

こんな女に、ママは負けちゃったのかな。

そう思うとなんだかすごく嫌な気持ちになって、ママだってすてきだったのにって、ママのいいところをたくさん見つけようとした。

ママだって、おやつを作ってくれた。

ママだって、一緒に歌を歌ってくれた。

ママだって、爪を切るのが上手だった。

ママだって、やさしかった。

ママだって、ママだって、……

 

あたしは、パパの新しい奥さんに懐かないことにした。

だってママがカワイソウだもの。

 

ある夜、こっそり二人が話しているのを聞いた。

「芝生ちゃん、私のこと嫌いみたい。」

「やっぱりママのほうがいいんだなあ。」

あたしは、二人をかわいそうなんて思わないことにした。

やっぱり、あたしはママの味方でいなくちゃって思った。

だって、あのアカネって女の子にいじめられてるかもしれないじゃん。

あたしは次の日、ママの元に戻った。

弟が、生まれていた。

 

 

「あたしたちさ、これでほんとの家族になったのかもね。」

あかねちゃんが言う。

生まれたばかりの弟は、ちっちゃくて、かわいかった。

「ふたりとも、かわいがってあげてね。

 お手伝い、してもらえるかな?」

ママはやさしくそう言って、あたしたちの顔を見比べたわ。

「いいわよ。」

と、茜ちゃん。

相変わらず横柄な態度だわ。

「お手伝い、するわ。」

あたしの弟だもん、と、心の中で宣戦布告をした。

バチバチっと、あかねちゃんとの間で火花が散った。

「あたしたち、ライバル同士だよね」

ふふん、と、あかねちゃんはあからさまに嫌な横目使いをして見せた。

「負けないわよ。」

 

こうしてあたしたちは、同じ学年の姉妹になったの。

今では同じ高校に通ってる。

しかたないじゃない、進学校はここだけだったのだもの。

茜ちゃんは、ほんとはお父さんのことが嫌いみたい。

再婚も本当はいやだったんだって。

だから大学にも行って、それも8年ぐらい行って、そのあともずっと親の脛をかじって、骨の髄までしゃぶりつくしてやるんだってさ。

凄い復讐心よね。

あたし?

あたしはほら、もうとっくの昔にオトナじゃない?

そんな子ども臭いことしやしないわよ。

あたしは、ふつーにおよめさんになるの。

今、普通ってとってもたいへんなことなのよ。

……

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