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占魚亭残日録

2018-09-22 『首打人左源太事件帖』

多岐川恭『首打人左源太事件帖』(徳間文庫)★★★

| 19:05

『首打人左源太』(双葉社)改題・再文庫化

潮地左源太、三十一歳。水戸藩最強の剣士だった彼は密通した妻を斬り、藩の重臣の縁故者との仕合で相手を叩きのめして寝たきりにたため、家禄を取り上げられ浪人になった。剣の腕を活かし一人十両で罪人の首打ちを請け負う彼に、今日も依頼が――。

第一話「非情の風が渡る」

 町奉行所同心・堀野金介の紹介で、上総大多喜藩で仕事をすることになった左源太。不義を働いた陪審と前藩主の側室・鶴の斬首を滞りなく終えたが、処刑直前に二人と交わした会話について執拗に問い質される――。

第二話「まどろむ城下町」

 佐倉城下で出会った高瀬参右衛門からの依頼で、牛久で仕事をすることになった左源太。言い寄っていた百姓娘を殺し死罪を言い渡された按摩・法沢の処刑で首打ちの任を命じられた者たちの刀が揚がらなくなり、部外者の左源太にお鉢が回ってきたのだ。牛久へ到着すると、法沢は破牢していた――。

第三話「雪空に命が散る」

 お浪が壬生での仕事を持ってきた。当地に着いた左源太は依頼者の坪田宇之助と会い、家宝である拝領物の硯箱と短刀をそうとは知らずに売り払い女郎に貢いだ阿久常之進の斬首を依頼される――。

第四話「襲われた刑場」

 お浪たちと高崎に来ていた左源太は安中で首打ち役が要るとの話を聞いて足を運び、佐田善八郎から博徒の正三郎と百姓の梅吉の斬首を引き受けた。刑場を襲撃した暴徒に二人を奪われ、佐田を含む八人が死亡する。佐田との約束を果たすため、左源太は二人の首を打とうとする――。

第五話「代役は死んだ」

 仕事で沼津に来た左源太は、同宿の浪人・石川良太郎から仕事を譲ってほしいと頼まれたが断る。一人目の首を打った左源太だったが、二人目は試しを兼ねたものになったため依頼を断り、代わりに石川を紹介する。仕事を済ませた石川が帰路襲われ、金を奪われたうえ殺されてしまう――。

第六話「栄華の夢」

 棚倉での仕事を終え江戸に戻った左源太を、水戸藩の近習・笹本源五が訪ねてきた。彼は帰参の話を持ってきたが、左源太は断る。それから暫くして仙台から戻ってきたお浪がやって来て、棚倉で左源太が首を打った男の妻と娘が妾になっていたと話す――。

首打ち請負人・潮地左源太が事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりする連作の第1集。多岐川時代小説らしさはあるもののミステリーとしては薄いのでそういうものを求める人にはお薦めはできないし、発端は面白いのに途中で失速するエピソードが多いので、イマイチな感が強い。集中ベストは「まどろむ城下町」。

首打人左源太 (1983年)

首打人左源太 (1983年)

首打人左源太事件帖 (徳間文庫)

首打人左源太事件帖 (徳間文庫)

2018-08-11 『目明しやくざ』

多岐川恭『目明しやくざ』(光文社時代小説文庫)★★★☆

| 16:00

多岐川は〈ゆっくり雨太郎捕物控〉をはじめ、捕物帳(やそれに類するもの)を10シリーズ以上手掛けている。本シリーズは、岡っ引の弥七の甥でやくざな男の伊佐吉が難事件に挑む連作。

1992年8月刊の本書は『江戸妖花帖』(1975年6月刊)改題となっているが、桃源社版『目明しやくざ』(1973年刊)収録の第一話、『江戸妖花帖』収録の第二〜六話に、単行本未収録の第七話を集成したもの。

第一話「目明しやくざ」

 悪評が絶えない岡っ引の富造が妾のお紺の家で殺され、彼女の兄の半助に嫌疑がかかる。二人は共犯と考えた弥七はお紺を拷問するが、半助と付き合いのある伊佐吉が助け舟を出してお紺を助け、姿を消した半助の行方を捜す――。

 捻りすぎて着地に失敗した気もするが、悪くはない。

第二話「力士の妾宅」

 鉄火場で出会った関取の妾のお万と一夜を過ごした伊佐吉。朝、目覚めると、隣で寝ていたお万が刺殺されていた。小柄な男が入ってきてお万を刺したのを夢うつつで見た記憶があるのだが、容疑者は大柄な男だった――。

 あることを誤認させるための(江戸時代が舞台だからこそ説得力がある)豪快なトリックが炸裂する、知られざるバカミスの秀作。

第三話「裸屋敷」

 大名の土屋が落馬し重篤な状態になった。お部屋様に生ませた男子は馬鹿息子で家を譲るわけにはゆかず、御正室が生んだあずさ姫に婿を取ることになったが、姫にはご乱行の噂があり、落馬事故の前日から屋敷を抜け出していた。摂津屋梶兵衛が持っている裸屋敷にいることが分かったが、面を被ったうえ洗い髪のため誰が姫なのか分からない。伊佐吉は屋敷に潜入し、姫を見付けて連れ出すことになった――。

 エロミス。おぼこにすぐに手を出さない(キスはしたけど)伊佐吉は紳士ですなぁ(笑)。

第四話「蟻地獄」

 三河屋庄吉が女に狂い、大金を貢いでいるという。相手は、おきせという碁の先生。女房のおいねから相談された弥七親分は、伊佐吉をおきせと夫婦約束をした男に扮させ、庄吉の目を覚まさせようとする――。

 アリバイものであり、復讐譚。

第五話「心中者は花の香り

 青松寺で心中者が見つかった。死んでいたのは丹波屋の娘のお菊と儒学者の息子の菅谷小太郎。無理心中にしか見えないが、伊佐吉は疑問を持つ――。

 伏線不足なのが残念。

第六話「狂った長屋

 弥七親分と喧嘩をした伊佐吉は、ひと月なんとか食いつないでいた。深川永代寺門前近くの居酒屋で土地のあぶれ者と喧嘩をやらかし、姿を消すよう忠告される。そこへ松さんという男に賭場に連れて行ってやると言われついていくと、桃源郷のような長屋に案内される――。

 バカミス。この時代だからこそ説得力のある真相が暴かれる一本。長屋のカラクリは勿論のこと逆説が面白い。

第七話「居候の失敗」

 弥七親分から日に一分の仕事を持ちかけられた伊佐吉。大伝馬町の木綿問屋梅村屋の主人夫婦がひと月前に毒キノコを食べて死に、残された子供たちのだれかが一家皆殺しを計っているかもしれないので見張ってほしいと番頭に頼まれたという。仕事を引き受けた伊佐吉が梅村屋に入ったその晩、総領の好助が殺される――。

 シリーズ最終話。端正なフーダニット。

あるネタを捻った表題作、顔を隠したヌーディストの中から姫君を探すフーダニットの「裸屋敷」などバラエティに富んでいて楽しめる連作だが、「力士の妾宅」「狂った長屋」の二編が出色。奇しくもバカミス二作が突出しているが、他の作品もよく出来ているのでオススメです。

目明しやくざ (徳間文庫)

目明しやくざ (徳間文庫)

2018-06-08 『出戻り侍』

多岐川恭『出戻り侍』(光文社時代小説文庫)★★★☆

| 22:21

多岐川恭時代小説の名手でもあった。『女人用心帖』から『情なしお源金貸し捕物帖』まで多数刊行され、ジャンルは歴史小説・歴史推理・時代伝奇・捕物帳(とそれに類するもの)・ピカレスクと多岐にわたっている。

本書は『深川売女宿』(桃源社/1972年刊)を改題・文庫化したもので、ノンシリーズ短編を7編収録。

密かに春を売る小料理屋に五日も居残る男の正体を巡る「深川売女宿」は、何気ない描写が真犯人指摘の補助線になっていて上手い。

ぐず弁と陰口を叩かれている岡っ引が事件関係者に下した粋な計らいが彼自身の人生に影響を与える「上州からの客人」は、罪と死者の最期の願いを背負って生き続ける者を描いた好編。

無実の罪で入牢した少女への折檻を煽る女囚の目的が明かされる「牢の女」は安楽椅子探偵物。

悪友の紹介で馬具家に婿入りした貧乏御家人の次男坊が巻き込まれた事件の顛末を描いた表題作「出戻り侍」、江戸を荒らした大盗を追う岡っ引が日光道中・中田宿の旅籠の宿泊客十人の中いると睨み取り調べる「宿場の大盗」、若隠居が侍の友人から敵討ちで江戸に出てきた後家と家来の動静を見守るよう依頼され、敵討ちの意外な真相が明かされる「討たれる男」の三編は、多岐川時代小説らしさに溢れている。

「お半呪縛」は浄瑠璃・歌舞伎の『桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)』、通称『お半長右衛門』の三つの「実説」を描いた一編。

本書は、結末の意外性に拘ったミステリーとしても楽しめる短編集。「深川売女宿」「牢の女」「討たれる男」などが面白いが、集中ベストは「宿場の大盗」。誰が大盗なのか見当をつけやすいものの、全登場人物の真の姿を次々と明らかにしていく謎解きがとても良い。

これまでミステリー読者の間では『異郷の帆』(1961年刊)を除いて彼の時代小説はあまり読まれてこなかったと思う。結末の意外性に拘ったミステリーとしても楽しめる短編が揃っているので、本書を楽しんだ方は他の作品も手に取ってみてほしい。

出戻り侍 (光文社文庫)

出戻り侍 (光文社文庫)

出戻り侍 新装版 (光文社時代小説文庫)

出戻り侍 新装版 (光文社時代小説文庫)