「Loser's Parade」

for さえない日々

「営業」という曲について考える

今月頭に開催された星野源ワンマンでひとつ不満だったことがある。『営業』をやらなかったことだ。観客から\営業やってー!/って声が上がってたのに「…今度までに練習してくる!」って言ってやらなかった!一番楽しみにしてたのに!

「エピソード」を聴いていて一番ビックリしたのがこの『営業』という曲だ。ビックリして何度も何度も繰り返し聴いてしまった。今までのソロ作品では、というかSAKEROCKでも見せなかった新たなアプローチでとにかくかっこいい。
ユニコーンの『開店休業』の出だしのようなシンセ(オルガン?)の音から始まり、8分に刻むハイハット、8分のルート音を刻むベースが緊張感を出し、Bメロから入るギターが切なく入り、Bメロ最後のシンセの不協和音がそれを増すと共にサビへの橋渡しに。Aメロでは8分音符が目立ち、Bメロではそれが4分音符、そしてサビでは2分音符へと変わり、展開するにつれて時間がどんどんゆっくりになるような感覚になる。1番のサビからすぐに2番に入るこの曲に間奏はない。最後にサビを繰り返すことでよりジリジリ迫られてくる印象になり、アウトロはフェードアウトしながら40秒ほど続く。次の曲に入るまでに5秒の間が空くのだが、これは他の曲、例えば『くだらないの中に』でもそれくらいの曲間があるが、フェードアウトの効果でやけに次の曲まで間が開いているように感じる。なんだかメロディや構成、編曲だけで世界観が出来上がっているように思う。

そしてこの歌詞。
営業 - 星野源 - 歌詞 : 歌ネット
「不安ってお金になると思います」とは作詞者談。「エピソード」のCDトレイをひっぺがすと現れる曲解説に掲載されています。歌詞を読むと、この物語は生命保険の営業マンの話であるとなんとなくわかってくる。「好きでもないものを 売るのだ」「気が狂いそうでも 普通さ」なんて歌詞から自身の仕事に心が押しつぶされそうになっている姿を想像させるのに、「培った日々はいつか終わるさ」「育んだ日々は僕が守るさ」と奥さんに商談をするサビでの姿は喪黒福造のような出で立ちを想像させられる。1番のBメロでは歩いて「街を征服」だったのが、2番では「君を征服」と影が濃くなる。Aメロでは素の自分、Bメロで変化し、サビで営業マンの仮面を被った姿を想起させられる。そしてラストでは「変わらぬ僕もいつかどこかで 守られる人に出会うかな」と素に戻っていくという構成。素の自分の焦りがAメロの音符の多さに、仮面を被ったトリップ感がサビの音符の少なさで表されているかのよう。

不穏な歌詞に、ヒリヒリするアレンジとそれを増幅させる構成、そして優しいけど影が見えるメロディと歌声。すべてが重なり合ったこの曲が、とても好きです。