カーネル多変量解析(赤穂昭太郎・著)

機械学習データマイニングで、近年頻繁に用いられるカーネル法に着目した本。機械学習の教科書として、パターン認識と機械学習 上 - ベイズ理論による統計的予測(通称・PRML)が褒められている所を見る。PRMLが非常に良く書かれており(レベルが低いとは言わない。あちこちで褒められているのが不思議なくらいレベル高い読者を想定していると思う)、翻訳も、さすがに専門家が集まって訳していて、良く訳されており、機械学習の入門書として納得がいく。しかし、機械学習一般というより、日本語版の副題にあるとおりベイズ統計から見た機械学習と考えられる程、ベイスに寄っていた。それに対して、本書、カーネル多変量解析は、カーネル法という視点(だけ)で見た機械学習入門とも見られる。

この本は非常に良く書かれている。赤穂先生の理論家としての誠実さが伝わってくる。入門書と言っても、基礎は深く、応用は浅く広くと書かれているので、L1正則化やグラフカーネルなどの最近研究されている事項の足下までさらっと網羅している。その上、未知語には余すところ無く注釈が入るし、分かりやすくするために定義を簡略化した物は定義を簡略化した旨の説明が入っている。この本を読んでいて分からない単語は、恐らく線形代数などの基礎で欠けている部分なので、線形代数の入門書を読むのが良いだろう。

私はカーネル法SVM(Support Vector Machine)から入って、実務的に知っていった(SVMの理論を知ったり、実装する為にカーネル法の手順を勉強した)ため、多変量解析からの見方は本書を読むまで、ほとんど知らなかった。本当に、未知語無く(←このへんがすばらしい)カーネル法という視点を貫いて1から書かれていて、気持ちよく読むことが出来た。

本当に惜しいと思うのは、本書には1つたりとも例題が無い事である。演習問題が無いだけでなく、実例も1つも無い。実例があると数式に取り残されても、雰囲気がつかめるし、数式で見過ごした点に気づく事もできる。本当に数式慣れしている方は数式だけで全てを理解できるが、多くの読者は厳しいのではないかと思う。本書の前半の章だけでも良いので、プロブレムブック(演習問題帳)の様な別冊があると最高だとおもった。

SVMが流行した以降のカーネル法は洋書でも本全体の一部でさらっと触れられる説明であったり、論文の詰め合わせの様な本であったり、あるいは数式のゴッツイ本であったりして、体系的に入門するのは簡単では無いかもしれない。しかし、本書はカーネル法を体系的に説明しており、和書、洋書を問わず今、最高の機械学習向けカーネル入門書であろう。