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1999-02-03

『19分25秒』引間徹


夜の闇を切り裂く義足の競歩ランナー


 惜しむらくは文体が甘い。それさえ気にならなければ、充分、堪能できるだろう。私は気になるゆえ、点数が辛くならざるを得ない。


 新しい集合住宅がそびえ立つ埋め立て地に、突然現れた謎の競歩ランナー。深夜の公園で、彼はオリンピック記録を上回る速さでトレーニングをしていた。しかも驚くべきことに片足は義足だった。偶然、彼を見かけた主人公。幻のランナーを何としても檜舞台に立たせようとする競歩連盟の男。三者三様の思いを託したレースが始まる。


 義足のランナーに触発された主人公の成長物語である。


 若い人に読んで欲しい本だ。29歳の著者が書いたこの作品は「すばる文学賞」に輝いた。無機質な街に繰り広げられる熱いドラマを瑞々しい感性で描き上げる。


 時折、ハッとさせられる表現がちりばめられている。都会の断面をスケッチ風に切り取るのが非常に巧い。構成もよく、レースの結末もひとひねり効いている。人物描写もまずまずで、特に義足の競歩ランナーの陰翳のつけ方などは抜きん出ている。何にも増して、躍動する肉体を描いたところが良い。


 義足のランナーの超然とした生き様は、映画『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスを思わせる。更に彼の走る姿をロバート・ハインデルに描かせてみたいものだと、想像を膨らませてしまう。鮮やかなイメージが印象深い佳作である。


19分25秒

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