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2000-04-28

『湖の伝説 画家・三橋節子の愛と死』梅原猛


人間を追求する慟哭と英知の書


 ガンのため右腕を切断した女流画家。迫りくる死を直視しながら左手で描き出したものは何か? 雄渾の筆致が解明する感動の人間論!


 自分の死が確実に迫ってきたのを知ったとき人は何を考え何をなしうるか。2人の幼児と短い自己の人生への決別のため、慣れぬ左手に絵筆を持ちかえて奇蹟的に描いた「湖の伝説」シリーズ。決定的な不幸のどん底で、なおかつ生きとし生けるものへの愛と信頼を画面一杯に訴えて夭折した女流画家の生涯。梅原猛がライフワークの日本学の仕事を中断して執筆した本書は、読者を慟哭と英知の世界にひきずりこむ最も現代的な愛と死と生の書である。


【帯より】


湖の伝説 画家・三橋節子の愛と死

2000-04-17

言葉の謎――(i母音)+ウム考


 不明な点が多いと言葉は謎の度合が一気に高まる。今回は私の自己省察的思惟による三段腹論法を展開したい。


 ミステリを読んでいると時たま“リノリウムの床”ってえのが出て来ますな。ミステリ好きであるにもかかわらず「エー、そんなの知らんぜよ〜」と中国・四国地方と推察される言い回しで嘆くあなたは、この言葉に目をつむっているのである。すなわち、知らない言葉を認知することによって、自己の無知がさらけ出されることを拒否していると推論される。


 余談が少し過ぎた。

 

 初めて“リノリウムの床”が行間から立ち現れた時、私は「リノリウムって何だべな? わっかんないっしょ〜(わからないでしょ)」と故郷の言葉で慨嘆したものだ。


 人によってもかなりの相違があるのだろうが、私の場合“(i母音)ウム”と聞くと、“アルミニウム”を連想する。幼少期を高度経済成長時に過ごした刷り込みの残滓(ざんし)であろうか。それ故“リウム”が付された言葉に金属的な印象を勝手に附与してしまうのだ。ここに私の人生の悲劇の発端があったと言っては過言である。


 余談がどんどん過ぎるなあ。

 

 つまり“リノリウムの床”を推理した脳味噌が出した結論は「ははーん、つまり硬くてピカピカの床なのだな」というものだった。理解したつもりになった私がイメージしたのは映画『スター・ウォーズ』などに登場する宇宙船に備えられた床であった。因みに『スター・ウォーズ』は見たことがない。『ミクロの決死圏』は見たけどね。


 余談が加速を増してきた。

 

 そうして昨年、辞書を繙(ひもと)いた私は「無知との遭遇」を体験することと相成った。


リノリウム【英 linoleum】(名)

 乾性油・樹脂・コルクくずなどをまぜて麻布に塗ったもの。洋風建築の床にしく。(『国語辞典 改訂増補版:講談社』より)


「コルクくず」と「麻布」の語彙が私を撃った。私はひとつ賢くなり、ひとつ愚かになった。“リノリウムの床”が硬くはないことを知ったが、その正体はいまだ不明である。容疑者と思われる床を見たことがあるような気もするが、現在、特定できるまでに至っていない。床であることはわかっているのだが「麻布」をどうやって確認すればよいのかが目下の懸案事項である。


 人生経験は36年になるが言葉の謎は深まるばかりである。


【付記】ゼラニウムという名の花がある。赤やピンクの花を元気一杯に咲かせるヤツだ。初めてこの花の名前を知った日より、今日(こんにち)に至るまでどうしても金属的な印象を拭えない。私が“(i母音)ウム”でアルミニウムを連想しないのは「アクアリウム」と「プラネタリウム」のみである。