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2001-05-09

『豹の呼ぶ声』マイクル・Z・リューイン


人生の苦悩引きずるナイス・ガイ


 またしても石田善彦の訳である。「その凶報をもたらしたのは、執筆のローリングだった」。冒頭一行目から、これだ。どう考えても「執事」である。校正の問題なのかも知れないが、石田の名前しか表記されてないので、取り敢えずは石田を悪者にしておこう。


 私が愛読する“アルバート・サムスン・シリーズ”だ。一気に読み終えたのだが、及第点ギリギリってところ。


 環境保護を訴えるテロリスト・グループが、爆発しないようにセットした爆弾を仕掛け、自らそれを警察へ通報する。この手口でテロリスト・グループは、マスコミからもてはやされる。ところが、ある公共の場所へ仕掛けた爆弾が盗まれてしまった。テロリスト・グループは個人で開業しているサムスンの元へ仕事を依頼する。折からのテレビ・コマーシャルで事務所の景気が上向きになっていたサムスンは渋々、条件つきで仕事を請け負う。


 いつにも増してサムスンの苦悩は深い。どことなくW・P・マッギヴァーンを思わせる部分もある。そうはいっても、社会派というよりは、むしろサラリーマン・ミステリといった感が強い。


 特にどうということもないのだが、スラスラ読ませるのは、やはりリューインの筆力の為せる業(わざ)か。


 時間は一次元的で、単一の方向性をもち、それがどんなにみじめで永遠につづくように思われるときでも、人間の営みはいつか必ず終わるという信念だけに支られて、私は2時すぎに帰宅した。


 これはろくでもない仕事を終えて、帰宅するサムスンの描写。ニヤリ。


 こんな小噺(こばなし)も出てくる。


「女房とテロリストの違いは?」

「テロリストとは交渉できる」


 サムスンはいつものように等身大の人間の顔をさらして見せる。どうということのない行動に、優しさと誇りが垣間見える。人生の瑣末に耐えるタフ・ガイの姿は、とても恰好の好いものではない。だが、それで彼の人間としての魅力が減じると思ったら大間違いだ。

豹の呼ぶ声

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