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2001-05-12

『逃げ歌』丸山健二


7度の推敲の跡なし


 買わなくてよかった、と心底思いながら私は本をパタンと閉じた。上巻117ページに「よしんば」が3回出てきた直後のことだ。「野郎、嘘をつきやがったな」と私は心の中で呪った。「貴様、7度の推敲から“逃げうた”な」と駄洒落を言おうとしてやめた。そんな場合ではない。「あれだけの男も、ここまでか――」。大きくため息を一つついて、私は布団を頭からかぶった。


 読むに値しない作品だったせいもあるのだが、丸山が抱える“負の部分”がやたらと目立つ。家族への不信・家という呪縛・自立しているかのように見せかけて、その実、都合がいいだけの男女関係。


 更に、いつまで経っても現われない「詩人・カナシミイカル」。主人公の大望と野心を込めて書かれるはずの詩「逃げ歌」は、書き出しすら出てこない有り様だ。読了している須藤凝人君に訊ねたところ、なんと「逃げ歌」は完成しないという。


 ブラブラと仕事もしないで、大きな目標を夢見る主人公は、丸山そのものではないか。今後はエッセイでも、でかい口は叩けなくなるだろう。


千日の瑠璃』(文春文庫)で世一という珠玉の如き少年を創り出し、『野に降る星』(文藝春秋)では、青い旗を取りにゆくまでの不滅のストーリーを紡ぎ出した丸山は、一体どこへ行ったのか。


 好きな作家が老いに敗れつつある姿を見るのは辛いものだ。


 丸山よ、満身創痍になる覚悟で次の作品を自らの「挑戦の歌」とされよ。

逃げ歌〈上〉 逃げ歌〈下〉

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