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2001-07-20

『朗読者』ベルンハルト・シュリンク


ナチスに加担した女性の、悲しいほど率直な人生


 あとがきによれば「ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』以来、ドイツ文学では最大の世界的成功を収めた作品」(週刊誌『シュピーゲル』)だそうだ。『ブリキの太鼓』を読んでないので比較のしようもないが、まあ、それほどでもあるまい。ハッキリ言って苦手な内容だ。


 帯や裏表紙には麗々しいばかりの惹句が並んでいる。これを鵜呑みにすると肩透かしを食うから御用心。こういう短い文章にも金が掛けられているのだろうか?


 新潮クレスト・ブックスとは四六判サイズのペーパーバックのような安っぽい体裁で、その癖、値段は1800円というのだから、新潮社はちゃっかりしてやがる。ページに使われている紙も、直ぐにでも焼けてしまいそうな安物。ここ数年、新潮社の経費節減はこうした形で如実に現われている。全くもって芸が無さ過ぎる。


 帯にはこうある。「15歳の少年と36歳の女性の切ない恋。彼女が隠していた忌わしい秘密とは?」。これがそもそも誇大な宣伝文句。ありきたりの恋だ。普通以上でもなければ、以下でもない。これだけ年齢が離れていると、少年の方がやきもきさせられるのは当然だ。


 前半は少年と年上の恋人の話。ゆきずりの出会いに身を任せた少年が性愛に目覚める。いつしか、二人は肌を寄せ合う前に、小説を朗読するようになっていた。ハンナ(彼女)は朗読をしなければ抱かれることをよしとしなかった。この儀式めいた行為が、二人を強く結びつけていた。だが、ハンナはある日、突然、姿を消してしまう。


 数年後のナチスを裁く法廷でのこと。強制収容所の看守をしていた女性が数名、被告となっていた。その中にハンナの姿があった。主人公のミヒャエルは大学のゼミの研究名目で裁判を傍聴していた。ここから物語の色合いはガラリと変化する。ミヒャエルが抱え込んだ苦しみは“戦後ドイツの苦悩”そのものだった。過去の恋人が裁かれようとしているのを目の当たりにし、彼は自分の父親がどのように振る舞い、生き延びてきたのかを考えずにはいられなくなる。愛する人々が犯した罪を受け容れようと自問自答しながらも、心は穏やかにならない。


 ハンナは率直な女性だった。公判中であってもその態度は少しも変わらない。彼女は少しでも罪が軽くなるようにとの駆け引きは一切行わなかった。やったことはやったと認め、わからないことはわからないとハッキリ答えた。これが悪印象を与えてしまい、彼女一人が重い刑に服すこととなる。ハンナは個人的な秘密を最後まで隠し通した。ミヒャエルがそれに気づく。彼女への判決を覆すほどの秘密とは?


 それから10年にわたってミヒャエルはハンナに朗読を録音したカセット・テープを送り続ける。獄中でナチスについても学んだハンナは、恩赦となり出獄する前日にある結論を出す。


 狂った時代に弄(もてあそ)ばれた女性の悲しい一生。真面目に生きた事実すら否定され、社会的な制裁を受ける。間違いなく言えることは、ミヒャエルの朗読がハンナの人生を救ったことだ。だが、学ぶことによって得られた現実は、時にこれほど厳しいものとなる。


朗読者

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