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2001-09-23

私がこよなく愛する詩〜「結語」ユゴー/『ユゴー詩集』


 私の好きな詩をご紹介しよう。たまには、こういうのもいいでしょ。


 ヴィクトル・ユゴーの『懲罰詩集』より。尚、小さな「*」は脚注で、クリックするとジャンプできる。念のため。


「結語*1


 人間の良心は死んだ。乱痴気騒ぎの宴で、

 あいつ*2は良心の死骸の上にうずくまる。その死骸が好きなのだ。

 ときどきあいつは陽気に、勝ち誇り、赤い目をして、

 振りむいては、死んだ良心をひっぱたく。


 裁判官の奥の手は淫売になりさがること。

 正直者は聖職者の圧力にふるえあがってとり乱す。

 陶器師の畑から聖職者たちは財布を掘り出す*3

 シブールはユダの売った神をまた売りわたす*4


 あいつらは言う、「カエサル*5様が治めているのだ、軍神が

 彼を選んだのだ、国民よ従え、従うべきだ!」と。

 あいつらはその手をぎゅっと握りしめて、歌いながら歩いていく。

 すると、指のあいだから金貨がのぞいているのが見える。


 ああ! 教皇に祝福された、あのならず者、

 あの君主、追剥ぎ君主が位についているあいだは、

 片手に王杖を持ち、片手に強盗のやっとこを持ったあいつ、

 サタンがマンドランを刻んで作りあげたあのシャルルマーニュ*6が、


 あいつが悪事にふけっているあいだは、共和国憲法への誓いや、

 美徳や、宗教の名誉をバリバリ噛み砕きながら、

 酔っぱらった恐ろしい顔つきで、我々の栄光に恥を吐きかけながら、

 大空の太陽の下にこんな姿を見せているあいだは、


 たとえ民衆の卑しさが昂じて、

 あの憎むべきペテン師を崇(あが)めるようになろうとも、

 たとえイギリスやアメリカさえもが

 亡命者に向かって、出ていってくれ! 俺たちは怖いんだ! と言おうとも、


 たとえ我々が枯葉のようになろうとも、

 あのカエサルのご機嫌をとろうとして、人々が我々みんなを見捨てようとも、

 追放された者たちが、戸口から戸口へ逃げまわらねばならなくなろうとも、

 釘に引っかかったぼろきれのように、人々の手で引き裂かれて、


 神が人間の卑小さに抗議を行っている砂漠が

 追放された者たちを追放し、追いたてられた者たちを追いたてようとも、

 たとえ世のすべてのものと同じように、いやしく卑劣な

 墓が死者を外に放り出そうとも、


 私は断じて負けない! 繰りごとなど言わず、

 泰然として、胸に悲しみを抱き、あの羊のような群集を軽蔑しながら、

 亡命の立場を一途に守り、おまえを胸に抱こう。

 祖国よ、ああ、私のぬかずく祭壇よ! 自由よ、私の捧げる旗よ!


 高潔な同志たちよ、私はきみたちと同じ理想を抱いている。

 追放された者たちよ、共和国こそ私たちを結ぶもの。

 私は誇りに思う、世の人が辱めるすべてのものを。

 私は侮蔑する、世の人が祝福するすべてのものを!


 私は喪の服に身を包んで、

 災いあれ! と言う声となり、否! という口になろう。

 おまえの下男どもは、おまえにルーヴル宮*7を見せるだろうが、

 私のほうは、カエサルよ、おまえが入る狂人用の監禁室を見せてやろう。


 かずかずの裏切りや、おもねり従う者たちを目の前に見ても、

 私は腕組みをし、憤りながらも、泰然自若としてたたずんでいるだろう。

 倒れさった者を愛してうち沈む誠実な心よ、

 どうぞ私の力と喜びと青銅の堅固な柱になってほしい!


 そうだ、たとえほかの人々が屈しようと、亡命の地にがんばろうと、あの男がいるあいだは、

 ああ、フランスよ! 我々が愛し、いつもその不幸を嘆いているフランスよ、

 私は二度と踏むまい、おまえのやさしく悲しい国土を。

 私の祖先の墓、私の愛する者を育てた土地よ!


 私は二度と見るまい、我々を引きつけるおまえの岸辺を。

 フランスよ! 私のなすべき義務のほかは、ああ! すべてを忘れよう。

 試練を受ける人々のあいだに、私は自分のテントを張ろう。

 追放されたままがんばろう、意気軒昂として立っていることを望んで。


 たとえ果てしなくつづこうとも、私はつらい亡命を受けいれる、

 意志強固だと信じていた友が屈服してしまったかどうか、

 また、亡命地にとどまるべき者の多くが帰国してしまったかどうか、

 そんなことは知ろうとも、考えようともせずに。


 あと千人しか残らなくなっても、よし、私は踏みとどまろう!

 あと百人しか残らなくなっても、私はなおスラ*8に刃向かおう。

 十人残ったら、私は十番目の者となろう。

 そして、たったひとりしか残らなくなったら、そのひとりこそはこの私だ!


ジャージー島にて、1952年12月2日


【『ユゴー詩集』辻昶・稲垣直樹訳(潮出版社)】

*1:原文は Ultima verba というラテン語。このラテン語には、『懲罰詩集』を締めくくる「結語」という意味と同時に、「最期(いまわ)の言葉、遺言」という意味もある。

*2ナポレオン3世を指す。

*3:「マタイによる福音書」第27章3-10によれば、ユダはイエスを売りわたして得た報酬を聖所に投げ捨てた。それを拾った聖職者たちはその金で陶器師の畑を買ったということである。いままた、この出来事の二番煎じで、聖職者たちはナポレオン3世に協力することで不当な利益を得ているという意味。こうした聖書の記述の解釈には、あるいはユゴーの思いこみがあるかもしれない。

*4:シブールが、神に仕える身でありながら、「邪悪な」ナポレオン3世に積極的に協力したことを指す。

*5:ここでは、ナポレオン3世のこと。

*6:マンドランは、18世紀フランスの有名な盗賊。シャルルマーニュは9世紀の西ローマ皇帝。ナポレオン3世はもともとは、「大泥棒」なのだが、それが悪魔の力によってシャルルマーニュのような権力者に姿を変えたという意味。

*7:フランスの数多くの王たちが住んだ壮麗な宮殿。現在では、この一部はルーヴル美術館になっている。

*8古代ローマの将軍、政治家(前138〜前78)。独裁官となり、反動政策を進めた。ここではナポレオン3世を指す。

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