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2003-10-12

『本のお口よごしですが』出久根達郎


 嗜好(しこう)にまつわる話は何とも言い難い楽しさがある。好事家(こうずか)について回る「狂」の度合いが大きいほど楽しい。抑えることのできない物欲が、人間の愚かさを滑稽に表現しているためであろうか。


 出久根達郎のエッセイにこういうのがある。


 古書収集を趣味とする二人の大学生がいた。連れ立って古本屋を覗いたところ、森鴎外の『雁』の初版を見つけた。それも、二人が同時に発見したという。『雁』の初版には赤と青の表紙があり、この2種類が並んでいたそうだ。しかも、「箱つきの極美品で、売値は相場のなんと10分の1」。目の色を変えて奪い合う二人を店主が仲裁。「手放す事態が生じたら、必ず相手に譲るというとりきめを交わして」一件落着となる。


 Bさんの結婚式にAさんが本を贈った。それは学生時代に奪い合った本の片割れだった。Aさんに子供が誕生した。BさんからAさんに贈られたのは、赤と青の対(つい)となった『雁』だった。


 こうして、慶事があるごとに、2冊の本は二人の間を行ったり来たりしているというのだ。


 執着心があるだけ心がこもっている。友情が物欲を寄り切った。青い本も、赤い本も、きっと微笑んでいることだろう。


本のお口よごしですが

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