古本屋の覚え書き このページをアンテナに追加 RSSフィード


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2005-10-17

『焼身』宮内勝典


 ベトナム政府と、圧倒的な軍事力で蹂躙してくるアメリカに抗議するため、ガソリンをかぶってわが身を焼いたのだという。ふるえがきた。誇らしかった。噴きあがる炎が、まったく異なる精神のかたちに見えた。蓮の花のようなアジアの思想が、過激なまでに開花しているのだと思った。


 若き日にアメリカで不法滞在を続けていた著者は、散乱する新聞の写真に釘づけとなる。ベトナム人僧侶が燃え盛る炎の中で静かに端座していた。


 その人が火に包まれ、脳がぐらぐら煮えたぎってきたとき、その人格とは何だったのか。


 世界を旅し続けてきた著者は、57歳になってベトナムへ飛ぶ。炎の中の真実を確かめるために。


 不思議な作品である。所々で文章がキラリと光るのだが、私の好きな文体ではない。ベトナム現地で目的に向かいながらも、常に過去の自分を振り返る。前に進みながら、顔を後ろへ向けているような“ねじれ”がある。


 咲いては散り、また咲きこぼれてくる熱帯の花のように人は人の股から生まれ、とめどなく地に湧きだしてくる。


 眼に映るベトナムの風物が肉感的に描かれ、自分の中に潜む性欲をさらけ出す。それらが結果的に、焼身自殺をした僧侶との対比となってしまい、著者や読者との懸隔が広がる。それはあたかも、仏教で説かれる欲界と無色界のようだ。


 著者は幸運な出会いを重ねて、次々と僧侶の情報を入手してゆく。そしてラストでは、作家の武器である想像力を駆使して、炎の中で人生にピリオドを打ったティック・クアン・ドゥックに迫ろうと試みる。この件(くだり)は劇的だ。


 ただ、どうしてものめり込めないのは、死者と生者が固定的な関係となり、著者の知的興味の対象で終わっているような印象を受けてしまうためだ。つまり、事実が詳(つまび)らかになるごとに、著者の生き方が変化するドラマが全くないのだ。これは多分、還暦に近い年齢とも関係があるのだろう。


 しかも、聖僧を取り巻く連中が、その死をも政治的に利用していた。僧侶を包む炎は、まるで、この世が火宅であることを照らし出す光のようだ。

焼身


D

2005-10-15

造反議員への処分


 郵政民営化法案に反対した自民党造反議員への処分が、間もなく行われようとしている。先の衆院選で「改革」を支持した多くの国民がじっと見つめていることを、自民党は自覚すべきだ。


 信賞必罰が政道の本分だ。処分を甘くすれば、先の衆院解散の大義名分が立たない。厳しい姿勢で臨めば、必ずや国民は今まで以上に自民党を高く評価することだろう。


 そもそも、政党政治とは理念や政策を共有する者同士が集まって、政策実現を目指すところに王道がある。小泉首相が「改革の本丸」と位置づけた郵政民営化法案に反対したのだから、本来であれば造反組は自ら潔く離党すべきだったのだ。解散となった途端、未練がましい発言を繰り返す面々は、政治理念すら失い、寄らば大樹の陰といった浅ましい姿を露呈した。


 古い自民党的な曖昧さが復活すれば、少しばかり進んだ時計は、再び逆戻りしてしまうだろう。


 小泉執行部は、「泣いて馬稷(ばしょく)を斬る」べきだ。

2005-10-13

2005-10-11

『SAS戦闘員 最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録』アンディ・マクナブ/伏見威蕃訳


 好作品。途中、間を空けて読んでしまったために、その多くを失念(笑)。


 ロクでもない少年が、特殊部隊の一員となるまでの自伝。とにかく、翻訳が素晴らしく、文体に違和感を覚えることがない。


 下巻の途中に、やや中だるみはあるものの、全体の印象を損なうほどではない。


 吃驚(びっくり)したのは、丸山健二とそっくりの文体であるところ。男らしくて、生き生きとした描写がグッド。


 自伝としても読めるし、人材育成論・組織論としても読むことも可能だ。


SAS戦闘員―最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録〈上〉 SAS戦闘員―最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録〈下〉

2005-10-10

アンディ・マクナブ


 ある程度の素質さえあれば、劣悪な兵隊というものはいない。いるのは劣悪な教官だけだ。


【『SAS戦闘員』アンディ・マクナブ/伏見威蕃訳(早川書房、1997年)】


SAS戦闘員―最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録〈上〉 SAS戦闘員―最強の対テロ・特殊部隊の極秘記録〈下〉

2005-10-07

北御門二郎


【きたみかど じろう】 熊本県生まれ 1913-02-16〜2004-07-17


 翻訳に大切なことは、原書に感動し、読者とその喜びを分かち合いたいと思うこと。だから、トルストイが涙して書いたところは、私も泣いて訳します。


【読売新聞夕刊 2005-10-07】

2005-10-02

杉村太蔵のインパクト


 自民党が衆院選に勝ち過ぎた象徴として、メディアに持てはやされている。当選直後のコメントが意図的に何度も繰り返して報じられ、その度に私は腹を抱えて笑っている。


 賛否両論で日本を沸かせるたあ、この若造、只者じゃないね(笑)。取り敢えず、批判は措(お)いておこう。いや、一つだけ挙げておく。


 この会見には、政治的意図があったという指摘がある。日歯連からの1億円ヤミ献金事件で、青木幹雄が証人尋問されていたことから、メディアの目を逸(そ)らそうとしたものだと。するってえと、太蔵君は期せずして、効果的な客寄せパンダとなったわけだ。


 この会見で、テレビ朝日の平石直之が、驕り高ぶった質問を執拗に行い、「Irregular Expression」で突っ込まれている。モッコリ野郎は引っ込んでろ。


 神妙な顔で望んだ記者会見だったが、そこここで笑いを取るのが見事。何かしら天与の才があるに違いない。

 当選直後とは打って変わった態度に、サラリーマンの悲哀を感じた方も多いのではないか。初当選すれば、誰もが感じていたことを、太蔵君は率直に語った。彼はカメラの向こうにいる、お茶の間の国民に対してではなく、眼の前のカメラマンに語っていたのだろう。浮かれた若者の姿は、誰よりも雄弁に、恵まれた国会議員の待遇を教えてくれた。


 そして、彼は組織への服従を強いられ、再びカメラの前に登場した。自由を奪われ、ロボットみたいな顔つきで。圧力に屈した人間が、どこまで豹変するかを示したものだった。


 経済通に言わせると、マスコミ効果としては10億円以上の宣伝価値があり、知名度抜群になったことで小選挙区による当選も十分見込めるそうだ。


 予期せぬイレギュラーは、攻撃側にはチャンスとなり、守る側には失点につながる。要は、太蔵君を今後どう使うかが自民党に問われているのだ。私が自民党総裁であれば、武部幹事長とコンビにして、ボケとツッコミをやらせるのだが(笑)。何となく、品川庄司の品川に顔が似ているが、太蔵君の方がはるかに面白い。


 いずれにしても、北海道旭川市出身ということは、私と同郷である。応援しないわけにいかない(笑)。