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2007-12-08

『サハラに死す 上温湯隆の一生』長尾三郎編


 だが、サハラよ!

 俺は不死鳥のように、お前に何度でも、命ある限り挑む。

 正直に、お前に語ろう。恐怖におおわれた闇、お前の体に抱かれていた夜に、何度“死”という言葉が脳裏で舞ったか。果てしなき砂の中、道もなく、人も住まぬ所で、わが友とするラクダが、別の世界へ去ったら……考えるだけでも恐ろしい。

 しかし、それが貴様の魅力だ! だからこそ、俺は貴様の虜になった。敵愾心に燃えた心に、ふと恐怖の黒い雲が現れても、俺はそれを乗り越えて、この足は地平線の彼方へと一歩ずつ近づく。

『冒険とは、可能性への信仰である』

 こうつぶやき、俺は、汝を征服する、必ず貴様を征服する! それが貴様に対する、俺の全存在を賭けた愛と友情だ。


 きらめく星は流れ、やさしき風が流れ、素晴らしき青春も流れ去る、流れ去るものは美しい、だから、俺も流れよう。


 20歳そこそこの青年が記した美しくも清冽な文章。タイトルは知っていたが、読むのが遅過ぎた。作者と同じ年代で読んでいれば、頭を殴られるほどの衝撃を受けたに違いない。


 7000kmのサハラ砂漠の単独横断に挑む理由は何だったのか――サハラの砂が上温湯(かみおんゆ)青年を磁石のように引きつけたとしか言いようがない。


 一度目のチャレンジでは、3000km地点でラクダが死亡。撤退を余儀なくされた。砂漠は残酷な世界である。愛するラクダが死んだことに気づいた時は、既にハゲタカが目と顔を食べた後だった。


 二度目のアタックの途上で、上温湯青年は命を落とした。ご家族には申しわけないが、本人にとっては本望だったことだろう。冒険家はベッドの上では死なない。冒険をし続ける限り、必ずその途上で死ぬことが運命づけられているのだ。


 ラクダのサーハビーと共に、彼はサハラ砂漠の夜を照らす星になった。特に何もすることがないのに生き永らえている老人を嘲笑うかのように、彼は22年の人生を流星の如く駆け抜けた。合掌。


サハラに死す――上温湯隆の一生 (ヤマケイ文庫)

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