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2008-05-01

『がんばれば、幸せになれるよ 小児ガンと闘った9歳の息子が遺した言葉』山崎敏子


 行間から祈る声が聞こえてくる――。


 昨年の「24時間テレビ」でドラマ化された作品。ドラマの方は見るに堪(た)えない代物だったが、著作は「2冊買って、1冊誰かにあげあたくなる」ほど素晴らしい内容だ。


 山崎直也君は9歳でこの世を去った。ユーイング肉腫という悪性の癌に侵(おか)されたのが5歳の時。短い人生の約半分を闘病に捧げた。


 平凡な両親の元に生まれた直也君は、“本物の天使”といってよい。どんな痛みにも弱音を吐かず、再発する度に勇んで手術に臨んだ。


 それにしても、直也君の言葉は凄い。まるで、「年老いた賢人」のようだ。


「おかあさん、もしナオが死んでも暗くなっちゃダメだよ。明るく元気に生きなきゃダメだよ。わかった?」


 直也自身、少しでも体調が悪化すると、

「山崎直也、がんばれ!」

 そう口に出して、自分で自分を励ましていました。16日の呼吸困難の発作のさなかにも、「落ち着くんだ」といっていたような気がします。

 あの日、息苦しさが少し治まってから、直也はこうもいいました。

「おかあさん、さっきナオがあのまま苦しんで死んだら、おかしくなっていたでしょ。だからナオ、がんばったんだよ。それでも苦しかったけど。おかあさんがナオのためにしてくれたこと、ナオはちゃんとわかっていたよ。『先生早く!』って叫んでいたよね。でも安心して。ナオはああいう死に方はしないから。ナオはおじいさんになるまで生きたいんだ。おじいさんになるまで生きるんだ。がんばれば、最後は必ず幸せになれるんだ。苦しいことがあったけど、最後は必ずだいじょうぶ」


 夜10時過ぎ、直也は突然落ち着かない様子で、体を前に泳がせるようなしぐさをしました。

「前へ行くんだ。前へ進むんだ。みんなで前に行こう!」

 びっくりするほど大きな力強い声です。そして、まるで、迫り来る死と闘っているかのように固く歯を食いしばっています。ギーギーという歯ぎしりの音が聞こえるほどです。やせ衰えて、体を動かす元気もなくなっていた直也のどこにこれだけの力があったのかと驚くほど、力強く体を前進させます。


 ある日、私が病院に行くと、主任看護婦さんが、「おかあさん、私、今日、ナオちゃんには感動したというか、本当にすごいなと思ったんだけど」と駆け寄ってきました。直也は、

「この痛みを主任さんにもわかってもらいたいな。わかったら、またナオに返してくれればいいから」

 といったそうです。「えっ、痛みをまたナオちゃんに返していいの?」とびっくりして聞くと、

「いいよ」

 と答えたそうです。

「代われるものなら代わってあげたい」。よく私もそういっていました。でも直也はそのたびに力を込めて「ダメだよ」とかぶりを振り、

「ナオでいいんだよ。ナオじゃなきゃ耐えられない。おかあさんじゃ無理だよ」

 きっぱりとそういうのです。


 何だか自分が、ダラダラと走るマラソンランナーみたいな気になってくる。直也君は、人生を全力疾走で駆け抜けた短距離ランナーだった。「生きて、生きて、生きまくるぞ!」と言った通りに生きた。


 山下彩花ちゃんといい、直也君といい、命の灯火(ともしび)で周囲を照らす姿に圧倒される。

がんばれば、幸せになれるよ―小児がんと闘った9歳の息子が遺した言葉 がんばれば、幸せになれるよ―小児がんと闘った9歳の息子が遺した言葉 (小学館文庫 や 6-1)

(※左が単行本、右が文庫本)