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2008-05-22

『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』ジェームズ・R・チャイルズ


 50あまりの事故を取り上げ、その原因を検証。いずれも、小さなミスと油断が取り返しのつかない大事故、大惨事の導火線になっている。専門用語が多いが、達意の文章で読ませる。少しばかり難を言えば、過去の歴史を引っ張り出した際に時系列がわかりにくくなっている。一つのヒューマンエラーで事故は起こらない。必ず、複合する要因がある。重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する(ハインリッヒの法則)。あらゆるところで、コンピューターや機械が使用されている現在、被害は桁違いになることを銘記する必要がある。


 安全係数は年ごとに小さくなり、いっぽう、われわれの利用するエネルギーの出力は増大している。


 奇怪な脅威はどこからともなくあらわれ、一撃をくらわすと、姿を消すかのように思われるのだ。だが、最近の研究によれば、マシン事故による惨事は、ほとんどの場合、複数の失敗とミスが重なってようやく発生するということが明らかになった。たったひとつの災難、たったひとつの原因だけでは、なかなか大惨事にはいたらない。大惨事は、貧弱なメンテナンス、意思疎通の悪さ、手抜きといった要因が組みあわされることによって発生する。そうしたゆがみは徐々に形成されていく。


 大規模な工業技術事故という世界は、深刻なものであり、戦場に匹敵するような混沌と破壊をもたらす可能性がある。生き残った人びとが、周囲に生まれた新しい世界のことを理解しようとあがいているあいだにも、貴重な時間が刻々とすぎていく。それはクラッシュしたコンピューターを再起動するときにかかる時間と似ている。そうした出来事は、あまりにも珍奇だったり、あまりにも大きな精神的外傷を与えるものだったりするので、われわれの原始的本能である「闘争か逃走か」という行動をとらせるような衝撃をもたらさないことがある。人びとはパニックになってはいけないときにパニックになる。逃げ出さなければ助からないときに、じっとすわっている。不時着した英国航空機の乗客のひとりがあとから語ったところによると、同乗者たちは、衝撃の激しさにびっくりしたのと、自分たちがまだ生きているのに驚いたあまり、全員が静かに着席したまま、通路を流れてくる燃料の火炎をながめていたという。


 最近の研究によれば、タイタニックは、船殻(せんこく)に打ってあるリベットの金属が高品質であれば、氷山と接触したぐらいでは沈没しなかっただろうといわれている。


 この事故に関する著作の決定版ともいえるダイアン・ボーンの『チャンレジャー打ち上げの決断』によると、NASAとモートン・シオコール社の双方とも、お役所的な目標達成を第一とするあまり、大きくなりつつある問題があっても都合のいいように解釈し、あげくには黙認してしまう体質におちいっていて、そのため事態を深刻化させたのだという。NASAは、この問題を宇宙飛行士たちに直接伝えて意見を聞こうとせず、また、危険を真剣に受けとめて、適切な措置をとるために計画を一時中断することもせずに、耐熱パテを詰めたり、Oリングの試験手順をいじるといった小手先の対策でOリング危機を封じ込めようとした。それどころか、シオコール社がこうした技術上の判断よりもずっと説得力のある提案を出してこないかぎり、打ち上げを延期して天気が暖かくなるのを待つ意思はなかった。ボーンのことばによれば、それは「逸脱の常態化」だった。

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

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