古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

三郷幼児放置死事件 男児なお「ママ悪くない」

「ママは悪くない。僕がご飯を自分だけ食べて、弟や妹にあげなかったから。僕が本当に全部悪い」


 先月20日さいたま地裁。埼玉県三郷市の豪邸で3月、2歳の男児が餓死しているのが見つかり、保護責任者遺棄致死傷罪で起訴された島村恵美被告(30)の初公判で、検察官が双子の弟妹とともに11日間置き去りにされた長男(6つ)の調書を読み上げた。


 小学校に上がる直前に出て行った母なのに、そこに恨みの言葉はなかった。能面のようだった島村被告が肩を震わせて泣いた。


 豪邸の中は「ごみ屋敷」だった。室内に残飯やおむつが散乱。男児の双子の妹も脱水症状で入院した。


 検察官「自分だけ風呂に入り、かわいそうと思わなかったのか。子供がどうなるか想像しなかったのか」
 島村被告「しなかった」


 島村被告は中学生の時に両親が離婚、不在がちな母親に代わり10歳近く離れた二人の弟の面倒を見た。22歳で結婚。不妊治療の末に長男を授かり、親族は喜んだ。だが間もなく離婚。2005年12月、一緒に暮らすようになった別の男性との間に男と女の双子を産んだ。親族との関係は冷え込み、長男の運動会には誰も来なかった。


 双子の育児は大変だった。一人が泣きやめばもう一人が泣く。単身赴任した男性の帰宅は年に数回。祖母も母親も資金援助だけで育児を手伝ってはくれなかった。会社経営者の祖母には「ちゃんと子育てしろ」と厳しくされ、母親からは「仕事で朝が早い」と突き放された。自分の時間が欲しかった。


 弁護人「祖母から『子供を見ているから遊んできなよ』と言われたことは」
 島村被告「なかった」


 1月ごろから子供を放置して居酒屋に入り浸り、また別の男性と交際。3月3日、長男に「ママはもう居なくなるから」と言い残し、自宅近くのマンションでこの男性と暮らし始めた。長男は寂しさと不安から1日30回も電話をかけてくることがあった。


 9日後、長男の「弟が起きない」との電話で自宅に戻った。玄関で声を掛けたが、動かない次男を見て不安になり、引き返した。その2日後、今度は「弟が血を吐いている」との電話。「体を揺さぶって起こせ。人工呼吸しろ」と長男に伝えたが、手遅れだった。「ママも悪いけど、おまえも悪い。自分一人でご飯を食ってんじゃない」。激高し長男を平手でたたいた。


「ママのシチューとカレーが大好き。ママが帰ってこなくて寂しかった」。保護された長男はそう話したという。


「長男は今もあなたをかばっている。どう思うんですか」。法廷で検察官に問いただされた島村被告は、泣くしかなかった。


 長男と長女は今、施設で暮らしている。


 検察側は懲役8年を求刑。判決は3日に言い渡される。


東京新聞 2008-09-02


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