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2008-10-09

霊界は「もちろんある」/『カミとヒトの解剖学』養老孟司

 生と死、宗教にまつわるテキストが多い。文学論も少々。やはり脳科学は、唯物論よりも腰が強い、というのが率直な感想だ。「脳の機能」で割り切って考えているところが、養老孟司の痛快さでもあり危うさでもある。


 先生は霊界があると思いますか。そう尋ねる人が多い。そういう時には、「もちろんある」と胸を張って答える。そもそも「ない」ものについて語ることは不可能である。それなら、どこにありますか。頭の中にある。そう答えると、それは「ない」ということだと思うらしい。では聞くが、直線はどこにあるか。家の柱。では虫メガネを持ってきて柱を丁寧に観察する。とうてい直線とは言えない。デコボコしている。定規でまっすぐ線を引く。これは直線か。虫メガネで見たら、とてもそうは言えない。


【『カミとヒトの解剖学』養老孟司法蔵館、1992年/ちくま学芸文庫、2002年)】


 霊界なんぞあるわけがない。あるとすれば、今頃は蝉の霊でおおわらわになっていることだろう。「ゴキブリホイホイ」を製造しているアース製薬がゴキブリの霊に祟(たた)られたという話も聞いたことがない。


 それを「ある」と答えるところに、養老孟司のユニークさと性格の悪さが混在している。程度の低い迷信を、高度な問題に置き換えてから叩き落とす戦法だ。多分この頃、丹波哲郎の『大霊界』が流行っていたのだろう。


 この人の悪い癖で、時々文章がわかりにくくなるのだが、それを補ってあまりある刺激に満ちている。そして信仰を揶揄しながらも、決して宗教を否定しているわけではないのだ。唯脳論の立場からすれば、宗教もまた脳内から生まれたことになるわけだから、それも当然か。ベストセラーとなった『バカの壁』より、数十倍面白い。

カミとヒトの解剖学 カミとヒトの解剖学 (ちくま学芸文庫)

(※左が単行本、右が文庫本)

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