古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

焼そばに見るソースvs塩の行方


 焼そばの季節が到来した。短パン姿で震えるようになり、「残暑でざんしょ」という駄洒落を二、三度飛ばした後に、焼きそばの季節は音もなく訪れる。ま、年中食べてはいるのだが、やはり寒さというファクターを欠いて、焼きそばの力を十全に発揮することは困難だ。


「塩だれ味の焼そば」を食した。カップに入ったやつだ。真の美食家にとっては、店舗の場所や外装及び内装なんぞはどうでもよく、たとえスーパーで安売りしていたとしても、味を追求せずにはいられないのだ。ってなわけで、「明星 一平ちゃん夜店の焼そば塩だれ味」について書いておこう。


 焼そばといえば普通はソース味である。ソースというのは非常に便利で、本来の味を打ち消す圧倒的なパワーを持っている。つまり、子供じみているってわけだな。例えば、東京下町のもんじゃ、大阪のお好み焼き、広島焼きなど、ソース味の食べ物はいつでも貧しい庶民の味方だった。金持ちはソースをドバドバかけるような真似をしない。


 塩分の摂り過ぎが問題視されるようになったのは、私が中学生の頃からだと記憶している。保健の授業で「このグラフでは日本人の死因で脳卒中が多くなっているが、理由は何か?」という先生の質問に対し、タカグロ一人が元気一杯返事をし、「お新香と味噌汁を食しているからです」と答えたのだ。思わず私は、「今まで“オハグロ”と呼んですまなかった」と心の中で謝罪したのを昨日のことのように覚えている。


 大体、塩分の摂り過ぎが問題じゃなくって、身体を動かさなくなったことこそが本当の問題なのだ。昔ほど労働者は額に汗して働くこともなくなった。炭鉱で働く男達は、塩を舐め舐め、顔を真っ黒にしながら重労働をこなしていた。


 その一方で、塩には透明感があり、素材の味を引き立てることも手伝って、ラーメンの世界では「あっさり塩味系」が持てはやされている。健康ブームも手伝って、今時は様々な国や地域の色々な塩が販売されている。


 で、塩だれ焼そばだ。今朝食べたのだが、中々美味かったよ。ふりかけの量がもう少し多いといいのだが。タレの色が薄いので、よく掻き回すのがコツだ。


 そして先ほど、またぞろ焼そばを食べた。これは「横浜中華焼そば 業務用 5食入り」(千神麺工業有限会社)。スーパーの安売りワゴンにあったものだが、圧倒されるほど美味かった。塩だれ焼そばの話は、もう忘れてもらって構わん。それほど美味しい。キャベツを加え、常備してある青海苔をドバッとかけただけだが絶品だった。明日、かみさんに食べさせる予定。潤んだ瞳で、私のことを天才シェフと仰ぐことになるのは確実だ。


明星 一平ちゃん夜店の焼そば塩だれ味 133g

宮田親平、小田嶋隆


 2冊読了。


がんというミステリー』宮田親平/癌の構造を知りたくて読んだのだが、癌治療に貢献した人々の内容が殆どだった。前半は面白いのだが、後半に至り失速。新書というのはテーマが具体的で、その辺のトーシロー(すなわち私のこと)にも理解できるようコンパクトにまとめる必要がある。そして、書き手の意欲がローソクの炎のように揺らいだ時、「大した印税も入ってこないしなあ……」と寒々しい限りの現実に気づいた挙げ句、やっつけ仕事になりがちなのだろうと勝手に推測している。初めて知ったのだが、「ニコチンに発癌性物質はない」とのこと。これを強調しておきたい。アンダーラインを引くよーに。え? タール? タールの話はまた今度にしよう。


パソコンゲーマーは眠らない小田嶋隆/1992年発行。3分の1くらいがゲームソフトのレビューとなっている。私は中学3年の時、大流行したスペース・インベーダーに翻弄された経験があり、それ以降まったくゲームには手を出していない。それでも面白く読めるのだから、オダジマンはやはり凄い。天才的な翻訳能力の持ち主と言ってよし。自分の洞察力と正面から向き合って失敗したのが丸山健二だとすれば、小田嶋隆は洞察力を鼻クソみたいに指で弾き飛ばして面白がっている。