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2008-10-22

キャプテン・クランチという名のハッカー/『「ふへ」の国から ことばの解体新書』小田嶋隆


 小田嶋隆の得意技に「企業批判」がある。いずれの場合も、大手企業を名指しでコテンパンにこき下ろしている。多分、ジャーナリスティックな文章を書こうと思えば、いつでも書けるのだろう。しかし、声高な主張は耳障りだ。そして、正しければ正しいほど、人は自分の姿を見失う。だからこそ、オダジマンは唾を吐き捨て、小便を引っかける。そして時々、ゲロも(笑)。


 アメリカに、「キャプテン・クランチ」と呼ばれている男がいる。

 こいつは、ある日、子供向けの駄菓子(クランチ)のおまけに付いている笛の音が、電話の交換機を動作不良に落とし入れることを発見し、以来、20年以上にわたって数々の「電話タダ掛け法」を案出しては世間に公表し続けている、まことに物騒元気迷惑天晴(あっぱれ)な男だ。

 このB級アニメのヒーローみたいな名前を持った男の話を軸に、「電話」について考えてみたい。

 ところで、なぜ、おもちゃの笛が交換機を狂わせるのかというと、電話が、基本的には、トーン(音の高さ/周波数)で制御されているものだからだ。

 たとえば公衆電話では、電話本体のプッシュボタンを押さずとも、受話器を取って「ピッポッパ」と一定の高さの音さえ送り込めば、ダイヤルをすることができる。

 かように、電話の仕組みは、19世紀にベル博士が発明して以来、ほとんど変わっていない、至極単純素朴なものだ。電線が2本、プラスとマイナス、そこに電気が流れている……それだけだ。

 ところが、我がNTTは、どこで何を勘違いしたのか、「ハイテクの王者」みたいな顔をしていらっしゃる。

「街にアクセス」

 お笑いだ。

 NTTなんてものは、言ってみれば、国家御用達の配管工だ。彼らは、国中の水道の蛇口の利権を押さえていて、でもって、言い値で水を売っている。

 こういう御用商人の生きザマ(あるいは死にザマ)を「民活」だと思っている人がまだ生き残っているのだとしたら、ぜひ、警告を与えておきたい。

 あの会社は、コミュニケーションという、人間にとってもっとも基本的な行為を独占して商売にしている、寄生虫なのだ。(中略)

 もちろん、常識で考えれば、キャプテン・クランチは、犯罪者だ。

 が、彼自身は自分のことをそう考えてはいない。他の多くのフォーン・クリーク(電話マニア)も同様で、彼らは自分たちを「国家および企業による情報の独占に抵抗する戦士」だ、ぐらいに考えている。

 つまり、彼らに言わせれば、情報が資本を形成する以上、コミュニケーションの手段に対して課金することは、一種の言論弾圧であり、ひいては情報という現代社会にとって不可欠なものを媒介とした独裁につながるわけなのである。

 この、彼らの議論が正当であるのかどうかはともかくとして、ひるがえって日本の現状を見るに、こんなことを言う奴はひとりもいない。

 私にはそれが残念でならない。

 たとえば、長距離電話ひとつをとってみても、NTTが徴収している料金はアメリカのそれに比べて格段に(めまいがするほどに)高い。それなのに、この国には、文句を言う奴が出てこない。

 きっと、我らが無邪気な国民は、電話料金というものを、電車の運賃と似たような感覚でとらえているのだろう。

 運賃なら、「遠いから高い」というものわからないではない。実際に、物理的な重量を持ったものを運ぶ際には、距離に比例して燃料も経費も余分にかかるからだ。

 しかし、考えてみてほしい。

 電話の場合、運ぶのは電気である。線さえ引いてしまえば、どこに運ぼうが、たいした違いはないのである。

 しかも、その「線」は、NTTが電電公社だった頃に、我々の税金を使って引いたものなのだ。

 にも関(ママ)わらず、NTTは異常な料金を取り立て続け、競争相手もいないくせに、

「民間企業です」

 ってな顔をしてやがる。


【『「ふへ」の国から ことばの解体新書』小田嶋隆徳間書店)】

 日本国民は収奪される。「寄らば大樹の陰」「長い物には巻かれろ」「触らぬ神に祟りなし」という思考法が抜けないうちは、収奪されている事実にすら気づかないことだろう。


「情報化社会」は「情報管理下社会」でもある。ジャーナリズムは権力の支配下に置かれ(記者クラブ制度ね)、社会の全体像や本質が見えにくい時代となった。紙吹雪みたいな細切れの情報が人々を翻弄する。


 キャプテン・クランチの行動と小田嶋隆の文章に共通するのは、我々の眼(まなこ)を開く力があることだ。

「ふへ」の国から ことばの解体新書

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