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2008-10-29

アメリカ食肉業界の恐るべき実態/『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー


 アメリカの食品業界の杜撰さは日本の比ではない。圧倒的なロビー活動で、汚染された肉も流通経路に乗っかってしまう。


 それにしても、大衆消費社会の成れの果ては、ここまで酷いものだろうか。生産者と消費者の距離が離れれば離れるほど、顔が見えなくなり、責任感は失われ、辛うじて包装状態のみが互いの信頼関係を形成する。


 医学研究者たちが、近代的な食品加工工程と、危険な感染症の拡大との関連性について、非常に重要な知識を得ている一方で、大手アグリビジネス企業は、食品安全手順へのさらなる規制に断固として反対している。何年にもわたって、精肉大手各社は、ほとんどの消費財メーカーに機械的に課せられている義務を、なんとか回避しようとしてきた。現在アメリカ政府は、欠陥の見つかったソフトボール・バットや、スニーカー、ぬいぐるみ、気泡ゴム(フォームラバー)製の牛のおもちゃについて、全国的な回収を命じることができる。ところが精肉会社に対しては、生命を脅かす危険のある汚染挽肉を、ファストフードの調理場やスーパーマーケットの商品棚から撤去するように命じることができないのだ。これら大手精肉会社の例外的な影響力は、議会における共和党議員との密接なつながりと、彼らへの巨額の献金によって、維持されている。このような事態がまかり通っているのは、毎年どれほど多くの国民が食中毒に苦しみ、これらの感染症がどれほど広がっているのかが、ほとんど理解されていないからだ。

 新しく確認された食品由来病原体は、一見健康そうな家畜によって運ばれ、撒き散らされる傾向にある。これらの微生物に汚染された食物は、食肉処理あるいはその後のプロセスにおいて、感染した家畜の胃の中身や糞に接触した可能性が高い。1996年に農務省が公表した全国調査によると、加工工場で採取された挽肉サンプルのうち、7.5パーセントがサルモネラ菌に、11.7パーセントがリステリア・モノサイトゲネスに、30パーセントが黄色ブドウ球菌に、53.3パーセントがウェルシュ菌に汚染されていた。これらの病原体はすべて病気を引き起こす可能性があり、特にリステリアによる食中毒患者は、通常、入院治療を必要とし、しかも5人にひとりが死亡している。同じ農務省の調査では、挽肉の78.6パーセントが、おもに糞便によって撒き散らされる細菌を含んでいた。


【『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー草思社)】


 骨太のノンフィクションである。個人的にアメリカは最も嫌いな国の筆頭格だが、ジャーナリズムはこれほど健全性を示している。まさしく旗を振っているような雄々しさがある。声高な主張ではなく、淡々と事実を突きつけ、消費者自身に判断を委ねているのだ。


 欧米の信じ難い無責任は、基本的に人種差別思想が根っこにあるためだと思われる。そもそもキリスト教自体に「ノアの箱舟」という選民思想がそびえている。狂牛病が発覚した際だって、イギリスは国内での売買を禁じ、近隣諸国へ輸出し続けた。毒だとわかっていながら、平然とこうした真似ができるのだから恐ろしい。


 グローバリゼーションとは、かような鉄面皮と渡り合う世界であることを、我々日本人は知る必要がある。

文庫 ファストフードが世界を食いつくす (草思社文庫)

下條信輔、ディーン・ラディン、岡田尊司、キース・デブリン+ゲーリー・ローデン、養老孟司、小田嶋隆


 4冊挫折、2冊読了。


〈意識〉とは何だろうか 脳の来歴、知覚の錯誤』下條信輔/トール・ノーレットランダーシュの『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』を読んだ後では、子供だましに感じる。文章も説明調であまりよくない。


量子の宇宙でからみあう心たち 超能力研究最前線』ディーン・ラディン/真面目な超能力本。「たとえば、実際にあった二卵性双生児の少年が別々に育てられた事例では、養子にもらわれた先でそれぞれジムと名づけられ、そのジムはふたりともベティという女性と結婚し、そして離婚して、リンダという女性と再婚した。さらにふたりの職業はともに消防士であり、ふたりとも裏庭の木の周りに白い円形のベンチを作っていた」と書いてあるところでやめた。明らかに特異な例を持ち出して、何かを正当化しようという魂胆が丸見えだ。私からすれば、超能力よりも、目が見えることや耳が聞こえることの方がはるかに不思議なのだ。


悲しみの子どもたち 罪と病を背負って』岡田尊司/文章はいいのだが、ことごとく陳腐な言い分となっている。著者は医療少年院に勤務する精神科医だが、現場に引きずられているような印象を受けた。固有性は知悉しているのだろうが、それを一般化する角度が浅い。2005年発行となっているが、明らかに勉強不足だと思う。


数学で犯罪を解決する』キース・デブリン+ゲーリー・ローデン/山形浩生の訳がまるでダメ。まえがきに「本物のキ××イ」などと書く神経を疑う。訳文にも時折、ウェブ上の掲示板を思わせる軽薄さが出ている。よくもまあ、こんな文章をダイヤモンド社が認めたもんだね。表紙も完璧な配色ミス。拳銃のデザインが死んでしまっている。山形浩生訳の作品は完全に読む気が失せた。こんな本であれば、ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライム・シリーズを読んだ方がずっとためになる。


唯脳論養老孟司/まあ、性格の悪いオヤジだこと。こねくり回す文章が読みにくくて仕方がなかった。嫌な独白調が目立つ。それでも一読の価値あり。養老孟司は本書と『カミとヒトの解剖学』を読めば十分だと思う。


罵詈罵詈 11人の説教強盗へ小田嶋隆/11人の著名人を罵った作品。多分、オダジマンは金に困っていたのだろうと予測している。俎上に上げられたのは、天野祐吉秋元康柴門ふみ弘兼憲史曽野綾子渡辺恒雄、林真利子、田原総一朗山本コウタロービートたけし田中康夫と豪華キャスト。及び腰を装いながらも、かなり踏み込んでいる。いつもより長い原稿を書いたのも、何か挑戦的な試みだったのかも知れぬ。困ったことが一つ。小田嶋隆の文章に慣れてくると、回りくどい文章が全く読めなくなってしまうのだ。

桃栗三年、ネット十年


 自分がインターネットを始めたのは1999年だと思い込んでいた。98年だったよ。雪山堂(せっせんどう)を立ち上げたのが99年だ。最初は「Great Readers」という読書サークルのサイトをつくった。当時の書評もここにアップしている。それにしても、あっと言う間の10年だった。我が家でWindowsの青い画面が立ち上がったあの瞬間を、今でもよく覚えている(接続は全部、後輩のクドウにやってもらった)。ネットで得た知己も少なくない。それこそ、メールのやり取りや、掲示板での意見交換を含めると、どれだけの人々と擦れ違ってきたことか。その一つひとつが私の人生に何がしかの影響を与えている。時々寄せられるメールに励まされながら、今後もダラダラと駄文を書いてゆくつもりだ。それにしても、10年という歳月は人を感慨深くさせる。