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2008-11-06

複眼思考で自分の歪みを正す/『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』佐藤優


 まずは以下の記事を読んでもらいたい。

 で、次なる問題として当然「自分というバイアス」が考えられる。どちらかと言えばこっちの方が問題である。正しい情報まで歪めることもあるからだ。早合点、曲解、すり替えなど。人間の知覚の大半は錯覚だそうだよ。


 特に私のように思い込みが激しく、偏見にまみれ、自説を固持し、先入観の虜となっていると大変だ。情報という情報は屈折し、流れる水は我が田へ引かれることとなる(←へりくだってみただけだ)。


 では、自分自身の内部にある「歪み」をどう正すのか――


 情報、調査・分析の世界に長期従事すると独特の歪みがでてくる。これが一種の文化になり、この分野のプロであるということは、表面上の職業が外交官であろうが、ジャーナリストであろうが、学者であろうが、プロの間では臭いでわかる。そして国際情報の世界では認知された者たちでフリーメーソンのような世界が形成されている。

 この世界には、利害が対立する者たちの間にも不思議な助け合いの習慣が存在する。問題は情報屋が自分の歪みに気付いているかどうかである。私自身も自分の姿が完全には見えていない。しかし、自分の職業的歪みには気付いているので、それが自分の眼を曇らせないようにする訓練をしてきた。具体的には常に複眼思考をすることである。


【『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』佐藤優(新潮社、2005年/新潮文庫、2007年)】


 客観性は相反する考えを比較対照することで保たれる。正確な判断には慎重さを要する。エイヤッと力任せで的を狙ったところで当たるわけがない。


 長く外交畑で汗を流してきた佐藤優は、信頼の重みを誰よりも知る人だった。そこは、単なる才覚や勢いで乗り切れるような場所ではない。日本の文化や伝統的な考えが通用しない場面も多かったことだろう。だからこそ、謙虚にならざるを得ないのだ。心を開くとは、相手の話に耳を傾けることである。虚心坦懐でなければ、ただの利害調整で終わってしまう。目的が利害調整であったとしても、その前に人間的な信頼関係が必要となる。


 こうした基本は、国際関係であろうと、人間関係であろうと変わりはない。命と命の周波数が同調し、心と心が共鳴するところに友好が生まれる。正しい情報を正しく受け取れば結合が生まれる。誤った情報を誤って鵜呑みにすれば分断が生じる。スピード社会ではあるが、やはり吟味、斟酌(しんしゃく)、熟考といった作業が不可欠だ。物事を引っくり返して見つめる柔軟性を失いたくないものである。

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

ギャングですら信用するスペンサーの言葉/『スクール・デイズ』ロバート・B・パーカー

 スペンサー・シリーズの第33作目。訳者は逝去した菊池光から加賀山卓朗にバトンタッチ。かなりあっさりした訳文となっている。「心が純粋」といった表現は避けてもらいたいところ。「心が澄んでいる」、あるいは「心が清らか」にすべきだ。でもまあ大過なく仕上がっている。


 私がスペンサー・シリーズを読み始めたのは二十歳(はたち)の時だった。ロバート・ラドラムの『暗殺者』が出た頃だ。もう25年が経過する。


 変わらぬスペンサーの姿と触れるたびに、変わり果てた自分と、まだ変わっていない自分とが行き交う。若い頃ほどの昂奮は覚えないものの、今の方が味わい深く読める。自分の中で曲げてこなかった何かが共振するのだ。


キャッツキルの鷲』に登場したギャングのメイジャー・ジョンソンが出てくる。スペンサーから頼まれて、メイジャーは配下のヤンに引き合わせる。


「こいつが何か言ったら」メイジャーが言った。「それは真実だ」

「あんたがそう言うなら」ヤンがメイジャーに言った。

「信じろ。こいつが何か言ったら、おまえはそれをチャチャ・ファースト・ナショナル銀行に持っていって預けられる」

 ヤンはうなずいた。


【『スクール・デイズ』ロバート・B・パーカー/加賀山卓朗訳(早川書房、2006年/ハヤカワ文庫、2009年)】


 スペンサーの言葉には貨幣と同程度の価値がある(笑)。ロバート・B・パーカーは、まだまだ健在だ。

スクール・デイズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

メールマガジン「片言自在」


 メールマガジンを発行することにした。特に理由はない。ただ、何となく……というのはウソ。紹介した本のテキスト部分だけ集めてみようと思ったのだ。効果は特に狙っていない。名言集、金言集の類いと思ってもらえば、これ幸い。melma!は広告が多いので、E-Magazineで発行することにした。