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2008-12-13

電通過労自殺事件/『自殺のコスト』雨宮処凛


 過労自殺や過労死が示しているのは、「不作為による殺人」といっていいだろう。もちろん、“殺した側”に罪の意識はない。歩いている時に虫を踏んだ程度の罪悪感すらないことだろう。時に会社が社員を殺すという事実を我々はわきまえる必要がある。ある面から見れば、会社は社員の犠牲の上に成り立っているピラミッドであろう。


 91年8月、電通の社員の男性(24歳)が自宅で首を吊って自殺しているのが発見された。

 この男性は、前年、大学卒業と同時に電通に入社。入社してから自殺するまでの1年5カ月、休日は1日もなく、半日有給を取っただけだった。また、4〜5日に1度(ママ)の割合で深夜2時過ぎまで残業し、自殺直前の7、8月については4〜3日に1度は翌日の朝6時半まで残業。睡眠時間は連日30分〜2時間半という状況だった。

 男性の様子がおかしくなったのは91年の春頃からで、自分は役に立たない、人間としてもう駄目かもしれないという言動が見られるようになり、無意識に蛇行運転やパッシングをしたりといった不審な行動、「霊が乗り移った」などといった異常な言動をするようになった。肉体的には顔色も悪く、痩せて顔面に赤い斑点ができ、コンタクトレンズや喉の不調を訴えていた。男性は睡眠不足と過労からうつ病になったものと思われた。

 自殺後、彼の父親は電通に対し、誠意ある対応を求める手紙を出したが電通側は無視。両親は電通を相手取り、従業員への安全配慮義務を怠ったとして総額約1億6300万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。一審判決で東京地裁は電通に約1億2600万円の支払い命令を出したが、電通側は控訴。二審では、自殺した男性の側や両親の側にも一端の責任があると3割が過失相殺され、電通に8900万円の支払い命令が出た。

 その後最高裁は会社側に責任がないとする電通側の上告部分を棄却し、賠償を減額した第二審を破棄、結局差し戻し審で00年6月、電通が約1億6800万円の賠償を両親に支払うこと、謝罪、同様な事故の再発防止の誓約をすることで和解が成立した。

 一審の「常軌を逸した長時間労働が自殺の原因。会社側は社員の健康に配慮する義務を尽くしていなかった」という判決は、過労自殺に対するはじめての司法判断であり、この判決以来、過労自殺の原因は企業にあるという司法判断が相次いだ。

 また、男性の自殺は東京中央労基署によって労災認定された。

 損害賠償が入ってきて、労災認定されて本当に良かったと思わず胸を撫で下ろしたくなるケースだ。実際の過労自殺とはここまで追い詰められた人がするものだ。それにしても、自殺から10年経っての和解である。遺族の怒りと心労はどれほどのものだっただろう。

 だいたい1年9カ月の間に1日の休みもなく、睡眠時間が30分〜2時間半とは、尋常じゃない。朝6時半まで働くことは、果して「残業」だろうか。これはもう、企業が意図的に過労死・過労自殺させようとしているとしか思えない。また、上司は彼の勤務状況を知っていたらしいが、何の措置も取らなかったというのも恐ろしい。

 この裁判で問題となったのは、彼の職場にはタイムカードがなかったので、はっきろとした勤務時間を証明できるものがなかったことだった。電通ではサービス残業が常態化しており、社員は勤務時間を過小評価して申請しているの常だった。彼の勤務時間が明らかになったのは、ビルの管理員巡察実施報告書によってだった。裁判になると会社はサービス残業の存在を否定する。自衛のために自分で出勤時間、退社時間をメモしておくことも必要だろう。「殺人的忙しさ」という言葉があるが、まさに会社の「殺人」が立証された事件である。


【『自殺のコスト』雨宮処凛〈あまみや・かりん〉(太田出版、2002年)】


 社員を殺した上で、遺族には訴訟というリスクを選択させるのだから、電通には血も涙もないことが明らか。こんな企業が広告業界を独占しているのだ。ゴールデンタイムにおけるテレビCMはその全てを電通が牛耳っている。

自殺のコスト

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