2008-12-23
「冬が来た」/『高村光太郎詩集』
奇しくも冬至の日に読んだ。私は道産子なのだが冬が嫌いだ。それは上京してからのことだ。東京には雪が積もらない。それだけで北海道の人々は、東京が南国だと思い込んでいる節がある。
上京したのは21年前の2月14日だった。千歳空港は猛吹雪に覆われ、飛行機は予定時間を過ぎても飛べなかった。私はたった一人で、吹雪の向こう側に孤独を見据えた。東京に何かがあるとは考えていなかった。自分に見切りをつけた青年が、新天地を目指しただけのことだ。
東京は雪がないにもかかわらず寒かった。頼る人もいない大都会が私を嘲笑していた。乾いた空気の中を塵芥(ちりあくた)が我が物顔で飛び交っていた。「お前なんぞの来るところではない」――東京は確かにそう言っていた。
冬が来た
きつぱりと冬が来た
八つ手の白い花も消え
公孫樹(いてふ)の木も箒になつた
きりきりともみ込むような冬が来た
人にいやがられる冬
草木に背かれ、虫類に逃げられる冬が来た
冬よ
僕に来い、僕に来い
僕は冬の力、冬は僕の餌食だ
しみ透れ、つきぬけ
火事を出せ、雪で埋めろ
刃物のやうな冬が来た
【『高村光太郎詩集』高村光太郎(岩波文庫、1981年)】
高村光太郎の第一詩集『道程』に収められたもの。32歳の彫刻家は、冬の厳しさを愛し、鑿(のみ)を振るった。寒さには季節の意志がある。そして、厳寒に耐えた者のみが春の温かさを知るのだ。
20年前の孤独な私が点景となって見える。この詩を読んだ途端、その姿はどんどんと小さくなった。孤独を愛するならば、冬を愛せ。冬は平等だ。冬こそ私の味方だ。
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