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2008-12-27

胸打たずにはおかない人生模様の数々/『日日平安』山本周五郎

 本のタイトルは「にちにちへいあん」と読む。11篇が収められた短篇集。武家もの、人情もの、滑稽もの、推理ものなど、実にバラエティに富んだ内容。四十半ばを過ぎて、しみじみと心に感ずる世界がここにはある。人生の辛酸を舐めた分しか、周五郎の作品は味わえないのかも知れぬ。


城中の霜


 橋本左内の最期を描く。橋本左内に信頼を寄せた牢役人の嘘と、事実を知った左内の仲間が抱く疑惑が見事なコントラストを描いている。亡き左内を想う香苗の言葉が謎を解く。


水戸梅譜


 父子二代にわたる壮烈なまでの忠義。「仕(つか)える」ことは一切を投げ捨て、主君に全てを捧げる人生を意味した。私心を消し去った向こう側に、確固たる生涯の目標がそびえ立つ。


 木村久邇典(きむら・くにのり)の「解説」によると、「『少なくとも戦前の作品は、大部分は破棄してしまいたい』という作者が、『日本婦道記』とともに、これは例外的に残しておいてもよい、とする自信作」とのこと。


嘘アつかねえ


 擦れ違うような出会いを通して、人生の哀感を浮かび上がらせる。貧しくとも、必死で生きる庶民の逞しき姿。屋台の爺さんが見事なアクセントとなっている。


日日平安


 冒頭のやり取りに腹を抱えて笑う。切腹という差し迫った場面が尚のこと笑いを誘う。調子のよい浪人だが、どこか憎めないところがある。


しじみ河岸


 推理もの。貧しい下町の荒(すさ)んだ雰囲気を子供の科白で見事に表している。それでいて笑わせるのだから凄い。「あたしはもう、疲れました。しんそこ疲れきってました」というお絹の言葉が律之輔の胸に突き刺さる。


ほたる放生(ほうじょう)


 ミステリ色の濃い作品。情夫と手を切れない遊女。漂流する男女関係。遊女に言い寄る客。一つの伏線が明らかになるや否や、事態は急変する。


末っ子


 法廷ミステリーのような出だし。主人公に対する一族の評価が証言の如く並んでいる。これがまた一々面白いのだ。特に父親の評価には大笑い。立場によっても評価がまるで異なっている。そして、主人公・平五のあたふたする様子が実に小気味よく、姉の口出しの仕方も絶品。親兄弟と上手くゆかない末っ子が胸に秘めてきた思いが鮮やか。甘酸っぱい恋の話も絡めて、最後はめでたしめでたし。


屏風はたたまれた


 ファンタジーの部類である。それにしても周五郎の多彩な技に圧倒される。


橋の下


 実はこの作品を読むのが目的だった。あらすじはわかっていたのだが、それでも心を打たれる。偶然の出会い。乞食同然の暮らしをしている老人は、淡々と落魄(らくはく)の理由を語った。老人は恋に勝って人生に敗れた。老人は自分を責め、妻もまた己を責めた。「だって、友達だもの」――老人はその友達を裏切った。だが、深き悔恨が人生の何たるかを悟らせた。老人は若侍を救った。傑作である。


若き日の摂津守


 これまたミステリー。スパイものと言ってよし。劇的なラストシーンにカタルシスを覚える。


失蝶記


 陰謀もの。プラス手紙小説。謀略の犯人は「佐幕」という思想であった。


 以上、寸評となってしまったが、物語を堪能したい人は、迷うことなく本書を求めるべきである、と断言しておこう。

日日平安 (新潮文庫)

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