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2008-12-31

パソコンの世界は「死」に覆われている/『安全太郎の夜』小田嶋隆


 ま、進化のスピードが極端に速いってな話だ。本当は宮崎勤の件(くだり)を紹介したかったのだが、本日分のスペースが長大になってしまうため、後日披露しよう。


 真面目な話、有為転変の激しいこの(※パソコンの)世界にいると、つくづく「死」というものについて考えさせられる。

 死が不可避のものであるとしたら、我々の生は、そのまま緩慢な死にほかならないなどと、まだ何もしらなかった学生の頃、私はそういう抽象的なことを考えていたことがあるが、パソコンの世界では、死はもっと具体的にして日常的なもので、犬のクソみたいにそこら中に転がっていた。しかも、ここで私が見てきた死は、緩慢な死どころか、すべて頓死であり、突然死であり、葬式も執り行なわれない、あっけらかんとした不条理な、間抜けな死ばかりであった。

「今日、ママンが死んだ」

 そうだろうとも、ママンは毎日死んでいる。


【『安全太郎の夜』小田嶋隆河出書房新社、1991年)】


「死」を対比、羅列した後で、カミュ(『異邦人』)と来たもんだ。蝶のように舞い、蜂が突然くすぐるような闊達さがオダジマンの魅力だ。


 それでは、2008年はこれにて終了。明年もひとつ宜しくお願い申し上げます。さあて、ウイスキーでもがぶ飲みするか(笑)。皆さん、よいお年を。

安全太郎の夜

キリスト教と仏教の「永遠」は異なる/『死生観を問いなおす』広井良典

 これはめっけ物だった。試合終了間際のスリーベースヒットといったところだ。2008年、最大の伏兵。


 時間という概念から死生観を捉え直そうと試みて、見事に成功している。それにしても、広井良典の守備範囲の広さに驚かされる。最初はモネからだからね。で、マッハ、アインシュタイン、介護なんぞの話も交えながら、キリスト教と仏教に至る。でもって、これがちゃあんとした連環となっているのだ。お見事。


 で、だ。古本屋のオヤジが手放しで褒めるわけがないわな。多分、この人の慎重な性格と誠実な人柄によるのだろうが、文章が時々すっきりしない。文末が曖昧になり、中途半端なリベラル性が頭をもたげている。あと読点も多過ぎる(特に「、と」の多さは目を覆いたくなるほど)。ま、期待を込めて言うなら、著者の思考はまだまだ洗練される余地があるということだ。


 早速、本題に入ろう。大晦日になっても尚、ブログを更新するような人生にウンザリさせられるよ。キリスト教と仏教の永遠は違っていた――


 キリスト教の場合には、「始めと終わり」のあるこの世の時間の先に、つまり終末の先に、この世とは異なる「永遠の時間」が存在する、と考える。さらに言えば、そこに至ることこそが救済への道なのである(死→復活→永遠という構図)。他方、仏教の場合には、先に車輪のたとえをしたけれども、回転する現象としての時間の中にとどまり続けること、つまり輪廻転生の中に投げ出されていることは「一切皆苦」であり、そこから抜け出して(車輪の中心部である)「永遠の時間」に至ることが、やはり救済となる(輪廻→解脱→永遠という構図)。

 念のために補足すると、ここでいう「永遠」とは、「時間がずっと続くこと」という意味というよりは、むしろ「時間を超えていること(超・時間性)、時間が存在しないこと(無・時間性)」といった意味である。(中略)こうした「永遠」というテーマは、そのまま「死」というものをどう理解するかということと直結する主題である。だからこそ、あらゆる宗教にとって、というよりも人間にとって、この「永遠」というものを自分のなかでどう位置づけ、理解するかが、死生観の根幹をなすと言ってもよいのである。


【『死生観を問いなおす』広井良典(ちくま新書、2001年)】


 つまり、だ。キリスト教の永遠は直線の向こう側に存在し、仏教の永遠は輪廻という輪の外側にあるというわけだ。で、どっちにしても「遠く」にあることは確かだろう。手を伸ばして届くようなところに永遠は存在しない。


 そして、永遠の定義が凄い。参ったね。ぐうの音も出ないよ。「超」にせよ「無」にせよ、そこは「比較対象する事象が存在しない世界」になってしまう。結局、認知や認識の外側に“死の世界”が開けているのだろう。


 アインシュタイン相対性理論から考えると、「“自分”という観測者を失った自分」になりそうな気がする。


 例えば、“眠り”は“小さな死”といわれる。私の場合、殆ど夢が記憶に残っていない。そう。夢も希望もない人生なのだよ。で、寝ている間って時間の感覚はないよね。五感だって溶けているような印象がある。「俺は寝ている」という自覚すらない。それからもう一つ。人間は眠る瞬間と起きる瞬間を意識できない。だから、死ぬ時や生れる時はこんな感じではないかと、最近感じている。


 この続きは来年ということで。

死生観を問いなおす (ちくま新書)

政治テロで問題は解決できず/『永遠の都』ホール・ケイン


「人間共和」を謳い上げた名作。同じ時期にユゴーの『九十三年』を読んだが、こっちの方がはるかに昂奮した覚えがある。


「しかし、そのような役目(暴君暗殺)を引き受ける人間はです」とデイビッド・ロッシィはいった。「いかなる個人的な復讐の感情にもとらわれていないことをわきまえていなければなりません」見知らぬ男の手に握られた短刀がふるえた。

「彼は自分のやったことが無意味だったとさとる覚悟ができていなければなりません──よしんば暗殺に成功したとしても、彼は制度そのものではなく、人間を入れ替えたにすぎないこと、配役そのものではなく、役者の首をすげかえたにすぎないと教えられることを覚悟しなければなりません。そして失敗すれば、傷ついた暴君というのは情け無用になり、おびやかされた専制政治が束縛の鎖をしめあげてくるという結果に直面することを覚悟しなければなりません」(中略)「そればかりじゃありません」デイビッド・ロッシィはいった。「彼は自由を愛する真の友人たちから、暴力を行使する人間は自由の名に値しないとされることも覚悟しなければなりません。知力を武器にした戦いこそ人間的なものであり、それ以外の手段に訴える戦いは、けだものの戦いとなんら変わるところがないと──またわれわれは人間であり、したがって人間の武器は知力であって爪や牙でないこと、さらに知力と精神力の勝利をのぞくいかなる勝利も、野蛮で下劣なものであり──それ以外の勝利こそ栄光につつまれたものだとさとされることを覚悟しなければなりません」


【『永遠の都』ホール・ケイン/新庄哲夫訳(潮文学ライブラリー、2000年/白木茂訳、潮出版社、1968年/1901年作)】


 真の雄弁は一人ひとりに向けて放たれる。害意を抱く者まで含めて。そして、時代や国家をも超越して私の胸にまで響き渡る。「言葉の力」ではない。今求められているのは「力のある言葉」だ。


 アメリカのオバマ次期大統領の演説には、人の心を揺り動かす力があった。尾崎行雄弾劾演説は第三次桂内閣を打倒した(大正政変)。桂太郎は8ヶ月後に胃癌のため死亡した。


 国会では国民の理解できない言葉が飛び交い、携帯電話では弱い絆を確認する目的の意味のない会話が繰り返されている。本物の言葉は、深き沈黙を湛(たた)えているものだ。昨今は、不安から逃げ出すための饒舌が氾濫している感がある。

永遠の都〈上〉 (潮文学ライブラリー) 永遠の都〈中〉 (潮文学ライブラリー) 永遠の都〈下〉 (潮文学ライブラリー)

2008年に読んだ本ランキング


 リクエストがあったので、今年読んだ本のランキングを発表しよう。尚、年内いっぱいランキングは更新し続ける予定なので(正式順位は大晦日に確定)、新しい記事は下となってしまうが無視しないでね(今日は12月7日)。それから、便宜的に順位をつけたが、ここに取り上げた作品はいずれも自信をもってオススメできるものだ(今年は軽く200冊以上読んでいる)。読み終えた本のタイトルで検索すると、やたら松岡正剛勝間和代のページがヒットするが、私の方が選球眼は上だと言い切っておこう。正月休みをこれらの本と一緒に過ごせば、来年の運気が上がること間違いなし。


順位書籍
1位ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記レヴェリアン・ルラングァ
2位ユーザーイリュージョン 意識という幻想トール・ノーレットランダーシュ
3位累犯障害者山本譲司
4位青い空海老沢泰久
5位親なるもの 断崖曽根富美子
6位日日平安山本周五郎
7位ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論高橋昌一郎
8位急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則マルコム・グラッドウェル
9位我が心はICにあらず小田嶋隆
10位無資本主義商品論 金満大国の貧しきココロ小田嶋隆
11位香水 ある人殺しの物語パトリック・ジュースキント
12位フェルマーの最終定理サイモン・シン
13位人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるかトーマス・ギロビッチ
14位ブッダは歩むブッダは語る ほんとうの釈尊の姿そして宗教のあり方を問う友岡雅弥
15位蝿の苦しみ 断層エリアス・カネッティ
16位死生観を問いなおす広井良典
17位世界史の誕生岡田英弘
18位あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源フランス・ドゥ・ヴァール
19位数学的にありえないアダム・ファウアー
20位ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたちノーマン・G・フィンケルスタイン
21位国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて佐藤優
22位動物保護運動の虚像 その源流と真の狙い梅崎義人
23位迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのかシャロン・モアレム、ジョナサン・プリンス
24生物と無生物のあいだ福岡伸一
25位複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線マーク・ブキャナン
26位脳はいかにして“神”を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ヴィンス・ローズ、ユージーン・ダギリ
27位進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線池谷裕二
28位山手線膝栗毛小田嶋隆
29位天才の栄光と挫折藤原正彦
30位見よぼくら一戔五厘の旗花森安治
31位パソコンゲーマーは眠らない小田嶋隆
32位仏の顔もサンドバッグ小田嶋隆
33位人類が知っていることすべての短い歴史ビル・ブライソン
34位理性の限界 不可能性・確定性・不完全性高橋昌一郎
35位空の思想史 原始仏教から日本近代へ立川武蔵
36位身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価ガボール・マテ
37位心の操縦術 真実のリーダーとマインドオペレーション苫米地英人
38位反社会学講座パオロ・マッツァリーノ
39位ピーターの法則ローレンス・J・ピーター
40位この大地に命与えられし者たちへ桃井和馬
41位青い虚空ジェフリー・ディーヴァー
42位いのちの作文 難病の少女からのメッセージ』綾野まさる、猿渡瞳
43位武装解除 紛争屋が見た世界伊勢崎賢治
44位カミとヒトの解剖学養老孟司
45位人生を掃除する人しない人桜井章一鍵山秀三郎
46位スピリチュアリズム苫米地英人
47位夢をかなえる洗脳力苫米地英人
48位スクール・デイズロバート・B・パーカー
49位老人介護 じいさん・ばあさんの愛しかた三好春樹
50位老人介護 常識の誤り三好春樹
51位なぜ美人ばかりが得をするのかナンシー・エトコフ
52位「ありがとう」のゴルフ 感謝の気持ちで強くなる、壁を破る古市忠夫
53位還暦ルーキー 60歳でプロゴルファー平山譲
54位12番目のカード』ジェフリー・ディーヴァー
55位がんばれば、幸せになれるよ 小児ガンと闘った9歳の息子が遺した言葉山崎敏子
56位高村光太郎詩集
57位夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン
58位石垣りん詩集
59位イメージを読む若桑みどり
60位新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解くアルバート=ラズロ・バラバシ
61位自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」佐藤幹夫
62位仮面を剥ぐ 文闘への招待竹中労
63位ファストフードが世界を食いつくすエリック・シュローサー
64位ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実フィリップ・ゴーレイヴィッチ
65位問いつづけて 教育とは何だろうか林竹二
66位禁じられた歌 ビクトル・ハラはなぜ死んだか八木啓代
67位テレビ救急箱小田嶋隆
68位官邸崩壊 安倍政権迷走の一年上杉隆
69位安全太郎の夜小田嶋隆
70位かくかく私価時価 無資本主義商品論 1997-2003小田嶋隆
71位「ふへ」の国から ことばの解体新書小田嶋隆
72位精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構エリオット・S・ヴァレンスタイン
73位免疫の意味論多田富雄
74位民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう薬師院仁志
75位子供の「脳」は肌にある山口創
76位テレビ標本箱小田嶋隆
77位生かされて。イマキュレー・イリバギザ
78位遺言 桶川ストーカー殺人事件清水潔
79位壊れた脳 生存する知山田規畝子
80位日本の電気料金はなぜ高い 揚水発電がいらない理由田中優
81位罵詈罵詈 11人の説教強盗へ小田嶋隆
82位偽善系II 正義の味方に御用心!日垣隆
83位貨幣とは何だろうか今村仁司
84位行動経済学 経済は「感情」で動いている友野典男
85位心からのごめんなさいへ 一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦品川裕香
86位不肖・宮嶋 メディアのウソ、教えたる!宮嶋茂樹
87位でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』福田ますみ
88位セックスボランティア河合香織
89位病気はなぜ、あるのか 進化医学による新しい理解』ランドルフ・M・ネシー&ジョージ・C・ウィリアムズ/長谷川眞理子、長谷川寿一、青木千里訳
90位共感覚者の驚くべき日常 形を味わう人、色を聴く人』リチャード・E・シトーウィック
91位唯脳論養老孟司
92位メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学松永和紀
93位メディア・コントロール 正義なき民主主義と国際社会ノーム・チョムスキー
94位無境界の人森巣博
95位男らしさという病? ポップ・カルチャーの新・男性学熊田一雄
96位自閉症の子どもたち』酒木保
97位知的好奇心波多野誼余夫稲垣佳世子
98位祖国とは国語藤原正彦
99位完全図解 新しい介護』大田仁史、三好春樹
100位黒体と量子猫』ジェニファー・ウーレット
101位一日一書石川九楊
102位〈狐〉が選んだ入門書山村修
103位人間ブッダ』田上太秀
104位セブン-イレブンおでん部会 ヒット商品開発の裏側吉岡秀子
105位読者は踊る タレント本から聖書まで。話題の本253冊の読み方・読まれ方斎藤美奈子
106位翻訳語成立事情柳父章
107位無限論の教室野矢茂樹
108位「量子論」を楽しむ本 ミクロの世界から宇宙まで最先端物理学が図解でわかる!佐藤勝彦
109位霊はあるか 科学の視点から』安斎育郎