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2009-02-02

学問への情熱が明治維新を導いた/『勝海舟』子母澤寛


 20年以上前に読んだ。勝父子のべらんめえ調が小気味よかった。まさかその後、東京の下町に住むとは思わなかった。私が過ごした亀戸(江東区)は、勝海舟が生まれた本所(墨田区)に近いところだった。子母澤寛は北海道の厚田村出身にもかかわらず、よくぞここまで江戸の雰囲気を表せたものだと感嘆した覚えがある。


「先生、わたしゃあ、もう一度、最初(はな)っから学問をやり直す」

「え、なんだとえ」

「いや、どうも、今日まで、本当に本を読む肚が定まっていなかったようだ、いや定まっていたかも知れないが薄っぺらであったようです。もう一度、一歩一歩、しっかりと大地を踏むように本を読み直して見る考えです」


【『勝海舟子母澤寛(日正書房、1946年/新潮文庫、1968年)以下同】


 明治維新期の学問に観念の印象がないのは、教えを乞うための行動力と、印刷技術が未発達であったため書写という身体性を伴っていたからであろう。知識への渇望はじっとしていることを許さない。「学問」が「生きざま」に直結していたとも言える。


「今日、開成所で妙な噂がありましたよ」

「学問もせずに、噂なんぞばかりしてやがるのかえ」


 学ぶ精神はもとより、欧米に対する遅れの実感が巧みに表現されている。そして江戸っ子はすばしっこくて、短気だ。地方からの移住者が多い江戸は、当時も生き馬の目を抜くようなスピードに満ちていたことだろう。


 勝海舟は偉大なる調停者であった。何にも増して嘘がなかった。だからこそ、西郷隆盛との談合も上手くいったに違いない。

勝海舟 (第1巻) (新潮文庫) 勝海舟〈第2巻〉咸臨丸渡米 (新潮文庫) 勝海舟 (第3巻) (新潮文庫)


勝海舟 (第4巻) (新潮文庫) 勝海舟〈第5巻〉江戸開城 (新潮文庫) 勝海舟〈第6巻〉明治新政 (新潮文庫)

「ブードゥー教の呪いで人が死ぬ」ことは科学的に立証されている/『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン

 これは、脳機能によるものと個人的に考えている。多分、「これ以上生きてはいけない」というスイッチが入ってしまうのだろう。時に思想が人を殺すという例証である。


 生理的変化の原因として、心理社会的要因も重要であることを認めない人は、次のような例をどう説明するのか。ユダヤ教徒(あるいはイスラム教徒)たちは豚肉を食べることが禁じられている。敬虔なユダヤ教徒(あるいはイスラム教徒)が知らずに豚肉を食べ、何時間もたってから、それがなんと禁じられている豚肉だったと知らされると、身体に激しい異変が生じるという。また、「ブードゥー教の呪いで人が死ぬ」ことも、立証されている。ハーバード大学の著名な生理学者ウォルター・キャノンがこれを研究し、のちにジョンズ・ホプキンズ大学の心理生物学者のカート・リクターも調査した。ブードゥー教の信仰が行われている国では、いたって健康な人でさえ、呪いが自分にかけられたことを知ると、衰弱して死に至るということが実際に起きる。


【『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン/功刀浩〈くぬぎ・ひろし〉監修、中塚公子訳(みすず書房、2008年)】

精神疾患は脳の病気か?―向精神薬の科学と虚構