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2009-02-03

文学性の薫り高い硬質な警察小説/『あなたに不利な証拠として』ローリー・リン・ドラモンド


 はっきり書いておくが、プロットが私の好みではない。それでも読ませられた。しかも一気にだ。硬質な透明感に包まれた文章。警句を思わせる一行。文体としてのハードボイルド。元警察官だけあって、細部という細部が生き生きと描かれている。これがデビュー作というのだから凄い。


 アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短篇賞を受賞しているが、ミステリという枠にはまるような代物ではない。警察を舞台にした文学作品といった趣。5人の婦人警官が主人公の10篇の物語。ま、とにかく読んでごらんなさいよ。


 掃除という単純作業には、目の前のことだけに打ち込むという美点がある。最小限の努力で最大限の成果を得られる、進み続けるべき正道だ。銃や制服の手入れもそうだろう。いちばんいい道具を買って、必要と思う異常にまめに手入れする。3ヵ月ごとに銃弾を取り替え、豚毛の歯ブラシを使う。安物の銃掃除キットは買わない。良質のガンオイルと亜麻布に大金をはたく。古いTシャツで――まちがってもペーパータオルなど使わない――靴の泥汚れを拭き取ってから綿のボロ布で皮革専用石鹸を塗り、そのあと靴墨に自分の唾液を混ぜ、それを柔らかい高級ブラシで靴全体にまんべんなくのばし、ぴかぴかに磨き上げる。真鍮(しんちゅう)磨き剤をほんの少しだけ――多いと緑色になってしまう――上着のボタンや、バッジや、名札や、優秀射撃手章や、署記章につける。没頭すれば時間を忘れる。自分も忘れる。自分がただ作業するだけの存在に感じられる。


【『あなたに不利な証拠として』ローリー・リン・ドラモンド/駒月雅子訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2006年/ハヤカワ文庫、2008年)】


 一瞬、大藪春彦を思い出した(笑)。時折、女性らしい視点が現れ、ハッとさせられる。それぞれの女性が心に傷を負いながらも、自立し、懸命に生きている。日本女性みたいにジメッとしていない。乾燥した空気のような軽やかさがある。


「揺れる女の自我」を見事に描いていて、傑作。

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫)

(※左がポケミス、右が文庫本)

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