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2009-02-08

服従心理のメカニズム/『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス

 あのミルグラムである。服従実験で社会心理学の有効性を証明し、放置手紙法によってスモールワールド現象を明らかにしたミルグラムだ。ユニークな発想と巧妙な実験法が群を抜いている。アイディアマン。あるいは知能犯。

 そしてミルグラムの研究が出版された1963年までには、ナチスが行った恐ろしい行為に関する研究がすでにたくさん発表されていた。そのなかで、彼の研究が特筆すべきものとなったのは、実験室における科学的な研究手法を使って、当時は実現不可能であるかに思えた二つの目標を達成したからである。一つは、冷静な分析をするのが難しいテーマに、ある程度の客観性(他の方法と比較しての話だが)を持ち込んだこと。もう一つは、破壊的な服従がごく日常的な場面においても起こりうることを示したこと。そのため、この実験を知った人は、その実験が示す望ましくない情報を自分とは無関係なものとして切り捨てることが難しくなったことである。


【『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス/野島久男、藍澤美紀訳(誠信書房、2008年)以下同】


 Wikipediaには「『アイヒマンとその他虐殺に加わった人達は、単に上の指示に従っただけなのかどうか?』という質問に答えるため」に実験が行われたとあるが、本書にそのような記述はない。ソロモン・アッシュの下(もと)で同調行動の実験を行っていたミルグラムが、服従実験を思いつくのは自然な流れであろう。


 権威ある人間からの合法的な命令であると思いさえすれば、それがどんな命令であっても、良心の呵責に苦しむこともなく、非常に多くの人が、言われたとおりに行動をしてしまう……。

 私たちの研究の結果から得られる教訓は、次のようなものである。

 ごく普通に仕事をしている、ごく普通の人間が、特に他人に対して敵意を持っているわけでもないのに、破壊的な行為をする人たちの手先になってしまうことがあり得るのである。


 ──スタンレー・ミルグラム、1974年


 この映像は時折テレビで紹介されている。サクラである「学習者」は事前に心臓が悪い旨を伝え、電気ショックを与えられるたびに大声で叫ぶが、殆どの被験者は指示通りに電圧を上げ、更に驚くべきことにクスッと笑っていた。


 服従のメカニズムは日常生活のそこここに存在する。例えば会社内のルールは、世間の常識とは全くの別物だ。営業マンに人権はない。給料の額を天秤にかけて、服従レベルとのバランスを保っている。そう。ダブルスタンダード


 人間は所属するコミュニティの数だけルールを有している。組織という組織は、序列という秩序によって構成されている。例えば泥棒の集団があったとしよう。このコミュニティにおいては「盗む」ことが「正しい」ことになる。組織においては、上司に額づくことが正しい価値となるのだ。「善」が不変であるのに対して、「正義」はコロコロ変わるってわけだ。


 淫祠邪教やマルチ商法の類いは決してなくなることはない。そこに集うのは「特殊なルール」に従っているだけの善良な人々である。相対的な批判力を欠いた人が存在する限り、権威という怪物は無理難題を吹っかける。結局、権威を支えているのは沈黙であることが明らかだ。

服従実験とは何だったのか―スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産

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