古本屋の覚え書き このページをアンテナに追加 RSSフィード


WWW を検索 古本屋の覚え書きを検索

2009-03-08

ロベール・ドリエージュ、スタンレー・ミルグラム


 2冊読了。


 33冊目『ガンジーの実像』ロベール・ドリエージュ/今枝由郎訳(白水社文庫クセジュ、2002年)/アンベードカルの本しか読んでなかったので、平等を期すために読んた。ガンジーという偶像を破壊するには十分な内容。前半はガンジーの生涯で、後半は思想についてまとめられている。紙数が足りないせいか、アウトラインをなぞったような代物だが、コンパクトでわかりやすい。ただし、ガンジーの思想については、ヒンドゥー教の改革者であることはわかったが、思想の中味がよくわからなかった。アンベードカルにも少し触れているが、分離選挙に関して踏み込んだ考察は皆無。文庫クセジュは紙質が悪い。


 34冊目『服従の心理スタンレー・ミルグラム山形浩生訳(河出書房新書、2008年)/昨年の11月に刊行された新訳。山形浩生とは相性が悪いので恐る恐る読んだ。多分、原文が優れているのだろう。すんなりと読めた。初めてのことである。気になったのは「真逆」くらいか。言葉のセンスを疑う。それと、「蛇足」と題された文章が見事な蛇足となっている。本書の内容は文句なし。これほど面白いとは思わなかった。ミルグラム服従実験は多くの著作で引用されているが、結論部分を引っ張り出しただけのものであることがわかった。それにしても、ミルグラムのアイディアは恐ろしいほどだ。様々な実験パターンを用意して、服従心理のメカニズムを明らかにしている。被験者との生々しいやり取りも緊迫感に満ちている。まるで、映画の台本のようだ。尚、300ページ余りで3200円という値段は高いが、これは紙質が良いため。河出書房新社の意気込みが窺える。

TopHatenar

  • 購読者数:7967位/113897人(上位7.7%以内)
  • ブックマーク数:4669位/113897人(上位4.14%以内)

宇宙人に誘拐されたアメリカ人は400万人もいる/『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング

 アメリカには色々な人がいる――


 理性的で科学的な考えのもとに築かれていると自負してはばからないアメリカ社会においても、じつに国民の17パーセントは幽霊を見たことがあると言い、10パーセントが悪魔と話したことがあると言い、そしてなんと400万人が宇宙人に誘拐されたことがあると告白しているという。超常現象は今の時代も健在なだけでなく大きなビジネスになっているという事実は、あらゆる雑誌に星占いのコーナーがあること、新聞の心霊相談の広告、地球は七日で創られたとする創造説の人気、大企業がダウジング(訳注 振り子や棒を使って水脈などを探し当てる方法)は風水専門のコンサルタントを雇っていることなどを見れば一目瞭然だ。1986年にフィラデルフィアの陪審員が出したある判決は、疑り深いアメリカ人にとっては本当にショッキングだった。大学の医学部でCTスキャンを受けたときに霊能力にダメージを受けたと主張した女性に、90万ドルを超える損害賠償金が支払われることになったのだ。彼女の主張は、「専門的」な立場から証言を行なった医師に支持されたという。


【『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング/有沢善樹、他訳(アスペクト、2004年)】


 不思議大好き、ってところか。事実とは「脳の解釈」であるとすれば、彼等にとってはきっと“事実”なのだろう。その実体は、キリスト教思想に対する反動ではあるまいか。つまり、理性では聖書を信じながらも、承服できない感情を抱えているのだ。ジレンマ。


 もっと極端に言ってしまえば、いびつな思想が奇妙な体験を求めてしまうということなのだろう。江原啓之とかが好きな人も同類だ。

本当にあった嘘のような話 (アスペクト文庫 B 19-1)

少年兵は自分が殺した死体の上に座って食事をした/『戦場から生きのびて ぼくは少年兵士だった』イシメール・ベア

 レヴェリアン・ルラングァは被害者の立場からルワンダ大虐殺を書いた。イシメール・ベアは被害者であり加害者でもあった。シエラレオネ――世界で最も寿命が短い国。12歳で戦乱に巻き込まれた少年は何を見て、何をしたのか――


 弾薬と食べ物のある小さな町を襲いに行く途中だった。そのコーヒー農園を出てすぐ、廃墟となった村のすぐそばのサッカー場で、別の武装集団と鉢合わせした。敵方の最後の一人が地に倒れるまで、ぼくらは撃ちまくった。そしてハイタッチを交わしながら、死体のほうに歩いていった。向こうの集団も、ぼくらと同じように幼い少年ばかりだったが、そんなことはどうでもよかった。やつらの弾薬を奪い、その死体を尻に敷いて、やつらが持ち歩いていた糧食を食べはじめた。あたり一面、死体から流れ出た血の海だ。


【『戦場から生きのびて ぼくは少年兵士だった』イシメール・ベア/忠平美幸訳(河出書房新社、2008年)】


 イシメール・ベアは政府軍に参加していた。そこには何がしかの大義名分がありそうなものだが、読み進むうちに大差のないことが明らかになる。政府軍も反乱軍も少年達を薬物漬けにして、殺人へと駆り立てた。


 血まみれの死体は、生きているうちからモノと変わらなかった。憎悪は人間を単なる標的にする。そして暴力が感覚を麻痺させる。


 彼等は誤った政治のもとで、誤った教育を受けたとも言える。子供は教えられれば、英知を発揮することも可能だし、殺人マシーンと化すことも可能なのだ。


 それにしても、西欧の植民地として散々蹂躙されたアフリカの傷は深い。キリスト教に巣食う差別主義の恐ろしさを改めて思い知らされる。

戦場から生きのびて ぼくは少年兵士だった