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2009-08-11

獄中の極意/『アメリカ重犯罪刑務所 麻薬王になった日本人の獄中記』丸山隆三


 丸山隆三は派手なカーチェイスの末に逮捕された。アメリカでのこと。バブル前夜ともいうべき時期に、彼は外車の並行輸入を手掛けて、これが当たった。懐が温かくなると悪い友達が群がるようになる。そして転落の人生が幕を開けた。麻薬売買の仲介者(フィクサー)となったのだ。


 本業で儲けている上に、仲介手数料はうなぎ上りに入ってくる。一時期は年収が10億円を超えていたというのだから凄い。しかもアングラマネーだから銀行へ預けるわけにいかない。当然の如く湯水のように使うこととなる――


 このころは、毎日稼いで毎日使っていた。稼いだ以上に使って、使った以上に稼いだ。

(なんだか、馬鹿な競争をしているみたいだな……)


【『アメリカ重犯罪刑務所 麻薬王になった日本人の獄中記』丸山隆三〈まるやま・たかみ〉(二見書房、2003年/ルー出版、1998年『ホテルカリフォルニア 重犯罪刑務所』を加筆訂正)以下同】


 中々書ける文章ではない。使いっぷりも凄まじい内容である。アメリカでは1ドル紙幣をたくさん持っていると「ヤクの売人」だと思われるため、丸山は1ドル紙幣を嫌った。ある時、貯まりに貯まった1ドル紙幣をバッグに詰めて、海辺で燃やした。そんなエピソードまで紹介されている。


 丸山は、幾度となくクスリに汚染されたアメリカを糾弾している――


 拘置所では、7〜8割の人間が麻薬の虜になっていた。麻薬中毒者は確かに人間のクズかも知れないが、塀の中で、半ば公然と麻薬を売っているのは公務員たるシェリフたちなのだ。これでは、どちらが人間のクズかわかったもんじゃない。


 そんなアメリカの刑務所で丸山は「ゴッド・ファーザー」と渾名(あだな)されるまでに上り詰める。この本は獄中体験記なんだが、秀逸なビジネス書のような趣がある。結果的に、「異なる文化の中で、どのように自分をプレゼンテーションするか」というモチーフになっているのだ。


 丸山がいた刑務所はレベル4で、最も厳重な態勢が布かれている。ここは、看守が警告なしで銃を撃っても構わない場所だ。実際、いたずら半分で射殺される囚人もいるとのこと。そして、塀の中にいるのは命知らずの面々だ。


 まずはルールを覚える必要がある。これを破ると殺される危険性が直ぐ現実のものとなる。次に刑務所内の力関係を知る。そして、利用できる人や物は全て利用する。更にそこから人脈を拡大してゆく。


 例えばこんな話が書かれている。「煙草を一本貸して欲しい」と一人の男が寄ってくる。「一本ぐらい……」と思って返してもらわないでいると、今度は別の男が寄ってきて「俺にも一本貸してくれ」となる。これが、あっと言う間に広がるというのだ。そこで渋ると、直ちに制裁が加えられる。「あいつに貸して、なぜ俺には貸せないのか」と。紹介されている人物は案の定、カモにされ続け、挙げ句の果てに袋叩きにされている。


 犯罪者は身体能力が秀でている。これは運動神経がいいという次元のことではなく、彼等が身体を張って生きていることに起因していると思う。犯罪者は常に現場で学んでいる。不測の事態が起こりやすい現場に身を置くと、勘が研ぎ澄まされてくる。彼等には独特の身のこなし方がある。


 人間は塀の外で自由に暮らしているときには、自分のことをふり返ってみないし、わかろうとしない。自分の中にもうひとりの自分がいて酷使されていたり、粗末にされていても気がつかない。刑務所は周りから完全に遮断されているからそれがわかる。ひとりになると、自分の中の魂と対話するしかない。簡単にいうと、自分を助けてやることができるのは自分しかいないのだ。とことんまでつきつめて考えると人は変わる。俺は変わった。


 丸山を救ったのは一人の女性であった。出会った頃、彼女はウェイトレスだった。歌が好きだった。丸山は金に物を言わせて大物プロデューサーに曲を作らせた。彼女はプロデビューを成し遂げた。丸山はこの女性を妹のように大事にした。男女の関係はなかった。この女性というのが歌手のマリーンである。


 マリーンの存在は、名画に描かれる美少女の如く綴られている。丸山のささくれだった人生に人間の温もりを与えたは、心清らかなウェイトレスだった。


【※本書を知ったのは、村西とおる監督のブログ記事「人間関係の方程式 P=R+A」を読んでのこと】

アメリカ重犯罪刑務所―麻薬王になった日本人の獄中記 ホテルカリフォルニア 重犯罪刑務所

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