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2009-08-27

不可触民の少女になされた仕打ち/『不可触民 もうひとつのインド』山際素男


 私はタゴールの言葉を想った。「人間の歴史は、侮辱された人間が勝利する日を、辛抱づよく待っている」――。


 で、「侮辱された人」って誰のことなんだろうね? タゴールはマハトマ・ガンディーらのインド独立運動を支持していた。とすると、イギリス支配下のインドにいた上流カーストあたりを意味しているのかもしれない。


 ガンディーの尊称である「マハトマ(偉大なる魂)」は、タゴールが付けたという説がある。ガンディーは確かにインド独立を勝ち取ったが、カースト制度を終生にわたって支持した。彼は偉大なる魂ではなく、“偉大なる下半身”の持ち主だろう。ガンディーは晩年、若い女性を同衾(どうきん)させることを常としていた(※自分が性欲に打ち克つことを証明するために)。


 では、ガンディーが死守しようとしたカースト制度は、不可触民に対してどのような仕打ちをしてきたのか――


「わしの姪っ子二人は、この近くの村にいます。

 上は16、下は14です。二人ともまだ嫁入り前の生娘(きむすめ)だった。

 地主のところで畑仕事をさせてもらっていました。気立てのええ働きもんでの、地主も重宝がってくれとった。

 あれらの日当は、よそより低かったのが不満での。1日、3ルピーさ。いまどきよそはどこでも4ルピーは払うとるよ。

 上の娘は負けん気だったでの、地主に半ルピー(15円)でええから、日当を増やしてもらえんかって頼んだのじゃ。

 地主はまるっきり取り合ってくれなんだ。

 それで娘は、4ルピーで他に働くところはいくらもある、というたそうな。

 その一言が、地主の癇(かん)にさわったのじゃ。

 いきなり、もっとった杖で娘をひどく殴ったら、その娘が怒って、もうあんたんところでは働かん、いうたんだじゃよ(ママ)。

 他に人がいる前じゃったのが悪かったのよ。

 地主は、生意気な小娘じゃ、いうて、手下に命じて、上の娘を素裸にむいて、木にくくりつけた。そして木の枝で散々ぶったんじゃ。

 見物人が集まっての、面白そうに笑って見ておったそうな。だれも助けてくれるもんはおらん。みんな地主を怖れておるし、不可触民の娘なぞいい慰めにしか思うておらんでの。

 地主の家の若いもんが興がって、くくりつけられとるその娘の股倉に棒を押しこんだりはじめた。周りがもっとやれとけしかけ、娘のアソコに棒をムリヤリ突っこもうとしたんだ。

 娘は厭(いや)がってあらがったよ、当たり前じゃ。嫁入り前の小娘に、そんなむごい悪戯(いたずら)をしてええもんかの。娘があんまり暴れるんでロープがゆるんで、娘の足が運悪く、その若いもんの顔に当ってしもうた。

 男は大声で“不可触民がオレの顔を足げにした”とわめきおった。

 周囲は益々面白がって、懲(こ)らしめろ、見せしめにしろ、と騒いだ」

 老農夫は、そこでつばをぐっと呑みこみ、眼を光らせた。

「そいつはあんた、家の鍛冶場(かじば)から真赤な鉄火箸を持ってきて――。

 娘の、アソコにぐいと突っこんだのじゃ。怖ろしい悲鳴を上げて娘は気を失ってしまった。下の娘も気が違うなってその場に倒れてしもったのです。

 可哀そうに、上の娘は家でも病人ですじゃ。人相もなにも変ってしもうた。一生、嫁にもいけん体にされてしもうて――。

 あんた、たったの半ルピーで、どうしてあのような目にあわされんねば ならんのです」

「カーストヒンズーたちは、わしらを慰みもんにして楽しんどるだ」

 その言葉にホールの中の顔が一斉に頷いた。目の前の“母親”も、何度も深く頷いた。

「あいつらの一番の楽しみは、弱いもん苛(いじ)めなんじゃ」別の声がいった。


【『不可触民 もうひとつのインド』山際素男〈やまぎわ・もとお〉(三一書房、1981年/光文社知恵の森文庫、2000年)】


 私の中に怒りは湧いてこない。ただ、静かなる殺意が確固たる形を成すだけだ。法で裁くなどと悠長なことを言っている場合ではない。「速やかに殺害せよ」と私のDNAが命令を下す。宗教だとか文化だとか言語の違いは全く関係ない。罪もない少女にこんな仕打ちをするような手合いは人類の敵なのだ。


 この文章が恐ろしいのは、まず娘の惨状を傍観している親がいて、それを傍観している著者がいて、更に傍観する読者が存在するという点に尽きる。何層にもわたる傍観が、ともすると無力感へと導こうとしている。「どうせ、お前は何もできないだろう?」という問いかけが、「何もできなかった」という事実と相俟(ま)って私から力を奪おうとする。


 結局、ガンディーが守ろうとしたのは、上流カーストが不可触民を虐待する権利だったってわけだ。結果的にそう言われてもガンディーは反論のしようがあるまい。


 人類が犯してきた数多くの虐殺の歴史が教えているのは、「沈黙していれば殺される」という事実である。だから私は、殺される前に殺すことは罪にならないと考える。これは正当防衛なのだ。


 極論かもしれないが、私は人種差別者は死刑に処すべきだと本気で思っている。なぜなら、明日以降「殺されるために生まれてくる人々」による正当防衛であると信ずるからだ。差別とは「相手を殺す」思想に他ならない。


 私は歯ぎしりしながら、自分にできることを淡々と行う。そして、自分にできる範囲を少しでも広げてゆく。そうでなければ、生きている甲斐がないから。

不可触民 もうひとつのインド 不可触民―もうひとつのインド (知恵の森文庫)

(※左が単行本、右が文庫本)

ダイハツ東京


 集合ポストに同じチラシが三つも入っていたよ。しかも、ビニール袋入りで。ダイハツ東京が委託しているチラシ配付業者は三流会社のようだ。「夏だ、海だ、ドライブだ!」という文字が躍っているが、もう秋ですよ。

ジョージ・アームストロング、小松美彦、森沢典子


 2冊挫折、1冊読了。


 挫折51『ロスチャイルド世界金権王朝 極世界支配の最奥を抉る!』ジョージ・アームストロング/馬野周二〈うまの・しゅうじ〉監訳(徳間書店、1993年)/陰謀モノだった。陰謀論はいつも思い詰めている。思い詰めているから一つのストーリーしか想像できない。そして、全ての情報を一つのストーリーに無理矢理はめ込んでしまうため窮屈で仕方がない。イルミナティを出すのが早すぎる(笑)。もっと思わせぶりに描くべきだ。馬野周二という人物を初めて知った。100ページほどで挫ける。


 挫折52『死は共鳴する 脳死・臓器移植の深みへ』小松美彦〈こまつ・よしひこ〉(勁草書房、1996年)/この人は論者だと思う。文章に締まりがない。多分、いい内容だとは思うが性格が合わないと判断した。


 104冊目『「パレスチナが見たい」』森沢典子(TBSブリタニカ、2002年)/これはよかった。パレスチナ入門として最適。幼稚園教諭の著者が、突然パレスチナ行きを断行する。それもたった一人で。現地で広河隆一を訪ねるが基本的に一人だ。3週間の旅で森沢が見たのは、非道極まりないユダヤ人と静かに抵抗し続けるパレスチナ人の姿だった。ここに書かれているのは、「普通の人の視線」に映ったパレスチナの一部である。それゆえ、パレスチナの日常風景といってよい。森沢の筆致は慎重かつ丁寧で、自省が込められている。いたずらに、イスラエルを糾弾する姿勢は微塵もない。その森沢の悲痛な思いを汲んだとしても、私は反ユダヤ主義にならざるを得ない。真のヒューマニズムは必ずや反ユダヤ主義を志向する。